成り上がり英雄譚   ハヤケン(HJ文庫)



精霊姫との結婚から始まる、屑星皇子の成り上がりファンタジー戦記。
王族特有の才能に欠けていたがために蔑まれてきた皇子が場と機を得て飛躍する戦記物語です。
最終目的が大陸制覇や敵国の打倒、内乱勝利ではなく、国を正常化させるというのは中々珍しいですね。
小国に婿入りし、その国を基盤にして動くというスタート設定も目新しいですし。
まあ、その分制約が多く、単純に敵に勝てばいいというわけではないので色々複雑なわけですが。
ラブコメ面は主人公の立場が一国の姫の婿ということで、ハーレム展開は難しそう。
しかしながら、それでも想いを捨てきれないヒロインもいるわけで…?

主人公はウェーメリア帝国の第五皇子で「屑星皇子」と呼ばれ見下されていた少年。
普段は愛想こそ良いものの、へらへらと軽薄な態度で昼行灯を装っている。
しかし、根は純粋で実直な性格であり、その胸の内には周囲を見返そうという野心と、飽くなき向上心。
国家の象徴たる宝具を扱えないという欠点にも腐らずに、自己鍛錬を重ね続けられる心の強さ。
そして、大望のためならば実兄を謀殺することすら厭わない理知的な冷徹さを兼ね備えている。
ただ、修行や勉強に明け暮れて過ごしてきたがゆえに、それ以外の生活のことには無頓着であり
女性に対する欲も、女好きに見える言動に反し、希薄で奥手。

ヒロインは男勝りな精霊姫、母性的な従者、クールな傭兵娘。
一番のお気に入りはジャターユ傭兵騎士団所属の傭兵、ティア・ホロウ・ジャターユ。
短めに切り揃えられた藍色がかった黒髪、愛らしいながらもどこか涼しげな猫を思わせる切れ長の瞳。
透けるような白い肌、スレンダーな肢体の美少女で、常に感情の見えない落ち着き払った無表情をしている。
また、口調も淡々としており、必要最低限しか喋らない性格なため、どこか人形めいた印象が強い。
その一方で、傭兵育ちゆえか、態度の冷静さと大人しさの割には口が悪いところがあり、肝も据わっている。
男に対する理想は高いが、責任は求めず、子種さえもらえればいいという考え方の持ち主。

現時点(三巻)においての評価はC。
軍同士のぶつかりあいよりも、個人の武勇や知謀が目立つタイプのファンタジー戦記で
起承転結がシッカリ描かれており、展開も筋道立っているので読みやすい作品に仕上がっています。
主人公の「世間の物差しでは無能扱いだが、実践の場では有能」というキャラ付けも良い感じですし
彼を支える側近やヒロインたちも、出しゃばり過ぎない程度の優秀さと存在感があってグッド。
本筋は着々と地固めを行いつつ、敵対勢力を退けてはいるものの、裏では謎の怪物の暗躍もあるようで…?
というかあとがきを読むに打ち切りの危機のようですが、続きはちゃんと出るのか不安である。