百錬の覇王と聖約の戦乙女   鷹山誠一(HJ文庫)



異世界に召喚された少年が、戦乱の時代の中で名を上げていく痛快無双ファンタジー戦記。
ネット小説ではよく見かけるものの、ラノベでは意外に見かけない「異世界軍事で現代知識チート」
というあざといまでのわかりやすさと爽快さのある設定が逆に新鮮でいいですね。
天才でもオタクでもない普通の十代の少年の知識なんて高が知れてるから、チートとか無理じゃね?
という点についても、ちゃんとスマホの使用が限定的に可能という解決策が用意されていますし。
ラストは新天地を平定し、隠居した主人公は息子に後を任せ、故郷の地へ。そして時は巡るのだったエンド。
ラブコメ的には七(実質的には八)人の妻を娶り、子や孫にも恵まれて終了。

主人公は異世界に召喚され、十六歳で氏族の宗主を務めることになってしまった少年。
平和な日本出身ということで、異世界における肉体労働面ではまるで役に立たないものの
二十一世紀の知識を活かした戦術や内政によって、氏族を富ませることに成功。
が、本人はズルをしていることを気にしており、人の上に立つ立場になっても自省する心を持ち続け
傲慢に振舞うことをせず、常に理性的で紳士的な態度をとるように努めている。
また、普段は気弱で謙遜がすぎるものの、誰かを護るためとなるとただならぬ覇気を見せる一面も。

ヒロインは健気な幼なじみ、しっかり者な副官、忠犬な女戦士、天邪鬼な鍛冶師、誇り高き妹分。
尊大な神帝、アホの子&ちゃっかり者姉妹、生真面目な美麗王。
一番のお気に入りは幼馴染以上恋人未満な少女、志百家美月。
いかにも田舎育ちといった素朴な感じの、いつも向日葵のような笑顔を絶やさない女の子で
おっとりしたところこそあるものの、ころころと表情がよく変わる、小動物的な可愛らしさの持ち主。
スペック面こそ平凡だが、長年想い続けてきた主人公のために家族や友人と別れ、見ず知らずの異世界に
永住する決意をしたり、現代日本の出身にも関わらず妾を認めたりと、精神面はかなり大物。

評価はB。
文明レベルが低い世界が舞台なので、戦記ものである割にはあまり複雑な背景や設定がなく
それでいながら軍同士の戦いの中でのパワーバランスを大きく崩さない程度の異能が存在しているため
軽快さと華々しさが両立し、実に読みやすいラノベ的戦記物語に仕上がっていました。
主人公も、周囲に持ち上げられるに相応しいだけの活躍を見せてくれるので見ていて気持ちよかったですし。
また、各ヒロインとのラブコメイベントが戦争の合間ごとに用意されているのも良い息抜きになっていたかと。
本筋は次代への継承など、王としての後始末を終えた上で故郷(日本)へと帰還し大往生。
そして未来の自分自身に矛盾が発生しないように下準備も忘れず。
と、タイムスリップ&戦記ものとしては一つの満点回答ともいえる締めを見せてくれて大満足でした。