ぼくたちのリメイク   木緒なち(MF文庫J)



いま何かを頑張っているあなたの為にある青春作り直しストーリー。
大枠としては逆行ものですね。といっても大きな悲劇の運命を覆すため、あるいは世界の滅亡を防ぐため
といった大仰な背景はなく、ある日突然過去に戻った主人公が青春リメイクのために懸命に奔走する。
それだけの物語になっています。勿論、主人公という異物による変化は当然発生するため
次々と起こる各主要キャラのルート分岐っぽいイベントには毎回ハラハラしてしまいますが。
ラストはアメリカで成功をおさめ、帰国した青年は愛しい人と、そして仲間たちと再会を果たすのだったエンド。
ラブコメ的にはメインヒロインの志野亜貴と結ばれて終了。

主人公は突然十年前にタイムスリップし、憧れていた芸大生として学生生活を送ることになった青年。
タイムスリップ前の世界では潰れかけのゲーム会社に務める二十八歳ゲームディレクターだった。
仕事の穴埋めばかりしていた経験から調整能力に優れており、各方面における一通りの知識も備えている。
良く言えば物腰穏やかで責任感が強く、悪く言えば押しに弱く何でも一人で背負い込んでしまう性格。
その一方で、一度火が付いた時の行動力とリーダーシップには目を見張るものがある。

ヒロインは絵描き好きな同回生、歌好きな同回生、意識高き同回生。
一番のお気に入りは絵を描くことが好きな福岡出身の同回生、志野亜貴(通称シノアキ)
タイムスリップ前の世界では超有名女性イラストレーターとして名を馳せ、個展すら開いていた。
中学生くらいに見える幼い顔立ちと体格、そしてそれらとは裏腹に大きな胸が目を惹く美少女。
おっとりしていてマイペースな性格をしているが、中身は大人びており、包容力のあるお母さん気質。
一度絵を描くことに集中し始めると他のことが一切気にならなくなってしまう。

評価はB。
あの頃に戻って人生をやり直すことができたら。そんな誰もが一度は考えたことがあるであろうIFが
現実となってしまった主人公による、熱のあるリメイク模様が実に青春といった感じでグッド。
まあ、同時にある程度以上の年齢を重ねた読者(私とか)には色々な意味で突き刺さるものもありましたが。
キャラに関しては、自分を卑下することが多くはあるものの、何気にかなり有能な主人公が頼もしかったです。
常に誰かのために一生懸命、でも逆行前は不遇の人生。だからこそ報われてほしいと応援したくなりました。
そんな彼の周囲を彩るヒロインたちも、それぞれの立ち位置で甲乙つけがたい魅力を発揮していましたしね。
それゆえに最後の選択で振られたヒロイン二人の姿は見ていてつらかったですが…
本筋は「ものづくりとは」「リメイクとは」といった作品の主要テーマを過不足なく、そして見事に消化し
その上でラノベらしさを損なわない程度のリアリティを加えたハッピーエンドと、らしい大団円で大満足。
あえて言うなら、主人公の逆行現象についての謎の大半が明かされないまま終わってしまったことが
消化不良ではありますが、まあここにこだわるのは野暮ということなのでしょう。