戦うパン屋と機械じかけの看板娘   SOW(HJ文庫)



無敵の戦場コンビが贈る、街角パン屋繁盛記。
戦後の世界が舞台になっているということもあり、戦争の負の面がかなりクローズアップされています。
とはいえ、ラノベらしく熱いバトルやラブコメの要素もちゃんと用意されていますし、世界観が重いからこそ
傷ついた人々の心を癒さんと奮闘する主人公の姿が映え、スッキリした読み味になっている印象。
基本的には心に傷を持つキャラ同士のほのぼの&シリアスなふれあい描写がメインになっていますが
失われた古代帝国のオーバーテクノロジーなど色々と大きな謎もあり、油断は出来ません。
ラストは私欲のために世界を裏から操り、世界に大戦を引き起こさんとしていたラスボスの暴挙を食い止め
その後、パン屋の店主と看板娘はどこかの街にある小さなパン屋で幸せに暮らしましたエンド。
ラブコメ的には人間になったメインヒロインのスヴェンと結ばれ、子宝にも恵まれて終了。

主人公は戦争終結を機に、片田舎でパン屋を営み始めた元英雄。
先の大戦では人型強襲兵器を駆り「白銀の狼」と呼ばれていたのだが、本人はそのことを快く思っていない。
お人好しで涙もろい性格であり、誠心誠意真面目で勤勉の善人だが、強面で笑顔を作るのが苦手な上
元軍人という肩書きがあるため、パンの味、値段、バリエーションは申し分ないにも関わらず
本編開始まではパン屋としても一個人としても周囲の人々からの評判はイマイチだった。
子供の頃から軍隊で青春の大半を戦場で過ごしてきたため、実は女の子が苦手だったりする。

ヒロインは元相棒な看板娘、元テロリストなシスター、天邪鬼な戦災孤児、元上官な貴族令嬢。
一番のお気に入りはウエイトレスとして主人公の店にやってきた少女、スヴェルゲン・アーヴェイ。
見た目は銀色の美しいロングヘアーに鮮やかな赤い瞳を持つ才色兼備の美少女だが、
その正体は自律式人間型猟兵機であり、元は戦争時の主人公の搭乗機のAI。
頭脳と戦闘力の両面で優秀な能力を持ち、常に冷静沈着だが、心から主人公のことを敬愛しているがゆえに
彼に悪意を持つ者などには毒舌になったり、我を失って怒ったりと激情家なところがある。

評価はB。
サブキャラを含め、全てのキャラが自然に物語に馴染んでおり、雰囲気を掴みやすい作品でした。
戦争の暗部が前面に出ているだけに爽快感には欠けますが、スヴェンがウエイトレスになったことを切欠に
徐々に主人公を取り巻く状況や人間関係が良い方向に動いていく流れは読んでいて嬉しくなりましたね。
ただ、本来メインであるはずのパン屋の運営よりも、シリアス&バトル描写のほうが目立ちすぎていた感も。
まあ、一介のパン屋が実は世界を統べる資格を持っているという設定には心踊るものがありましたが…
本筋は一巻時点から提示されていた伏線や因縁をすべて消化してのハッピーエンドと、起承転結に文句なし。
何より、要所要所で主人公の作ったパンが存在感を見せていたのが良いアクセントになっていてよかったですね。