「おはよう、香里。」
と、名雪。
「おっす、香里。」
と、祐一。
「おはよう。・・・でも以外ね。二人がこんなに早く登校して来るなんて。」
ありえないわ、というような表情をした香里。
普段は遅刻か遅刻寸前の二人が普通に歩いて登校して来たのだ。
それが普通であるが、この二人にとっては普通に登校する事が普通ではない。
「かなり苦労したぞ。」
「みたいね。」
「二人とも何気なく酷い事言ってない?」
「「いってないぞ(わ)」」
はもる祐一と香里。
「そうなかなぁ・・・・?」
疑問詞の名雪。
「こんな所で喋ってないで行くぞ。せっかく遅刻せずに来たのに遅刻になってしまう。」
「そうだね。」
校門に入ろうとした時、何処からとも無く一人の男が走ってきた。
「おー! 相沢ー! 美坂ー! 水瀬ー!」
「ん? 北川じゃねーか。で、何かようか?」
「大変だ! 校庭にブラックホールが発生した!!」
「「「はぁ・・?」」」
魔界に行こう
by 輔
校庭にやってきた四人。
そこには他の生徒が沢山集まっていた。
先生が危険だから離れる様にと叫んでいるが聞いている様子は無い。
「あそこだ。」
指差す北川。
「ブラックホールねぇ・・・それって宇宙にあるものだろ? 北川寝ぼけたじゃねーの?」
「阿呆! 見てから言え!!」
四人は集まっている生徒の人垣にわけ入っていく。
そして、中心部で四人が見た物。
黒い渦が中心に向かって渦巻いていた。
「むぅ・・・これは・・・・」
「ほら! 言った通りだろう!」
「何これ?」
「宇宙人だよ〜。宇宙人が攻めてきたよ〜。」
ごっ
鈍い音がする。
「酷いよ〜。」
「寝ぼけないの!」
香里が名雪を殴ったのだ。
「これって何かしら? 北川君の言うとおりにブラックホールみたいだけど?」
「地球上に出来るモンなのか? 香里?」
「出来るわけ無いでしょ! そもそもブラックホールは、太陽の三十倍以上の重さの星が大爆発をおこしたときにできる星なのよ! 地球が消し飛んでいるわよ!」
「おお〜。さすが、香里先生。お見それ致しました。」
「ちゃかさないの!」
「へいへい。」
その時だった。
その黒い渦が大きくなったのだ。
もちろん吸引力も上がった。
「え・・・? きゃあああああああっ!!」
香里が吸い込まれはじめた。
「香里!!!」
香里の手を繋ぎ、踏ん張る祐一。
吸引力は強く、引きずられた。
「くそぉ!」
踏ん張る祐一。
ずるずると引きずられる。
「祐一!!」
「美坂!?」
二人が手を伸ばした。
しかしすでに遅かった。
「きゃああああああああああ・・・・・・・・・」
「うわああああああああああ・・・・・・・・・」
二人は飲み込まれてしまった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
ゆさゆさゆさ・・・・・
「もう少し寝かしてぇ・・・・うふぅ・・・・ん・・・・・」
色っぽい声を出して悶える祐一。
それに対して香里・・・・キレた。
ぶち
ぐわしゃ!
「いってれぼっ!」
奇怪な叫び声を上げ、苦しみ転がりまわる祐一。
「寝ぼけないでよ!」
「おおう、香里か。」
殴られた所を撫でながら、祐一は起き上がった。
「香里か、じゃないでしょう!?」
「悪い悪い。そういや、あの黒い渦に吸い込まれて・・・・どうなったんだ?」
「切り替えが早いわね。まわり見ればわかるわよ。」
祐一は周りを見回した。
荒れた大地が続いている。
こげ茶色をした土。
朽ち果てつつある木。
砂漠になり始めているようにも見えた。
「ここ何処?」
「私が聞きたいぐらいよ。」
「どうしよう?」
「私が聞きたいぐらいよ!」
「怒ってばっかりいると可愛い顔が・・・・ひでぶっ!」
香里の左ストレートが祐一の顔面に炸裂した。
また、奇怪な叫び声を上げ、苦しみ転がりまわる祐一であった。
「そんな事言っている場合じゃないわよ。」
「そ・・・そうみたいだな。・・・・しかしいてぇ・・・・」
再び殴られた所を撫でながら、祐一は起き上がった。
「とりあえず歩いてみましょう。」
「そうだな、ここにボケッとしてても始まらんな。」
二人は歩き始めた。
しばらく歩いて。
景色はほとんど変わらなかった。
「むぅ・・・ 同じような所を歩いているようだぞ。」
「そうみたいね。」
「このまま歩いても・・・・お?」
「どうしたの?」
「人が居る・・・・」
「え・・・・」
祐一の視線の先を見た。
人影が見える。
枯れ木がそう見える訳ではなさそうだ。
「助けを頼んでみよう・・・おー・・・・」
「ちょっとまって!!」
香里は祐一の口を塞いだ。
「うごうごうーご・・・・」
香里は人影に違和感を覚えた。
頭があり、腕があり、足がある。
それ以外にもあった。
背中から・・・・
「あれ人? 翼みたいなのが・・・・」
「がぼーり。」
口を封鎖されてしまった祐一が、香里と言った。
「あ、ごめん。」
香里は、忘れていたらしい。
手を離した。
「いきなり何を・・・・」
「あれ変よ。翼みたいなのが・・・」
「翼?」
祐一が人影を見た時。
人影が増えた。
そして・・・・飛んだ。
「な・・・!」
「え・・・!」
その影が祐一と香里の所に下りてきたのだった。
「「ひええええええ!」」
「珍しい物見つけたって?」
「はい。どうやら、人間のようです。」
「人間? また、攻めてきたのか?」
「いえ、迷って来たみたいです・・・・」
「はぁ?」
「どうしましょうか? ギルヴァイス様。一応、牢屋にぶち込んでおきましたが・・・・」
「わかった、後で行く。」
薄暗い牢屋。
先ほど捕獲されてしまった祐一と香里がぶち込まれていた。
牢屋の隙間から、地下水と思われる水滴が滴り落ちるので恐怖を誘う。
「どうなっちゃうんだろう・・・? 食われるのか?」
「私はいやよ!」
「俺だっていやさ。でもあいつ等見たか? どう見ても悪魔だろ?」
「よくわかっているじゃないか。」
鉄格子の前から声がした。
そこには兵らしき人物が数人後ろに控えさせた男女が立っていた。
祐一は香里を後ろに庇う。
「警戒されているな。しょうがないか。自己紹介をしよう。俺はギルヴァイス。こっちはヴィディア。」
と男は言った。
「宜しくね。」
隣の女性が言った。
「んで、君たちは?」
ギルヴァイスは祐一たちに自己紹介を促す。
「相沢祐一だ。」
「美坂香里よ。」
怒鳴る祐一に対して震え声の香里。
「怒鳴ったり、怯えなくても・・・」
呆れ顔のギルヴァイス。
「それは無理ってものでしょ?」
「そうかもしれんが・・・」
「私が変わるわね。」
ヴィディアは武器を外し、ギルヴァイスに渡すと牢屋に入ってきた。
戦慄する祐一。
「そんなに怖がらなくていいわ。貴方達の疑問に答えてあげる。」
優しい声で言うヴィディア。
「疑問だと・・?」
強がる祐一だが、心なしか震えている。
「ここは魔界と呼ばれる場所。そして、私達は悪魔。」
「「!?」」
「でも、安心して。返してあげるから。それに私達は人間を食わないわよ。」
「人間傷つけたら、魔王様に怒られちまうからな。」
((魔王様・・・!?))
二人の頭の中には、テレビや漫画で描かれている魔王の姿が浮かび上がった。
「ギル。勝手に彼らを人間界に戻せないから、魔王様にお伺いをたてましょう。」
「そうだな。」
((魔王様・・・・・))
謁見の間に通された・・・いや、連れて来られた祐一と香里。
そこには四人の男女が居た。
少女と見間違えるほどの美少年。
メガネをかけた科学者らしい青年。
巨乳の美女。
そして、威厳こそあるが普通の少年。
「こいつらは一体・・・?」
呟く祐一に対してギルヴァイスが言った。
「言葉に気をつけろよ。彼らは魔界四天王フィアーカルテットの皆さんだ。」
「魔界四天王!?」
「そういうこった。」
「ギル、この者達かい? 迷ってきた人間というのは?」
真ん中に座していた少年が言った。
「ああ、レイジ。」
(こいつ・・・・魔界四天王に対してタメ口きいてるぞ。まさか、コイツが魔王では・・・?)
「自己紹介が遅れたな。俺はレイジ。魔界四天王フィアーカルテットの一人。」
「お、お、俺は、相沢祐一。」
「美坂香里です。」
ギルヴァイス、祐一、香里、ヴィディアの順に並んでいる。
逃げ場は無い。
祐一は覚悟を決めた。
「僕はユーニ。レイジと同じ魔界四天王フィアーカルテットの一人。」
「私はフォレスター。」
「あたしはパージュさ。」
次々と名乗る。
(ガキがユーニ。男がフォレスター。巨乳がパージュ。)
変な覚え方する祐一。
「ジェネラル。こいつ等どうするつもりだ? 良い実験材料なのだが・・・・」
フォレスターがメガネを指で上げるとそう言った。
その目は実験動物を見る目だ。
「綺麗な羽持ってないから、殺しちゃうかな。」
ユーニが両腕を頭の後ろに回した格好で無邪気そうに言った。
(・・・・おいおい。やっぱ、悪魔だー。すごい事を平気で言ってるぞ。)
「およし、お前達。この件はジェネラルが決めることさ。」
物騒な事を言う二人をパージュが制した。
(パージュって悪魔。姉御肌・・・?)
「そうだな、人間界へ帰そうか。」
「ジェネラル。それはジェネラルが決めた事だから反論せんが、記憶はどうする?」
「やっぱ、殺しとこうよ。」
「そのままで大丈夫だと思うが・・・・」
「ここで議論しても答えは出ないようだね。ここは魔王様に決めてもらうのはどうかい?」
「そうだな。」
「ちぇぇっ。」
ふてくされるユーニであった。
「それでは呼んでくるよ。」
レイジは席を立つと奥の部屋に歩いていった。
「いよいよ、魔王の登場だな。」
「どうなっちゃうんだろう、私達。」
「魔王次第ってところだな。」
「・・・・・・」
祐一は香里を抱き寄せた。
驚く香里。
「なるようにしかならないさ。」
「相沢君・・・・」
それを見ていたパージュがクスクス笑っていた。
「魔王城まで来ていちゃくつなんてやるね、アンタ達。」
「いちゃついてないぞ。」
「そうかね? クスクス。まぁ、いいさ。魔王様の御登場だ。粗相の無い様にな。」
レイジが奥の部屋から戻ってきた。
一人の女性を伴って。
(魔王を連れて来るんじゃなかったのか?)
変な顔をしていた祐一に気がついたギルヴァイスが耳打ちした。
「魔王ジーナローズ様だ。」
「なにぃ!?」
祐一の中で魔王像が崩れた。
目の前にいるのは普通の女性だ。
黒い翼を持ってはいるが、綺麗な女性だった。
「声が大きいぞ。」
ぎろっと睨むギルヴァイス。
「この者達ですか? 迷ってきたと言う人間は?」
「そうです、姉さん。」
「姉さん!?」
驚く香里。
ヴィディアが香里に耳打ちした。
「レイジはね。魔王ジーナローズ様の実弟なのよ。」
「姉弟・・・・・」
「ええ・・・」
詳細をレイジから聞いていたジーナローズ。
「戻しましょう。」
「記憶はどうしようか?」
「そのままでかまわないでしょう。」
そういうと、祐一と香里の立っている場所へ歩いてきた。
その後に続く、レイジ。
魔王が目の前にやってきたので驚く祐一と香里。
「ごめんなさいね。変なことに巻き込んでしまって。時空の歪みが貴方達をここに運んでしまって。」
優しい口調。
「魔王様、お・・・いや、私達はどうやって戻れば宜しいのでしょうか?」
「私の力で帰します。」
そう言うとすっと祐一と香里を抱きしめた。
「「!?」」
魔王に抱きしめられるという状況に驚くしかない祐一と香里であった。
魔方陣の中央に立つ祐一と香里。
その周りには、魔王ジーナローズ・レイジ・ギルヴァイス・ヴィディアが居る。
魔界四天王フィアーカルテットは退室して、各々の居城に戻っていった。
「それでは帰します。あ、あまり緊張しなくてもいいですよ。」
魔王というより、優しいお姉さんという感じのジーナローズ。
祐一と香里の緊張が緩む。
「始めます。」
そう言うと呪文を唱え始めた。
魔方陣が輝きだした。
そして祐一と香里を包んで、その姿が消える直前・・・・
「さようなら。愛しい人間達・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「きゃああああああああああ・・・・・・・・・」
「うわああああああああああ・・・・・・・・・」
黒い渦からはじき出されてきた。
「大丈夫か!」
「んぁ? おお北川か、懐かしいなぁ・・・」
「何寝ぼけてるんだ!!」
「名雪。一体何が起きたの?」
「吸い込まれたと思ったらすぐにはじき出されたんだよ。」
「え・・・すぐ?」
「そうだよ。」
(あの経験は一体・・・?)
香里には魔界へ行って魔王に会ったと言うのが嘘のような気がした。
「香里大丈夫?」
「大丈夫よ。」
香里には気になっていた。
魔王が、ジーナローズがいった言葉。
(さようなら。愛しい人間達・・・・・)
おしまい
おまけ・・・・登場キャラ
「Kanon」より
相沢祐一・・・主人公。後は略(笑
水瀬名雪・・・本編のヒロイン。今回はサブ。
美坂香里・・・本編のサブヒロインの一人。今回はメイン。
北川潤・・・祐一の友人(?) 後は略(爆
「BLACK/MATRIX II」より
ジーナローズ・・・魔界を統べる魔王。慈愛に満ちている。
レイジ・・・魔界四天王フィアーカルテットを統べるジェネラル。実姉ジーナローズを愛しちゃってる極度のシスコン。
パージュ・・・魔界四天王フィアーカルテットの紅一点。生命を吸い取る能力を持つ姉御。
ユーニ・・・魔界四天王フィアーカルテットの一人。天使や悪魔の羽を楽しそうにもぎ取る美少年。
フォレスター・・・魔界四天王フィアーカルテットの一人。魔界一の頭脳を持つマッドサイエンティスト。
ギルヴァイス・・・レイジの側近兼幼馴染。
ヴィディア・・・レイジの側近兼幼馴染。