引退した皇帝騎士、帝国三大組織の主となる   武葉コウ(富士見ファンタジア文庫)



恩返しとして何でも望みを叶えてくれる少女と組織を手に入れてしまった元皇帝騎士の物語。
命を救ってくれた人に恩を返す、と書くと典型的な美談ではありますし、そこに齟齬はないのですが
国家に影響を及ぼすレベルの巨大組織を立ち上げました、というのは恩返しスケールが凄すぎである。
しかも事の発端である主人公自身はこうなるとは欠片も想像していなかったわけですしね。
いやまあ過去の戯言を本気にし、更にはガチで実現してしまうとか普通は想像の範疇外ですし…
救われた側のヒロインたちからすれば、それだけの恩だと感じていたということなのでしょうが
ラブコメ面は複数のヒロインに好かれているも、一人を選べば修羅場待ったなしの状況で…?

主人公は史上最悪の魔獣災害を止めた帝国最強の皇帝騎士十二人の元一人である少年。
五年前に皇帝騎士の任を解かれ、各国を旅していたが皇女から帝都に呼び戻され
エルドストロム帝国の秩序を守るのに必要不可欠な三大組織を制御してほしいと告げられることに。
真面目で礼節を弁え、責任感が強く、忠義に厚い、と一見すると騎士の鑑のような人間だが
同時に、他者からドン引きされるほどの仕事人間であり、騎士バカ。
誰かの喜びが、己の喜びのように感じられる性質で、それゆえに自身に無頓着なところも。
貴婦人に対する騎士の礼節は主君であるエイルフィナによって仕込まれているが
彼女の私情が絡んだ結果、他者の美しさを褒めることに抵抗を覚えないようになっている。
皇帝騎士時代、昼夜を問わずに招集され、任務にかける日々を送っていたため、常に不眠症気味。

ヒロインはワンコな団長、小心者な会長、純粋無垢な聖女、気さくな皇女、マイペースな後輩騎士。
一番のお気に入りはエルドストロム帝国の第三皇女、エイルフィナ・エス・エルドストロム。
見る者に畏敬の念すら抱かせる美貌の持ち主。
皇族の一席に相応しい美貌と聡明さを併せ持ち、国への献身性や民や部下への優しさも有しているが
やや素直すぎる(親しい人の前では特に)きらいがあり、腹芸には向いていない。
幼い頃から騎士兼付き人として仕えてくれていた同志であり恩人、懐刀でもある主人公のことを好いている。

現時点(一巻)においての評価はC。
主に仕えていた騎士が巨大組織の主に、守るために戦っていた騎士が守られる存在に。
立場が百八十度変わってしまい、ただひたすらに甘やかされることになっても騎士の心意気は失わず
主として、騎士として、その両方で相応しくあれるように奮闘する主人公の姿が面白格好良い。
そんな彼に奉仕を捧げるヒロインたちも、極端なところこそあれどもその献身性は紛れもなく本物ですし
三者三様の愛情の示し方や恩返しの方法、過去が明確な個性となっていてグッド。
本筋は人為的に引き起こされた災厄を食い止めることに成功した主人公たち。
しかし国は内も外も問題だらけ、不穏な謎や秘密もあったりと、平和は遠い模様。