無能と言われ続けた魔導師、実は世界最強なのに
幽閉されていたので自覚なし

                                              奉(オーバーラップ文庫)



超規格外な魔導師がゆく、無自覚無双ファンタジーストーリー。
大枠としては成り上がり要素のある冒険譚ですね。無能の烙印を押されていた主人公が監禁生活の中で
世界最強の実力を身に着けるも、当人にその自覚はなく、しかし周囲の反応は驚愕の一言で…!?
という、テンプレな勘違い要素も加わっています。この手のジャンルは作風がコミカルに寄るのが常ですが
当作品の場合はシリアス成分のほうが強いため、新鮮な読み味に仕上がっている印象。
主人公も一巻の段階で最強とまではいかずも自分が弱くないと自覚するのでイライラすることもないですしね。
また、天帝と書いてインドラと読んだり、魔法詠唱が凝っていたりと厨二感が滅茶苦茶濃いですが、それがいい。
ラブコメ面はヒロインのうち二人に、無自覚ながら「責任をとる」とも発言している主人公ですが、さて。

主人公は耳が良くなるだけの無能ギフト「聴覚」を得てしまい、この事実を隠蔽したい父親の思惑で
結界で封印された塔に長年幽閉されていたアース帝国の辺境伯の嫡子。
幽閉中、「聴覚」を利用し情報を集めていたため知識は豊富だが、一般常識には疎い。
感情の起伏が少なく、動じることもあまりないが、根は善性。黒髪と朱黒妖瞳(オッドアイ)が外見上の特徴。
人と関わることがほとんどなかったがゆえに、他者に対して距離感が近く、言動もややぞんざい。
また、美女美少女の裸を目の前にして動揺しなかったりと、色恋に関しても無垢であり、羞恥心がない。
無能と言われた自分が「魔法の神髄」を退け「魔帝」となり、全ての者たちの希望となることが目的。

ヒロインは聡明な姉王女、奔放な妹王女、クールな侍女、大喰らいな魔族娘。
一番のお気に入りは滅亡したヴィルート王国の第一王女ユリアの侍女、エルザ・フォン・アーケンフィルト。
青髪青眼、陶器人形のような白い肌、女性として豊満な肉体を有する、どこか冷めた雰囲気を纏った美人。
完璧主義、潔癖であり清純、クールな性格で主人であるユリアに心酔している。
感情を表に出さない無表情と不愛想な態度が常だが、実は可愛いぬいぐるみが好き。
色恋にはピュアかつ覚悟ガン決まりで、男性に肌を見せるのは一生に一人だけと決めており
王都にいたころ、その端麗な造形を愛でようと求婚が絶えることがなかったが、全て断っている。
炊事選択、ギルドの運営から酒場の経営まで全てが完璧で、事実上所属ギルドの要。

現時点(六巻)においての評価はC。
無能と思われ、虐げられ続けていた主人公が実は世界最強だった!
ラノベ業界ではありふれすぎていて、新鮮味などとうの昔に消え去った感がある設定ではありますが
作者の調理の腕次第でまだまだ味が引き出せるジャンルなんだな、と認識させてくれる作品。
全てを聞き出せる聴覚を持っているのに性関係には疎かったりと、少しばかり引っかかる点こそあるものの
主人公が世界最強へと至った過程にはしっかりとした説得力がありますし、彼と対峙する敵にしても
馬鹿で間抜けなやられ役ばかりではなく、きちんと強者としての格があるキャラが登場するので
主人公無双物語でありながらも適度な緊張感とシリアス感が保たれているのがグッド。
ただ、それゆえにヒロインたちも裏がある面子揃いなので、素直にラブコメが楽しめないのが難点ですが。
本筋は遂に自身のギルドを設立した主人公。しかしその裏では彼を巡って聖女と女王の戦いが勃発。
更にはそこに女王の命を狙う上級魔族までもが絡んできて大騒動に。