アルティメット・アンチヒーロー 海空りく(講談社ラノベ文庫)
いずれ救世主と全ての人間に讃えられる少年が紡ぐ、敵も味方も誰一人付いていけない常勝無敗ファンタジー。
大枠としては主人公最強+教官ものといった感じですが、主人公の俺TUEEレベルが半端ないです。
封印状態でも人類最強、少し力を解放すればラスボス級の敵でも苦戦すらせず。弱点らしい弱点もなく
身を縛る封印すらも自在に解除可能、ともうコイツ一人でいいじゃないかな具合がいっそ清々しい。
本作はそんな主人公の圧勝劇と、ヒロインたちとの交流からなる心の動きが軸となって話が進んでいきます。
ラストは人類を滅ぼさんとする天使たちを撃破し、そして人々は復興の道を今日も歩んでいくエンド。
なお、主人公は肉体を失うも、義体を作って復活。ラブコメ的には大きな進展も言及もなく終了。
主人公は大魔導師にして、邪神を使い魔の如く使役する「邪神使い」の少年。
誰に対してもぶっきらぼうで不遜な物言いと軽薄な態度をとっており、社会的な地位にもまるで興味がない。
また、世界から反逆者のレッテルをはられても、まるで応えずと精神的にもかなり図太い。
しかし、決して傲慢な性格というわけではなく、そのあり方はむしろ人から外れている自分という存在を
誰よりも理解しているからこその諦めにも似た滅私奉公精神からくるものであり
それは理解も賞賛も求めず「一匹でも多くの悪魔を殺す」という生き方に表れている。
ヒロインは意識の高い小隊長、犬系なボクっ娘弟子、毒舌クールな昔馴染み、魔導書の化身幼女。
一番のお気に入りはクールビューティーな小隊の戦闘管制官、園城寺栞。
大人びた風貌と怜悧な雰囲気の持ち主で、マイペースでつかみどころがなく、時折お茶目。
また、そっけない口調でハッキリとモノを言うなど、一筋縄ではいかないとっつきにくい性格。
主人公に対しては、平然と毒を吐きながらも「匂いが好きだから」と密着接触を行ったりするなど
複雑で捻くれていてわかりにくく、しかし誰よりも彼の幸せを願う深い愛情を抱いている。
評価はC。
主人公の桁外れの実力ゆえに戦闘パートで緊迫感がまるで感じられないのでは? という懸念が
未熟なヒロインたちにも主眼のウエイトを置くことで上手く解消されていた印象。
彼女達は乙女でありながらも男前、と芯のあるキャラとして描かれていたため不快感を感じませんでしたし。
また、敵が融和の余地のない悪魔や天使、欲深い権力者と撃破&目論見粉砕の爽快感がバッチリで
無双を気兼ねなく楽しむ相手として最適な存在感を見せているのもグッドでした。
本筋は最終決戦前に主人公が敗北して戦死し、最終巻でも終盤まで出番なしという思い切った展開でしたが
終わってみれば、生きるために一丸となって奮闘する人類、先頭に立って勇戦するヒロインたち。
そしてクライマックスで復活を果たし、ラスボスを倒す主人公。と王道を行く盛り上がりが申し分なかったですね。
まあ、未来は明るいとはいえ、人類側の被害が大きすぎてハッピーエンドとは言い難いですし
全体的にバトルや陰謀に重点が置かれすぎていたせいでラブコメ描写が薄かったのには不満が残りましたが。