嫉妬探偵の蛇谷さん   野中春樹(ガガガ文庫)



嫉妬が嘘をあぶりだす、学園青春探偵物語。
大枠としてはミステリーものですね。舞台が現代日本の学園ということで、殺人などの物騒な事件は起きません。
ただ、平和的かつ青春の一幕っぽい爽やかなオチに纏まりがちな他の学園ミステリー作品と比べると
陰鬱というか、人間の身勝手さが結構前面に出ています。事件自体も訴えれば犯罪になるものばかりですし。
まあ、探偵役である蛇谷さんの原動力が嫉妬であるという時点で仕方ないの事なのでしょうが。
ミステリー部分にしても、謎解きよりも犯人の動機追及のほうが重要視されていますしね。
ラブコメ面はくっついてこそいないものの、メインヒロインの蛇谷さんと好意を向けあっている状態の模様。

主人公は蛇谷さんが所属する園芸部の新入部員である高校一年生の少年。
面倒見がよく、まったく嘘がつけない素直な性格をしており、内心を顔と口に出してしまいがち。
中学時代にその性格を利用され、クラスが纏まるための共通の敵に仕立て上げられたことがある。

ヒロインは嫉妬深い先輩。サブに朗らかな生徒会長。
一番のお気に入りは美しい見た目を台無しにするような嫉妬の権化である園芸部の先輩、蛇谷カンナ。
肩甲骨より長く伸びた流れるような黒髪、切れ長な目尻に、長い睫毛を有する美少女。
恨み、妬み、嫉みが燃料で、口を開けば嫉妬塗れの怒涛の毒舌。美しい花を憎み、雑草の惨めさを愛する。
嫉妬心と敵愾心が強い上、色々疑い深く、他者の悪意にも随分と用心深いが、防御力は雑魚。
好きなものより嫌いなもので自分を語りたい。ただ、悪者が嫌い、という意味での正義感はある。
好きなものは惨めな人、馬鹿な人、自分より下な人ともの、嫌われている人、そして悪者のいる謎。

現時点(一巻)においての評価はC。
黙っていれば美人なのに、を地で行く蛇谷さんの可愛さを楽しむべき作品ですねこれは。
全方位に嫉妬してツンツンしているのに、攻められると弱いという彼女の王道のツンデレっぷりは実に魅力的。
相方となる主人公も「嘘がつけない」という性格が彼女にピッタリとマッチしているのがグッドです。
ミステリー部分も面白くはあるのですが、事件性自体は軽めなのに内実が重いケースばかりなので
読み味が重くなりがちなのが……だからこそ解決パートでの蛇谷さんの毒舌無双が輝くのですけども。
本筋は数々の事件を解決し、仲を深めていく主人公と蛇谷さんですが、さて。