異世界リーマン、勇者パーティーに入る   岡崎マサムネ(ガガガ文庫)



勇者一行が魔王を討伐するまでの日々を描いた、笑いあり、涙あり、営業のハヤシありの英雄譚。
大枠としては異世界転移ものですね。ライトノベルにおいて昨今では逆に珍しくなってしまった感のある
魔王討伐を目指す真っ当な面子揃いの勇者パーティーが主要キャラになっていること。
また、その一方で、主人公自身は勇者どころか戦うポジションですらないという二点が特徴ですね。
元社畜なサラリーマンが元の世界で培った経験を活かし、手土産や褒め殺しといった営業スキルで
勇者パーティーの縁の下の力持ち役として活躍する様は新鮮な小気味よさがあります。
ラブコメ面は魔王軍四天王の一人が主人公に惚れるというまさかの展開に。まあ彼のほうは無反応ですが。

主人公は数十年に一度出現するとされる異世界人にして三十代の中年男性。
元の世界、そして魔王を倒すべく立ち上がった勇者パーティーにおいての役割は営業。
温厚で礼儀正しく、謙虚で堅実、優しい性格をしているが、ブラック企業で働き続けてきたがゆえに
自己評価が低く、私欲というものがほぼ皆無の、何もしないと落ち着かないワーカーホリック。
性欲もすり減り、心が枯れ果てているため、美女に迫られても何も感じない。
また、元上司がパワハラ気質だったせいか、プレッシャーを感じる器官が麻痺してしまっており
実際、ステータス上では永続的な状態異常「麻痺」にかかっている。
人の顔色を窺うのが癖で、その観察眼は読心術レベル。

ヒロイン(というかレギュラー)は癒し枠な僧侶。昇格候補に努力家な淫魔。
一番のお気に入りは魔王軍四天王の一人、淫魔のイライザ。
ウェーブがかかっている長い赤髪、気だるげな垂れ目、女性らしい身体つきと、妖艶さが際立っている美人。
やるならとことん、仕事にも熱心と大の努力家。様々な手練手管を実地研修で身に着けて四天王まで上り詰めた。
世間ずれしていない女を演じさせれば右に出るものがおらず、そのあざとさは一国を亡ぼすと言われたほどだが
ありのままの姿の自分を見て、褒め称え、励ましてくれた主人公に恋をしてしまう。
酒に関して言えば、魔王軍四天王の中でも最弱。

現時点(二巻)においての評価はC。
道中は荒事だらけの魔王退治が目標である勇者パーティーの一員なのに主人公の役割は調整。
とにもかくにもこの斬新さが目を惹く作品ですが、奇をてらっただけの一発ネタでは終わらず
旅路が円滑に進むように、サラリーマンならではの手練手管で問題を解決していく主人公が愉快痛快。
また、しっかりと彼の頑張りに感謝できる仲間たちも良い奴ら揃いで見ていて気持ちよい。
追放ものなどではありがちですが、戦わないというだけで見下し、功績を認めない仲間が多いため
本作の勇者パーティーの素直さには心が洗われます。異世界で初めて報われる主人公も良き。
本筋は魔王軍四天王のうち二人を撃退(?)し、伝説の装備集めも着々と進むなど、旅路は順調ですが、さて。