悪ノ黙示録 牧瀬竜久(ガガガ文庫)
死してなお悪道を征く、転生系ダークファンタジーストーリー。
大枠としては異世界転生ものですね。特徴は主人公の前世が裏社会の支配者だったという点。
この手のダークサイド系の主人公は、肩書きほど有能でなかったり、ポカが多かったり、甘さが目立ったりと
看板倒れになりがちですが、本作の主人公は元裏社会の支配者という経歴に違わぬ有能さ。
そして度胸と矜持、カリスマをこれでもかと魅せてくれるため、見ていてワクワクします。
タイトルの通り、主人公は悪側に属する人間であるため、卑怯・非道な手段をとることが多いですし
勧善懲悪にはなりえない、悪で悪を征す様は時に不快感を覚えることもあるかもしれませんが
同時に、正義の執行では味わうことができない爽快感、そしてピカレスクロマンを楽しむことができるかと。
ラブコメ面は今のところ進展なし。まあ、中身は還暦過ぎた老人ですしね主人公…
主人公は晩年、裏社会の支配者として君臨していたが、絞首台の上で命を落とし
意識を取り戻した時、異世界で何の権力も持たない唯の少年へと生まれ変わっていたマフィアの首領。
判断力に優れ、胆力、忍耐力、冷静さなど人の上に立つために必要な力、そして運を兼ね備えている。
幼い時分、身寄りもなく、血の繋がった家族など誰一人として存在していなかった孤独な
スラム暮らしをしていたがゆえに、仲間のことを家族と呼び、他の何よりも大切にしている。
反面、家族以外の人間を切り捨てることに躊躇がなく、人を傷つけ、殺すことに何の感情も抱かないし
目的のためならば手段を選ばず、敵は容赦がない。勿論拷問もお手の物。
ヒロインはクールな一匹狼娘、忠義厚きなメイド。
一番のお気に入りは主人公によって名を与えられた謎の多いスラム街の少女、ユキ。
華奢な体躯に色素の薄い髪の美少女。自主的に着替えたメイド服がトレードマーク。
無口で大人しめと無害そうだが、そう擬態しているだけで中身は達観しており、戦闘力もかなり高い。
暗殺一族が営む村で育ち、体術勉学共に優秀と暗殺者としての能力は高かったものの
魔力欠乏症という致命的な欠陥があったがゆえに処分されそうになり、脱走したという経歴の持ち主。
いつか理想の主に仕え、素敵な名前をもらえる日を夢見ていたことから
自分に名をくれた主人公のことを主人と崇めており、非道な命令に従うことも、抱かれることすら厭わない。
現時点(一巻)においての評価はC。
とにかく主人公の生き様が格好いい。覇道を歩み、仲間は何があっても守る、敵は容赦せずに殺す。
己の悪の美学で躊躇なく他者の悪と正義を喰らう。ダークヒーローとはかくあるべし。
そんな彼を取り巻く仲間たちもそれぞれが個性的で頼りがいがありますしね。
ただ、主人公の精神年齢が老人ということもあり、恋愛展開は期待できなさそうなのが残念なところですが。
本筋は仲間を集め、再びこの世を支配することを決意した主人公。
街を実質的に支配下に置くことに成功するも、厄介な敵を逃がし、復讐者を生み出すなど不穏な要素も。