放課後は、異世界喫茶でコーヒーを 風見鶏(富士見ファンタジア文庫)
迷宮都市の一角にある異世界でただひとつの喫茶店を舞台にした、恋のスパイスが効いたおいしい物語。
分類としては飯テロ要素ありのお仕事ものですね。来店するお客たちが美味しい珈琲や軽食に舌鼓を打ちながら
平和に世間話をする日常が描かれています。なお、料理技術が発達していないという世界観ではありますが
料理はあくまで話のスパイス程度の役割であり、メインは客が持ち込んでくるトラブルの解決ですね。
バトルや悪人の跋扈、世界に危機が迫る陰謀といったシリアス要素は皆無なのでゆったりと読むことができます。
まあ、異世界転移主人公+迷宮都市という組み合わせで冒険がないのはどうなんだとは思いますが。
ラストは異世界に残って生きていくと決めた少年は、今日も喫茶店を営業するのだったエンド。
ラブコメ的にはメインヒロインのリナリアと結ばれて(というか形式的には結婚した)終了。
主人公はコーヒーのおいしさを広めたいと思っている異世界唯一の喫茶店を営む十七歳の店主。
いつも物腰穏やかで、年齢不相応に何事に対しても落ち着いた態度を見せているが
それは意識してそうしている部分が大きく、心の内では異世界で独りぼっちという寂しさに耐えている。
客商売に従事していることもあって、人の顔から気持ちを読み取る術を身に着けており、察しもよいのだが
女の子の気持ちには鈍感で、そのため無頓着な言動をとってしまうこともしばしば。
基本的に欲が薄く、お金や肩書きや立場といった身に余るものはない方が気楽と考えるタイプ。
ヒロインは勝気な優等生。サブにストーカーなお嬢様、マイペースな獣人娘、コーヒー党な冒険者。
冷然無表情な秘書、働き者な有能メイドさん、純真な犬耳配達屋、純粋無垢な歌姫なども。
一番のお気に入りは異世界では珍しい大のコーヒー党な一流冒険者、アルベル。
白銀色の長髪に凛々しい切れ長の瞳、それに高い身長が相まって格好いいという印象を受ける類の美人。
荒事を営む冒険者でありながらも粗野なところがなく、大人びた落ち着きのある人格者なのだが
同好の士と意地を張り合ったり、未知の料理に落ち着きなくワクワクしたりと子どもっぽい一面も。
評価はC。
殺伐とした事件は起きない世界観なので刺激的な展開はないですが、その分寛いだ雰囲気が味わえる作品。
キャラに関しては、喫茶店のマスターを落ち着いた雰囲気で上手くやっている主人公が良い感じ。
その一方で、望郷の念に駆られる等身大の姿がちゃんと描かれているのも感情移入しやすくてよかったかと。
彼に好意を抱くヒロインも、恋する乙女的な言動が見え隠れしていて魅力的な可愛らしさに溢れていましたしね。
また、風変わりな常連たちもそれぞれ個性的で、平穏の中に存在感と彩りを作り出していた印象。
本筋はファンタジーな異世界の迷宮都市という如何にもな場所を舞台としながらも、最初から最後まで一貫して
危険な事件が起こることなく、優しい空気を保ち続けての完結と、読後感が素晴らしかったです。
ラブコメ面も単独ヒロイン路線ではあったものの、露骨さがなかったので初々しいもどかしさが存分に楽しめましたし。
特にクライマックスの告白シーンはロマンチック全開で、派手さこそないもののじーんとくるものがありました。