放浪勇者は金貨と踊る むらさきゆきや(富士見ファンタジア文庫)
「金が全て」となった異世界を舞台にした、金貨を巡る英雄譚。
勇者が魔王を倒して、世界は平和になりました―――では終わらなかった、アフターファンタジーですね。
魔王が消えたがゆえに別の形で世の中が乱れてしまった、というのはある意味お約束ではありますが
倒すべき新たな敵が詐欺師、ひいては金そのものというのが新しいというか、妙にリアルである。
敵との対決は駆け引き&騙しあいが中心で、バトルは仕上げに使われる程度の扱いの模様。
ラストは国家を揺るがす魔王僭称詐欺を解決し、仲間の心を救ってハッピーエンド。
ラブコメ的には魔王討伐時の仲間だったシャノワールと結ばれて終了。
主人公は素性を隠して世界を放浪中の勇者。
普段はマジックアイテムで外見を金髪碧眼のマッチョから黒髪黒眼の細身へと変化させている。
お人よしで面倒見がよく、困っている人を見過ごすことが出来ないという損な性分をしており
また、勇者として有名ではあるが、目立つことを好まず、名誉欲や金銭欲もあまり高くない。
と、実に善良な性格をしているのだが、悪人に対しては悪知恵をきかせたり
仕事の報酬はキッチリ求めたりと、甘さだけではない、現実に即した考え方もできる。
ヒロインは生真面目な国家騎士、グラスウォーカーの商人、混魔族の召喚術士。
公式には婚約したことになっているという、明らかにヒロイン候補っぽかった王女は未登場のまま終了。
特に際立ってお気に入りのヒロインはなし。
評価はC。
正に「お金というものの怖さがよくわかる」の一言に尽きる作品。
現代日本ではなく、あえてのファンタジーな世界観が上手くアクセントになっており
それに加え、勇者らしい気質と狡猾さを併せ持つ主人公が作風によくマッチしていました。
肝心の詐欺事件に関しても、どの話も読後感のよいオチになっているためスッキリと読めましたしね。
本筋は一区切りつく形で纏まってはいたものの、魔王討伐時の仲間達の現状を筆頭に
描かれるべき要素は多数残ったままですし、ラブコメ面にしても、メインヒロインであるレイチェルと
ヒロインとしての登場に期待が集まっていた王女は参戦すら出来ずに終わってしまい、ガックリ感半端なし。
正直なところ、二巻で打ち切られるには惜し過ぎたとしか言いようがないです。