魔王学院の不適合者 秋(電撃文庫)
二千年の時を越え、偽りの魔王から世界を解き放つリベレーション・サーガ。
エリート魔族のみが通う学校、同一世界内での時を越える転生、最強の魔王、最底辺からの大躍進。
と浪漫心をくすぐられる設定の数々が素敵。主人公もこの手の設定でよく見かける「自分の強さに無自覚」
であったり「事情があって実力を隠している」ということもなく、思うがままに無双の実力を発揮してくれるので
フラストレーションがたまることがなく、爽快で圧倒的なカタルシスが楽しめます。
ラストは憎悪に狂った友を打倒。そして二千年後、魔王学院で不適合者は仲間たちと再会を果たすのだったエンド。
ラブコメ的には進展がないまま終了。
主人公は人を、精霊を、神々すらも滅ぼしながら、延々と続く闘争に飽き、平和な世の中を夢見て
二千年後の世界に転生し、魔王の生まれ変わりと目される者を集めた魔王学院に入学した暴虐の魔王。
魔王らしく傲慢で何者にも媚びない王者気質の持ち主だが、決して悪人というわけではなく
度量も大きいため、怒りを見せることはない。一方で、情け不要な敵には容赦のなさを見せる厳しい面も。
根は平和主義者で、必要とあれば殺すが、殺す必要がなければ殺さない、という考え方。
二千年の時代の差ゆえに、世間知らずで常識外れな言動をとることが多く、常に周囲を驚愕させている。
ヒロインは勝気&寡黙な双子姉妹。サブにボクっ娘勇者、妹になった神、ファンクラブなども。
一番のお気に入りは魔族を統べる魔皇老の家系に連なる双子の妹、ミーシャ・ネクロン。
長く伸びたプラチナブロンドの髪に蒼い瞳、そして表情にあどけなさを残した可愛らしい顔立ちの美少女。
いつも無表情で口調も淡々としており、端的な物言いばかりであるため感情が薄そうに見えるが
実際はいたって素直で穏やかな良い子である、内心の感情も結構豊か。
悪く言えばぼんやりしている、良く言えば物怖じしない性格をしている。
評価はC。
暴虐の魔王の名に恥じぬ実力と、良い意味で自分勝手な意思を貫き、立ちはだかる壁をなぎ倒していく
魔王らしからぬ、しかし美学を持つ王道の強者たらんとする主人公の姿が実に痛快で格好良く
ヒロインたちも健気で可愛らしく、見ているだけでほっこりできるのがグッドでした。
わかりやすいストーリーに設定カッチリな世界観と、全体のバランスも良いため読み応えもあります。
ただ、対峙する敵との「格の違いを丁寧にわからせる」やり取りがワンパターン過ぎた感があるのと
キャラの名前や用語に覚えにくいものが多かったのが難点だったかと。
本筋は章ごとに話がスケールアップしていくのにワクワクできましたが、それだけにその総決算となる最終章が
いささか地味というか、淡々としていて盛り上がりに欠けていた感があったのが残念だった印象。
各所での仲間たちの死闘、主人公とラスボスのタイマンなど、部分だけを切り取れば定石通りだったのですが
問答や回想の量が多くてテンポを崩していたし、ラスボスも全然悪党じゃなかったから爽快感皆無だったんですよね。
転生というテーマを貫き、纏め切った構成はお見事なんですが…エピローグの一枚絵くらいは欲しかった。