勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。   左京潤(富士見ファンタジア文庫)



勇者になれなかった少年と、魔王になりたくない少女の織り成す労働生活物語。
魔王が倒されてしまった後のファンタジー世界が舞台で、魔王がいたから成り立っていた産業が没落する。
魔王がいないから勇者がいらなくなる。という、ファンタジーなのに妙な世知辛いリアリティが切なく
しかしだからこそ、労働の苦労と喜び、尊さがよくわかる作品です。
ラストは勇者にならなかった少年と副業魔王な少女は今日も労働頑張ります! エンド。
ラブコメ面は最後の最後でメインヒロインのフィノが美味しいところを持っていくも、決着付かずで終了。

主人公は幼い頃から勇者に憧れ続けるも、後一歩で勇者になりそこなった十七歳の少年。
勇者予備校で主席、全国勇者模試では史上初のS判定を出すなど、資質は最上級。
割と即物的で、勇者志望の動機は平和と正義のためというよりは、栄誉や金のためという面が強かった。
とはいえ正義感がないというわけではなく、面倒見のよさやお人よしな部分もちゃんと持っている。
小心者、田舎出身の引け目などの要素が絡み合って交友範囲は狭く、予備校時代はぼっちだった。
調子に乗りやすく、自身の失敗を認めたがらないなど、良くも悪くも実に人間らしいキャラ。

ヒロインは魔王の娘、予備校時代のライバルがレギュラーヒロイン。
サブ&ゲストヒロインとして、自信家な捜査官、国の王女様、ボクっ娘魔人など。
一番のお気に入りは主人公の勇者予備校時代のライバル、アイリ・オルティネート。
胸が小さめなことを気にしているものの、スレンダー型のスタイルはプロポーション抜群。
特化型の主人公に対し、全体的に能力が高いことから「オールAのアイリ」と呼ばれていた。
普段は凛々しい雰囲気の美少女で、やや意地っ張りで人当たりが刺々しい。
しかしそれは彼女自身の真面目さから来るものであり、根は心優しく、面倒見が良かったりする。
意外にズボラであり、自室はいわゆる汚部屋状態だったりも。また、やたらと思考が貧乏臭い。

評価はB。
基本的には前半はドタバタ労働コメディ、後半は事件を解決するシリアスパートの二段構成。
勤務パートは労働あるあるな感じが面白かったですが、事件パートが毎回悪党を成敗して一件落着!
みたいなワンパターンがすぎるというか、別に事件パートいらないだろ感が…
タイトル詐欺とまではいいませんが、労働部分が面白いだけにバランスが取れていなかったというか。
まあ、勇者と魔王という一巻からの問題に、決着をつけるための必要な過程ではあったのですが。
おかげで最終巻(9巻)はやや強引ながらも凄く綺麗に纏まった終わり方でしたしね。
個人的な不満としては、もうちょっとサブヒロインも交えて恋愛に進展が欲しかった……
ちょこちょこラブコメを挟む割に、ストーリーには全然絡まないままでしたし。