たとえばラストダンジョン前の村の少年が
序盤の街で暮らすような物語 サトウとシオ(GA文庫)
無自覚に無敵を体現する少年が「本当の強さ」に目覚めゆく勇気と出会いの物語。
RPGで疑問に思うことのひとつ「ラストダンジョン前の村の住人の戦闘力はどうなっているのか」
に焦点が当てられている話です。なお、この作品だと皆激強。そりゃ環境的に考えて強いほうが自然ですな。
周囲に出現するのは最強クラスのモンスターなわけですし、身体能力抜群で古代魔法完備でもおかしくない。
呪われた令嬢や操られた国王、行方不明の姫など古き良きRPGネタも満載で懐かしくもなりますし
これらの重要イベントをサクッと解決していく緩さも、読み味に重さを感じなくてすむのがグッド。
ラストは私利私欲のままに力を振るうラスボスを撃破し、世界を救ってハッピーエンド。
そして二年後、教官デビューを果たした少年の賑やかな日常はこれからも続いていくのだった。
ラブコメ的にはフラグを立てるだけ立てて進展がないまま終了。
主人公は村人誰もが反対するなか、軍人になる夢を捨てきれず王都へと旅立った少年。
柔和な笑みが印象的な好青年で、その見た目通り荒事よりも家事が得意であるため自他共に認める
「村一番のか弱い男」なのだが、あくまで故郷の村基準であり、王都基準では並ぶ者なき最強の実力者。
素直で純粋無垢で正直者でお人よしで世間知らずと、純朴な田舎の人間そのものな性格をしており
いつもは日和見で回りに流されやすい気弱さと自己評価の低さが目立つが、正義感の強さは人並み以上で
こうと決めたら断固として譲らない気迫と決意を見せることも。
ヒロインはメンヘラ貴族令嬢、苦労人な魔女、がめつい凄腕傭兵、ロリババア村長、無表情な武闘家。
糸目女優、夢見がちな薄幸娘。
特に際立ってお気に入りのヒロインはなし。
評価はB。
純粋無邪気に、そして無自覚にチートっぷりを見せつけてくれる主人公のフリーダムな無双っぷりが実に愉快。
これで本人の性格自体は卑屈で謙虚なので、言動と結果のアンバランスさがたまりません。
ヒロインや、敵ですらもボケツッコミが映える愛嬌たっぷりなキャラばかりなのも笑えましたしね。
また、冷静なツッコミがノリよく挿入される天の声のような地の文も特徴的でインパクト抜群。
本筋は「己の強さに無自覚な少年の勘違い英雄譚」と「気弱な少年の成長物語」が上手く融合し
終始コミカルかつ心暖まる、めでたしめでたしが良く似合うお話に仕上がっていたと思います。
勘違いものという、ともすればくどくなりがちなジャンルをここまでの良作にした作者さんの手腕には脱帽。