デュシア・クロニクル 大黒尚人(富士見ファンタジア文庫)
最強騎士にして天才軍師である少年が織りなす、逆襲の戦記ファンタジーストーリー。
侵略してくる帝国に対抗する王国で、騎士と軍師の一人二役をこなしながら戦いを繰り広げる。
という構図の戦記ものですね。主人公の原動力が復讐ということでシリアス色が濃い目ですが
軽いノリの日常パートも多く、わかりやすい設定もあってか読みやすさは申し分なし。
また、ファンタジーな世界観ゆえに文明こそ中世レベルではあるものの超常的な力も存在しており
バトルシーンも派手なものになっていますが、その分個人の技量に左右される場面が多く
そのせいでもうひとつの見せ場である軍師要素がイマイチ目立っていない感も。
ラストは帝国の侵攻を撃退し、俺たちの戦いはこれからだエンド。
ラブコメ的にはメインヒロインのセレインと良い雰囲気になるも明確な進展はないまま終了。
主人公はエルザイム王国に流れ着き、王女派と行動をともにすることになった放浪の少年騎士。
その正体は史上最年少で帝国最強の黒天騎士となった天才かつ、仮面の軍師アートルム卿二代目。
普段はどんな相手にも馴れ馴れしい軽薄さを見せているが、胸の内では帝国への復讐心が渦巻いている。
戦いとなれば冷徹に武を振るい知略を見せつけるが、その反面情が深い一面も。
ヒロインは脳筋女騎士、野心家な王女、家庭的な伯爵令嬢、無口系な幼馴染。
一番のお気に入りは生まれた時から主人公に仕え続ける忠誠心高き従者、カナン。
短い黒髪に、年齢の割に幼さの残る顔と子供のように小柄な肢体の美少女。
表情や感情表現に乏しく、いつも淡々とした口調でそっけない態度をとっているが
主である主人公のことは心から敬愛しており、二人の間に結ばれている信頼の絆は強固にして深い。
密偵間者としての業に長けており、特に投擲術を得意としている。
評価はC。
小難しい捻りのない、正統派かつ本格的な戦記ファンタジーとしての総合力が高い作品。
反面、一味足りないというか、突き抜けた部分がないため目新しさには欠ける印象。
キャラに関しては、復讐に燃えるがゆえに粗野でありながらも暴力と知力を両立する主人公が
いかにもなダークヒーローっぽい雰囲気を醸し出していて存在感がありました。
ヒロインたちも癖のない(一人除く)可愛さを見せてくれるので一服の清涼剤になっていましたし。
本筋は防衛線の勝利、仇敵との決着、敵対していた妹との和解、と話に一区切りつく形にはなっていたものの
肝心の敵国そのものは未だ健在と道半ばでの打ち切り完結だったのが残念なところ。
人間関係の進展や掘り下げも不十分なままな部分が多く、消化不良感が否めなかったですし。