機甲狩竜のファンタジア   内田弘樹(富士見ファンタジア文庫)



V号戦車パンターを駆る少年少女が戦術を尽くし、絆を紡いで竜に挑む機甲幻想戦記。
剣や魔法を用いて竜をはじめとするモンスターを狩る「狩竜師」を育成する学校が舞台。
…というところまでは比較的ありがちな設定なのですが、なんとこの作品の主人公チームの主力武器は戦車。
アニメ「ガールズ&パンツァー」で有名になった感はありますが、また尖った要素を持ち出したものである。
しかしそれでも、時代遅れの遺物とされる戦車を駆り、最下層クラスの仲間達と共に竜に挑むという構図には
テンションが上がるものがありますね。戦車VS竜とか浪漫過ぎてワクワクが止まりません。
ラストはボスモンスターとの戦いに勝利し、対話にも成功。見事に戦火の拡大を防ぐ未来の可能性を掴み取り
そして、少年と少女たちの戦車チームは今日も人を守るために死闘の場へと赴くのだったエンド。
ラブコメ的にはヒロイン四人がハーレム化を主人公に勧めるも、明確な関係進展はないまま終了。

主人公はV号戦車パンターの所有者で生粋の戦車オタクな少年。
祖父の意志を継ぎ「機甲狩竜師」を目指して狩竜師育成学校の門を叩くが、知名度のなさから苦戦を強いられる。
右目にはめられた眼帯が特徴で、学力は全般的に壊滅的だが、戦車にかける熱意は人一倍。
ポジティブで裏表のない性格をしており、戦車を馬鹿にする者に対しては喧嘩早いところこそあるものの
根はまっすぐで素直なため、自分の非と相手の凄さを認めることができる潔さを持っている。
また、言い出したら絶対に聞かない上、自分の身を顧みないが、その分イザという時における度胸は超一級。
戦車バカであるがゆえに、デリカシーがなく、色恋よりも戦車の整備を優先してしまうところがある。

ヒロインは誇り高き戦車長、世話焼きな幼なじみ操縦手、人付き合いが苦手な通信手、明朗快活な照準手。
一番のお気に入りは多彩な魔法で一同をサポートする通信手、フィーネ・ツァリーツェ・フォン・イシュトバーン。
大の人見知りであり、人前で話すのが苦手な恥ずかしがり屋。そのため、いつも自信なさげにオドオドしており
普段はマジックアイテムを使って自分を樽に見せかけて人と接触しないように過ごしている。
大の戦車好きで、数多くの戦車が戦ったという「黙示戦争」にも詳しく、話し出すと止まらなくなる一面も。
実は現国王の次男(皇太子の弟)の長女であり、第五位の王位継承権を持つ王族。

評価はC。
現代兵器をファンタジー世界に持ち込んだりして魔法やモンスターと戦う、という作品は結構見かけますが
この作品の場合は砲身に巨大剣を取り付けて格闘戦したり、魔法技術を使った特殊弾頭で属性攻撃をしたりと
きちんと戦車とファンタジーが融合しているのが新鮮でした。正に発想の勝利と言えるでしょう。
というか、お約束のヒロインとの決闘イベントからして、生身VS戦車というトンデモ展開でしたし…
キャラに関しては、主人公が装填手という役割的に地味なポジションなのは意外でしたが
いつもまっすぐでウジウジ悩んだりせず、仲間想いかつ嫌味のない性格に好感が持てました。
ヒロインたちも、各自のポジションで自分の役目を果たそうと一生懸命頑張る姿が魅力的でしたしね。
本筋は話にも人間関係にも一区切りがついた形で終わっているため、読後感自体は悪くはなかったのですが…
その一方で、いくつのかの謎は残ったまま、未来も不明瞭と消化不良感があったのは残念でした。