やがて恋するヴィヴィ・レイン   犬村小六(ガガガ文庫)



義妹の願いを叶えるための小さな旅は世界を変革する戦いへ。傷だらけの少年少女が織りなす恋と会戦の物語。
大枠としては戦記ものということになるのでしょうか。重厚な世界観と文章が骨太な雰囲気を出しています。
その分、シリアスな展開も多く、コメディ要素や日常の空気が少ないため読み味は重めではありますが
だからこそ、必死に今を生きようとあがき続ける主人公たちの姿に胸を打たれます。
人が搭乗する機械兵を加えたバトル&戦争描写も息詰まる臨場感があって盛り上がりは文句なしですし。
ラストは魔王が世界を破壊し、聖女が再生の道を示し、そして青年は探し人と共に再び旅に出るのだったエンド。
ラブコメ的にはメインヒロインのファニアと結ばれるも、道を違えたがゆえに共に未来を歩むことはなく
主人公の新たな旅に寄り添うのはやがて恋を知るであろうヴィヴィ・レインという形で終了。

主人公は後に「災厄の魔王」「戦争の天才」と称され、世界へ反逆の旗を翻す少年。
何も持たずに生きてきたがゆえに、初めて自分の手で手に入れた義妹シルヴィを何よりも大切にしており
彼女の死に際の願い「ヴィヴィ・レインを見つけて」を叶えるためにスラム街から旅に出た。
知識の吸収に貪欲で、全体絶命の危機でも光明を探すために思考を続けることが出来る心の強さを持っている。
スラムの出らしく、貴族のルールを平然と無視するなど目的のためには手段を選ばないところがあるが
思いやりに厚く、認めた人間を裏切ることは決してしない、心の底では清い性根の持ち主。

ヒロインは高潔な王女、傲慢お馬鹿な人造人間、男装の凄腕操縦士。
一番のお気に入りは才知と勇気と美しさを併せ持つガルメンディア王国第一王女、ファニア・ガルメンディア。
光の加減で白銀と薄紫に彩りを変える長い髪に、髪と同じ不思議な色合いの瞳を有する
威厳と質量を伴わせた人間離れした美貌の持ち主で、その佇まいは正に凛とした女騎士そのもの。
王家の生まれでありながら、実力があれば平民であっても取り立てるなどの公明正大な考え方。
加えて、常に真摯に国の未来を憂う誠実さと、戦いとなれば手ずから擲弾を投げつける勇気を併せ持っている。
その一方で、自分の無力さに嘆き、私心を表に出せないことに悩み、愛する人を思って涙する乙女な一面も。

評価はB。
三界に及ぶ壮大な世界の中で、底辺から這い上がり己の目的のためにひた走る主人公が存在感抜群。
如何なる時も思考をやめず、光を目指してあがき続けるその姿には泥臭い格好良さがありましたし
そんな彼に魅せられるヒロインたちも、それぞれの矜持と想いのために頑張る健気さが好感度大。
本筋は決してハッピーエンドとは言えませんでしたが、死亡者を含め主要キャラ全員が己の信念や矜持を貫き通し
そして世界が確かな一歩を踏みしめるという、清々しさに溢れている結び方だったと思います。
まあ、ヒロインの中でミズキだけ最終巻の扱いがおざなりだったりと色々不満点もありましたが
タイトルも最後にキッチリ回収されましたし、ひとつの物語としては素晴らしかったな、という印象。