詐欺師キッドの英雄演武   大泉貴(オーバーラップ文庫)



世界を統べる七つの種族の戦いに巻き込まれた詐欺師の、嘘から始まる綻びだらけの英雄譚。
ガチバトルありの世界観なのに、特殊能力や強靭な肉体、武器を持たない詐欺師が主人公ということで
話術や道具、事前の仕込みを勝利の鍵とする頭脳バトルの色が濃い目。
全てを一人でこなすのではなく、仲間の力も借りて強大な敵を負かす展開は正に痛快の一言です。
ラブコメ面は今のところ動きなし。というか、それっぽい描写自体がほとんどありません。

主人公は神ユグラティアの制定せし戦い「神儀演武」に人類代表として参加することになった詐欺師。
軽薄&軟派な性格で、罪悪感なく呼吸をするように嘘をつくことができる。
また、詐欺師らしく、洞察力、観察力、演技力、口の上手さ、頭の回転、度胸の全てが一流レベル。
常に打算を働かせ、冷静さを保つようにふるまい、人に同情することも義憤に駆られることもないが
自らを絶対と信じて疑わない連中の傲慢さは許せなかったりと、後先考えぬ感情を見せる熱い一面も。

ヒロインは真摯なお嬢様。
サブに実直な女騎士、天真爛漫な便利屋、元刺客な魔法使いなど。
一巻の時点では特に際立ってお気に入りのヒロインはなし。

現時点(一巻)においての評価はC。
主人公と仲間たちの悪ガキチームのような気安さのある雰囲気がいいですね。
友情を強調した仲の良さはないけれど、お互いを理解し信頼しあっている姿が見ていて頼もしい。
個人で見ても、主人公のおちゃらけつつも不敵な詐欺師っぷりは格好いいの一言ですし
そんな彼をひたすらに信じ続けるサーシャのメインヒロインっぷりも実に映えています。
本筋は前哨戦が終わり、次巻からはいよいよ異種族と戦う本戦が幕を開けるわけですが…
正真正銘ただの人間でしかない主人公たちが、生きる基盤の違う相手にどう立ち回るか注目したいところ。