銀煌の騎士勲章   川口士(一迅社文庫)



異世界を舞台にした、騎士を目指して上京した槍使いの少年の成長+成り上がり物語。
騎士、王族、魔物、召喚能力を持つ不思議アイテムといったファンタジー系のパーツを前面に押し出した
昔ながらの純正王道ファンタジーといった感じの作品ですね。
今時珍しい、特別な才能のない主人公というキャスティングもその一助になっています。
ラストは数々の陰謀を打ち破り、少年は騎士としての道を歩みはじめて―――エンド。
ラブコメ的にはヒロイン二人と個別で結ばれるエンドが分岐式で用意されていました。

主人公は騎士になるために田舎から上京してきた槍使いの少年。
真面目で温厚、そして純朴かつお人よしな性格をしている。
良く言えばまっすぐで誠実、悪く言えば頑固でバカ正直なタイプであり、口は上手いほうではない。
やや楽観的なところがあり、それが原因で騙されやすく、物事を安請け合いをしやすいところがある。

ヒロインはお転婆姫とクール侍女のダブルヒロイン。
一番のお気に入りは黒髪のクールビューティー侍女、イングリド=マルバ。
無表情で無愛想、感情の起伏が少なく、口調も抑揚が欠けており、淡々としている。
笑顔を作ることが苦手で、当然侍女の必須スキルともいえる愛想笑いもできない。
そのため、一見すると冷然とした人形のように見えるが、その内面には頑固で強情な性格、侍女としての誇り。
そして、職務を越えた献身的な心など、人間らしい部分もきちんと存在している。

評価はB。
作者さんの「ライタークロイス」という作品のリメイクということですが、過去作品ゆえの読みにくさは全くなく
むしろその前時代風味な雰囲気が、逆に新鮮な読み味を与えてくれました。
最後の最後まで特別な才能なしに走り抜けていった主人公も、泥臭い格好良さがあったと思います。
主人公以外の主観シーンの多さと地に足が着いた文章も、上手いこと世界観に深みを作っていましたしね。
本筋は主人公が騎士に就任し、愛する人と結ばれて終わるという「主人公一個人の物語」としては
綺麗な形で終わっていたものの、魔物関係をはじめとする数々の謎は残ったままであり、大局的にはさあこれから
というところでの終了だったので、ひとつの物語としては消化不良感が大きい終わり方だったかと。
最後のヒロイン分岐に関しても、個人的にはどうせなら二人とも選ぶエンドを作ってほしかったですし。