ロクでなし魔術講師と禁忌教典   羊太郎(富士見ファンタジア文庫)



ロクでなし講師と、彼に振り回される教え子たちを主役にした、学園アクションファンタジー。
魔術理論や世界観など、かなり細部まで設定が練りこまれており、話の土台がシッカリしているので
物語に入り込みやすいのがいいですね。その分、作品の全容をちゃんと理解しようとすると苦労しますが。
分類としては教師ものになるわけですが、学問系講義もきちんとやっているところが珍しい印象。
メインキャラだけではなくモブ生徒にも授業は施されていますし、おかげできちんと教師っぽさが出ています。
ラストはラスボスを完膚なきまでに滅ぼし、平和になった世界でロクでなし魔術講師は講義をするのだったエンド。
ラブコメ面は進展がないまま終了。というか、主人公の元相棒(故人)が強すぎる…

主人公は過酷な過去を持つがゆえに夢を見失ってしまった魔術嫌いなロクでなし魔術講師。
年齢の割に子供っぽく、優しくする相手はえり好み、興味がない相手は名前すら覚えようとせず。
素行は悪く、口も悪く、他人から説教されても馬耳東風、自分の生きたいように生き
好く人から好かれるが、嫌う人からはとことん嫌われるタイプ。だけど本人にはまるで気にしない。
そしてニート志願。と、正にダメ人間の見本のような人格をしている。
しかし、かつて志した正義の魔法使いという夢を捨てきれず、心に秘めているなど熱い一面も。

ヒロインは生意気な子猫風少女、可愛い子犬風少女、妹分な元同僚、意地っ張りな元上司、ツンデレ天使。
サブに母親的魔女、クールな生徒会長、高飛車お嬢様、姉御肌な脳筋娘など。
一番のお気に入りは誰にもいえない秘密を抱える心優しき少女、ルミア=ティンジェル。
常に笑みを絶やさない、可憐で天使のような顔立ちをしており、物腰も穏やかで気安く人懐っこい。
また、性格も清楚で心優しく柔和と、外見と中身が一致しているタイプの美少女。
更に、普段は分かりにくいが実はスタイルも抜群なため、当然のように男子からの人気は高い。
原作開始三年前、主人公に命の危機を救ってもらってから、ずっと彼のことを慕っている。

評価はA。
世界観、設定、キャラ、話の起承転結とメリハリ。その全てにおいて完成度に優れている作品。
見せ場の演出などもしっかりツボを押さえたものになっており、文句のないカタルシスがありましたし
普段はダメ人間な主人公が、ひとたびやる気を出すと戦う者としての凄味を発揮するというのも王道でグッド。
ヒロインたちもそれぞれの立ち位置で彼を支え、欠かせない存在になっているのがよくわかりましたしね。
とにかく全体としてエンターテイメント的に「落として上げる」が抜群に上手かった印象。
本筋はタイトルの回収、主人公の歩んできた道がラスボスを倒す力となるという燃えるクライマックス。
主人公のみならず、永劫の別離をした師匠、更には宿敵や魔王ですらもある意味では報われる大団円。
と、文句のつけようがないハッピーエンドでもう言うべき言葉はお見事の一言。
あえて言うなら恋愛面において、決着どころか言及がないまま完結してしまった点が残念ではありますが…
完全完結となる最後の短編集でもそのあたりは結局スルー(元相棒との過去編は除く)で終わっちゃいましたしね。