世界最強の人見知りと魔物が消えそうな黄昏迷宮   葉村哲(MF文庫J)



魔物が枯渇し、経済的破綻が近づいている冒険者の国の危機に立ち向かうPTのダンジョンと日常の物語。
冒険者が主役で迷宮が舞台という構図ではあるものの、メインは冒険やバトルではありません。
主人公たちの目的は「人口迷宮」を作るための魔物集めなので、捕獲&説得が第一になっているわけですな。
また、蘇生術が一般的に広まっている世界観であるため、死による危機感やシリアス度も薄く
建前は迷宮探索でありながらも、食事シーンを含めた日常要素が濃い内容になっています。
なお、挿絵込みのサービスシーンも結構多めだったりするので目の保養もバッチリかと。
ラブコメ面は男一人女三人と客観的にはハーレムPTながらも今のところ進展なし。

主人公は大陸に十三人しかいないとされるレベル七冒険者の盗賊。
黒い革製のつなぎに身を包み、腰に黒い鞘をさし、顔もまた黒い布で覆い隠すという全身黒尽くめが特徴。
ドラゴンをソロで倒せる実力者で、魔物の知識も豊富。また、己の技術のみで姿を消すという絶技の使い手だが
普段から姿を消しているため他人と会話をすることがなく、それゆえに絶望的に会話が苦手な超絶人見知り。
そのため、どこかくぐもった声で、淡々としているというよりも、細切れになった口調で喋ることが常。
また、押しに弱く、恥ずかしがりで、注目を集めると緊張してしまうなど、典型的なコミュ障。
女性を特に苦手としており、美少女のあられもない姿を見てもまるで興味を示さない。

ヒロインはお人よしな新米騎士、天才毒舌神官、猫キャラ商人、不愛想な受付嬢。
一番のお気に入りは十三歳にしてレベル五に達した天才神官、アルリアナ・デイジーコート。
銀髪の、小柄で幼い面立ちながらも、纏う空気は妖艶という酷くアンバランスな印象を見る者に与える美少女。
語尾を延ばした、挑発的で相手をからかっているような口調が特徴。
目上の存在に対しても、いつも余裕そうに皮肉っぽい態度で毒舌を吐いているが、その実負けず嫌いで
ムキになりやすく、弱みを素直に晒せず、根は不器用なお人よしだったりと年齢相応な面も。
スライムに襲われて以来、そのぬるぬるな感触にハマってしまい、ペットとしてスライムを飼うように。

現時点(二巻)においての評価はC。
世界を取り巻く状況こそ切羽詰まってはいるものの、主観的な切迫感はまるでないためサクサク読めます。
主役となるPTの面々も、それぞれ癖こそ強いものの険悪さは皆無なのでストレスフリーですし。
これは唯一の常識人にしてお母さん的纏め役なティムルの懸命なフォロー力の勝利ですね。
こういう終始シリアス&ダーク要素が見えず、和気藹々と賑やかで緩い雰囲気が続く作風は大好物です。
本筋は達成すべき目的が「人口迷宮の完成」と割と遠大であるため、息の長いシリーズになりそう?