廃皇子と獣姫の軍旗   田代裕彦(ファミ通文庫)



罪人となった皇太子が獣の姫と共に大帝国に牙を剥く、本格ファンタジー戦記。
分類としては軍師タイプの主人公の下克上をメインにした戦記ものということになるのでしょうか。
まあ、主人公自身には上に立とうという野心はなく、状況に流されて動いているだけなのですが…
それだけに彼を取り巻くキャラや勢力の動きが際立っていて、戦記感がよく出ていると思います。
ラブコメ面は今のところ描写少なめ。ヒロインたちが主人公に好意を抱いているのは間違いないようですが…

主人公は大陸屈指の強国アルガント帝国の皇太子。
戦術に優れ「アルガントの黒狐」と畏怖されているが、本質は好奇心旺盛な学者肌で戦を好んではいない。
皇宮外で育ったので宮内の有力者とのパイプがない上、各地を転戦していたため宮廷の勢力関係に疎く
それが災いして、次期皇帝の座を巡って暗躍する勢力に命を狙われることに。
勇士というには線が細く、美男と称するには地味すぎる顔立ちという外見をしており
いつも柔和で気弱さを感じさせる笑みを浮かべ、いつも飄々と呑気な態度をとっているが
人を惹きつける、良くも悪くも何をするのかわからない器の大きさの持ち主でもある。

ヒロインは勝気な獣姫、生真面目な副官、呑気な獣娘。
一番のお気に入りは幼少期、主人公とは姉弟同然に過ごしてきた副官、マルセリナ・デ・メルディエタ。
かつて内外にその名を轟かせた名将の孫娘で、若年でありながらその武芸の腕、軍略の確かさ共に
名将の薫陶宜しきを得ているともっぱらの評判の才女であり、実際その手腕は一級品。
どちらかといえば慎重論、別の言い方をすれば悲観的なものの見方をすることが多く
その上、生真面目で几帳面と、副官&秘書官向きの性格をしている。

現時点(一巻)においての評価はC。
信念も熱意もなく、しかしその才能は突出している。また、非常な手段をとったり情を優先したり。
そんな不安定さを見せつつも、しかし司令官としての底知れなさを有する主人公が実に頼もしい。
それでいて私人としては好奇心旺盛な子供っぽさもあるので、憎めない魅力がありますし。
一方、ヒロインたちは獣耳娘な亜人たちということで少々色物感が強いですが、その分個性は抜群かと。
本筋は亡命後の初戦を見事に勝利したものの、敵は強大、信頼できる味方は少数とハードモード。
とはいえ、勢力関係を考えれば主人公陣営は専守防衛さえしていればいいわけですが…?