ドレスな僕がやんごとなき方々の家庭教師な件   野村美月(ファミ通文庫)



女装をして同盟国の王の子供たちの家庭教師をすることになった主人公の奮闘記。
舞台が一国の王城ですが、陰謀や政治的駆け引きといったキナ臭い要素はほとんどありません。
メインは可愛らしい子供たちと愉快な大人たちに囲まれた中でのハートフルコメディといった感じで
スッと飲み込みやすい設定と、サクサク読みやすい文章が良いですね。
何の過失もないのに、ハードモードすぎる環境に放り込まれた主人公には同情の一言ですが。
ラストは美しく成長したメインヒロインの聖羅と結ばれてハッピーエンド。

主人公は姉の代わりに王族の子供たちの家庭教師をすることになってしまった少年。
万能の天才と呼ばれた姉とは違い、本人は至って凡才でオーラのない小市民。
外見は姉そっくりで、肌も男とは思えないほどスベスベなため、女装が良く似合う。
お人よしで流されやすく、女装時もよく一人称で「僕」を使ったりと、迂闊で間の抜けた性格をしており
また、テンパったり感情が高ぶると、後先考えずに開き直ってしまう癖がある。
「おもしろ歴史読本」を愛読書にしており、歴史関係の雑学には詳しい。

ヒロインは九歳の天才王女、腐女子なメイド。ゲストヒロインに、男装の王女、男勝りなお姫様。
一番のお気に入りはクールな九歳の第一王女、聖羅=シルヴィーン。
さらさらの銀色の髪と、神秘的な紫の瞳を持ち、将来確実に美人になるであろう容姿の持ち主。
年齢不相応の頭脳の持ち主であり、バイオリンの腕前の一流と、いわゆる天才少女。
普段は周囲に無関心な風で、無表情無感情で生気のない人形のような印象を周囲に与えているが
実際は感情表現が下手で対人関係が苦手なだけであり、主人公と出会うまでは孤独と寂しさを抱えていた。

評価はB。
主人公との交流を経て、徐々に子供らしい一面や感情、恋心を表に出し始める聖羅が実に可愛らしかったです。
国王一家のアットホームな空気や、少しずつ成長していく子供たちの姿は見ていて微笑ましく
ジンとくるものがありましたし、話の緩急も文句なし。ラブコメパート含め、とにかく雰囲気がよい作品でした。
まあ、やたらと鬱陶しいキャラの存在や、姉関係の無駄に壮大な展開は個人的にはややマイナス要素でしたが。
本筋は七巻で終幕。そして最終巻は一冊を丸々使ったエピローグという構成になっていましたが
主人公とメインヒロインである聖羅の物語の締めくくりという意味ではこれ以上ない演出になっていたと思います。
今までの登場キャラ全員のその後も描かれていましたし、正に大団円といってよい出来だったかと。
最後に一言、主人公と聖羅夫婦の未来に幸福がありますように。