天才王子の赤字国家再生術   鳥羽徹(GA文庫)



悠々自適の隠居生活を目論む売国奴な天才王子による予想外だらけの弱小国家運営譚。
大枠としては戦争あり内政外交ありな国家運営ものですね。そこにコミカルな勘違い要素も加わっており
難事に対し、外面は鷹揚に構えながらも内心は焦りまくりという主人公のギャップが面白い。
売国目指して策を弄するも、毎度悉く失敗し結果として国家的な成功を得てしまう一連の流れも笑えます。
話のテンポも良いですし、本来シリアス一辺倒になりがちなジャンルをコミカルに描いている手腕は見事の一言。
ラブコメ面は今のところ進展なし。メインヒロインのニニムを一番大事にしているのは間違いないようですが…

主人公は資源も人材も兵力もない弱小国家ナトラを背負うことになった若き王子。
文武に秀で、臣下からの信頼も厚いが、その優秀さゆえに自国のダメっぷりを誰よりも理解しており
それゆえに王様業をやる気がなく、穏便な売国を経ての悠々自適な隠居生活を目論んでいる。
素は義務、責任、努力といった言葉が大嫌いで、怠惰と睡眠を好む駄目人間。
警戒心が強く、悲観的な考え方が強いが、物事が上手くいき始めると調子に乗ってしまうタイプ。
自身の筆頭補佐官であり幼馴染のニニムを自分の心臓と公言するほどに信頼しており
他の事ならば基本的に軽く流すが、彼女を侮辱する者は残らず殺すと決めている。

ヒロインは幼馴染な補佐官、聡明な第二皇女、情が深い侯爵令嬢、お転婆な隣国王女。
一番のお気に入りは主人公の筆頭補佐官にして側近中の側近である幼馴染、ニニム・ラーレイ。
美しく透き通るような白い髪と、燃えるような赤い瞳が特徴的な美少女。
補佐官としての能力はかなり優秀で、幼い頃から王家に仕えていることから、二人きりの時に限っては
王子である主人公に対しても遠慮のない言動をとっているが、最終的に彼の決定に逆らうことはない。
常に感情の起伏を表に出さず、クールな態度を崩さないが、主人公のことは大切に想っており
朝を告げる際、眠る彼の横でしばし時を過ごすことをたまに行う贅沢としている。
自分の胸部が貧弱であることを気にしており、それをからかわれると怒る。

現時点(十二巻)においての評価はC。
面倒事を好まず国家運営から降りて平穏無事な生活を願っているのに、想定外の事態に振り回されて
本意ではない名君の道を歩まされてしまう主人公の姿が気の毒ながらも愉快にして痛快。
この手の話にしては珍しく、主人公がきちんとスペック的に有能であることもまた良いアクセントになっています。
腹心にして、唯一素を出すことができる相手である幼馴染との気の置けない掛け合いもグッド。
本筋は自国に内乱の兆しが見える中、主人公の死の報告が大陸中を駆け巡り、最大の動乱へ。