「ほら」
「ありがとう」
「後で金は払えよ」
「せこい人ねえ。これくらい恩を売っておいたって損はないわよ」
「悪いが今月はマジで金がない。ていうか受験が終わるまでマジで金に余裕がない」
「はいはい、そういうことにしておいてあげるわ」
香里は溜息をついて俺から受け取ったコーヒーの缶を開けた。
今俺達は駅前のベンチに座っている。
あのまますぐに家に向かおうかとも思ったのだが、
香里が思ったよりも衰弱しているので、こうして駅前のベンチに座らせて休ませている次第だ。
で、冷え切った体を温めるために、いつかここで名雪からもらったようにコーヒーを香里に買ってやった。
無論、俺が香里にやったコーヒーは冷めてなどいないが。
「どうするんだ? 栞には俺から伝えてやるから今日は帰った方がよくないか?」
こんな熱まで出ている状態で水瀬家まで連れて行っても、ちゃんと自分の家に帰れるのか心配である。
「大丈夫よ。どうせ寝込むならやらなきゃいけないことくらいはしておかないと」
「そうか」
駅前の時計を見ると9時。
かなり時間が経っていたようだ。
雪が止んだせいか駅前はまばらではあるが、会社帰りの人たちが連れ立って楽しそうに話しているのを見かける。
そういや、もう週末だったな。
誰もいない寂しい夜の学校より、そんな人の営みが感じられる駅前は心持ち暖かかった。
「行くか?」
「…もう少しだけ休ませて」
「わかった」
香里も俺と同じものを感じていたのだろう。
今しがた目の前を通り過ぎていった数人のグループをぼんやりと眺めていた。
考えてみれば、ここ数日香里は完全に孤立してたんだよな。
まさに身も心も冷えた状態だったわけだ。
「相沢君…栞はあたしを許してくれるかしら?」
不安そうに呟く香里。
確かに栞が家出をするくらいの大喧嘩、普通ならいくら謝っても簡単に許してもらえる状況じゃないだろう。
だが、栞なら…
「栞なら大丈夫だ。その代わり、真剣に謝れよ。あとあゆにもな」
「そうね、栞にもだけど、あゆさんにもちゃんと謝らないといけないわね」
「ブッ!」
「何よ、汚いわね」
待ってる間暇なので自分も買ったコーヒーを俺は盛大に噴いた。
当然のように香里から白い目で見られる。
「あゆさん〜? お前いくらなんでも同い年に下の名前で『さん』付けはないだろう」
年下の栞ならまだしも、せいぜい『ちゃん』づけだろう。
そもそも下手をすれば外見は栞より……
「相沢君、自分の彼女のことをなんだと思っているのよ」
「いや、そう言われると身も蓋もないんだが…」
名雪が呼び捨てなのに、あゆがさん付けで秋子さんと同格扱いっぽいのはなんとなく違和感が……
「彼女はあたしの大事な妹を助けてくれた人なんだから、いくら感謝してもし足りないでしょう」
「それは分かるが…」
いくらなんでも気持ちの切り替えが早すぎると思う。
「栞が退院してからずっと思ってたわ。でも、実際にあゆさんを見るとどうしても自分が許せなくなって…」
「誰かに叱って欲しかったのか?」
「そうね。栞があんまりにも素直に許してくれたから気持ちのけじめがつかなかったんだと思うわ」
そう言って香里は自嘲する様に笑った。
「相沢君に殴られてみたら、自分が何に意固地になってたのかここまで馬鹿らしく思えてくるなんてね」
皮肉なものだと思う。
栞は姉と早く昔と同じような関係に戻りたくて何も言わず香里を受け入れたのだろう。
しかし、責任感の強い香里はそんな栞の無条件の許しを受け入れることが出来なかったのだ。
最初は僅かに狂っただけの歯車。
だが、約1年という歳月はそこから全ての崩壊を生むのに十分の長さだった。
しばらく重い沈黙。
一つ前の電車が到着してから時間が経過したせいか、駅前は急速に静かになっていた。
そろそろ、ここにいるのも限界だな。
よし。
俺はそう思い立って香里に声をかける。
「ああ、そうだ香里」
「何?」
「なかなかセクシーな黒の下着だったぞ」
パンッ!
問答無用で平手打ちを喰らった。
ベンチから立ち上がって僅か1秒にも満たない早業。
しかも腰が入っててかなり痛い。
「何考えてるのよ!」
「いや、香里を殴り倒した時に見えてたんだ。ま、この平手打ちで傷害罪はチャラってことで」
奥歯折っておいて法的にチャラなわけないだろうが、一応これで一方的に殴った後味の悪さは少しはなくなった。
「はあ…負けたわ、どうやったらそういう結論になるのよ。まあ、そういうことにしておいてあげるわ」
香里は溜息をついて、何故か素直に負けを認めてくれた。
「そろそろ行くか? せっかく立ったんだし」
「そうね」
そう頷いて、香里は空になったコーヒーの缶を数メートル先のゴミ箱目掛けて投げる。
缶は綺麗な放物線を描いて……
スコーンッ!
見事にゴミ箱に入った。
「よし!」
それを確認して小さくガッツポーズをする香里。
「…………」
「な、何よ? ゲン担ぎよ、ゲン担ぎ」
俺が何とも言いがたい気持ちで香里のその行動を見つめていると、香里がジト目でこっちを見返してきた。
ちょっと恥ずかしがってるような気もする。
「いや…別に」
香里の品のない行動に驚くべきなのか…それとも香里がガッツポーズをしたことに驚くべきなのか…
なんだか今日は普段見ない香里の一面を多く見た気がする。
駅前を離れ、一路水瀬家へ。
商店街を抜け、いつもの通学路の真ん中に出たところで香里が口を開いた。
「そういえば…相沢君って非常識な人ね」
「何が?」
「女の子の顔をグーで殴るなんてね」
ひょっとしなくても結構根に持ってます?
俺も平手打ちじゃなくてゲンコツでぶん殴ったことはかなり後悔してるんですけど。
「あれは…そのついカッとなってだな」
「ふーん、相沢君はカッとなると見境がなくなる危ない人なのね。気をつけなきゃ」
そう言って香里が笑う。
「もう勘弁してくれ…」
「冗談よ。殴られて当然のことを言ったのはあたしだから」
「本当に悪かった」
「北川君に殴られなかっただけましよ。あの人に殴られてたら今ごろ…」
脳裏に砕けた教室の黒板が浮かぶ。
「下手したらあの世行きだな」
洒落にならないぞ、アレばっかりは。
「相沢君が非力でよかったわ」
「嬉しくないぞ、それ」
香里のからかいに俺は苦笑いをしながら肩を落として溜息をついた。
でも…やっぱ危ない性格だよなあ。
手元に刃物があったらそれで刺してたかもしれない。
これからはもっと自制心というものを鍛えないと…
……?
心臓が一際大きく鳴った気がした。
かすかに頭に痛みが走る。
知っている…
俺はこの感覚を知っている。
一体いつだ?
癇に障る言葉とそれによって外れる自制心のタガ。
妙にスカッとした気分もあった。
「あ……」
ガクッ!
その感覚を思い出した瞬間、足が震え思わず膝が折れた。
右手の甲に刺すような痛みが走り、思わず左手で覆う。
「相沢君!?」
香里が驚きの声をあげる。
そして、俺が手を押さえているのに気付き、急いで俺の右手をつかんで自分の目の前に持っていった。
「何…これ!?」
「何だ? 俺の手どうなってるんだ?」
香里が信じられないと言わんばかりに目を開けて俺の右手の甲を見つめていた。
「手が真っ赤になってるわよ。霜焼けみたいに」
自分で見てみると、確かに真っ赤だ。
「香里を殴ったとこだな…ここ」
「人を殴ったところが霜焼けなんかになるわけないでしょ!」
冗談半分で言ったら凄い剣幕で怒鳴られてしまった。
「とりあえず、あたしの手で温めて…あれ?」
「どうした?」
「赤いのが引いていく…」
確かに、真っ赤になった右手は俺の見ている目の前で急速にもとの肌色に戻っていく。
同時に、さっき感じた刺すような痛みも消えていった。
「消えた…わね」
「みたいだな…」
香里は狐につままれたように俺の右手を眺めている。
何だったんだろう、今のは?
っと、香里は熱出してるんだしこんなところで止まってる場合じゃないな。
「ん、何でもなかったみたいだ。行こう」
「大丈夫なの?」
「少なくともお前よりは元気だ」
「そうみたいね。わかったわ、行きましょう」
再び水瀬家へ向かって歩き出す二人。
しかし、本当に何だったんだろう今のは?
ただ…何となく記憶に残っていることがある。
香里を殴った右手の甲。
俺はかつてそこで何か冷たいものに触れたのだ。
だが、それが何なのかは思い出せなかった…
まあいいか。誰も困ってないし、困らせた人にもちゃんと謝ってるだろう。
今は香里をうちに連れて行かないと…
そんなことを思ううちに水瀬家はすぐ近くになっていた。
ブロロロ…
水瀬家の灯りが完全に視認できた時のことだった。
水瀬家に横付けされた見慣れないシルバーの車が俺達とは反対の方向に走り去っていった。
「客か?」
にしては変だ。
時間が遅い上にこんな雪の積もった夜道を帰るなんて。
「あれ…あたしのお父さんの車だわ」
「え?」
香里の親父さんの車……
香里の親父さんっていったら美坂記念総合病院の現理事長だよな?
それがこんな夜遅くにうちに自家用車で来ていたってことは…
「まさか栞!?」
言うのと香里が血相を変えて走り出すのは同時だった。
「あっ、待てって!」
慌てて俺もその後を追う。
夜更けに予想外な医者の訪問…
何だかとても嫌な胸騒ぎがした。
玄関前で香里に何とか追いつく。
呼び鈴を押そうとする香里を制して合鍵で玄関を開け放った。
「きゃっ!?」
突然の扉の音に一階廊下を歩いていた栞が素っ頓狂な声をあげて出迎えてくれた。
「し、栞?」
「お、お姉ちゃん?」
まさかこんな形で顔を合わすとは思ってなかったためか、二人はお互いの顔を見つめたまま硬直してしまった。
「栞…その、あたし…」
「え、えと…」
完全に二人ともあがってしまっている。
話が進まないので俺が助け舟を出すことにした。
「あー、栞…言われた通り鉄拳制裁をして連れて来たぞ」
「あ、はい。ありがとうございます」
…ダメだこりゃ。完全にパニック起こしてる。
栞の返事はまさに生返事そのものだった。
「栞の差し金だったの? 鉄拳制裁って」
ジト目で俺と栞を交互に睨みつける香里。
…いかん、ひょっとしなくても俺が余計に話をややこしくしてる?
「お姉ちゃんその顔の腫れ…祐一さん本当に殴ったんですか!?」
栞からも非難の視線が突き刺さる。
って、こんなことしてる場合じゃない。
「ああもう、そういう事は姉妹二人であとで仲良く話し合ってくれ。それより…」
カチャ…
ドタドタドタ
リビングの扉が開く音と二階から駆け下りてくる音が響く。
「おかえりなさい祐一さん。あら…香里ちゃんも一緒なのね」
「あっ、祐一君…と、栞ちゃんのお姉さん」
リビングから出てきたのは秋子さん。
二階から降りてきたのはあゆだった。
「お邪魔してます秋子さん。それと…あゆさん」
香里は秋子さんにはごく普通に…
そしてあゆに対しては少しぎこちなく頭を下げた。
「えっ、お姉ちゃん!?」
「……え?」
栞とあゆが香里の発言に驚く。
無理もない。
あの文化祭の帰りにあれだけの暴挙に及んだ相手の名前を『さん』付けで呼んだうえに頭まで下げたんだから。
「そう…祐一さんお疲れ様でした」
が、秋子さんは俺が香里を説き伏せたということがすぐに理解できたらしくねぎらいの言葉をかけてくれた。
「あの、それよりさっきここから車が出て行きませんでした?」
とりあえず遠まわしに秋子さんに訊いてみる。
「ええ、栞ちゃんのお父さんに来て頂いてました」
その秋子さんの発言にあゆがハッとしたように俺のところに走り寄り腕を掴む。
「そうだよ、大変なんだよっ」
「どうしたんだ?」
「名雪さんが目を覚まさないんだよ!」
「はあ? そんなのいつものことだろう?」
そんなことのためにわざわざ病院の理事長を呼び出したのかよ、まったく。
「違うんだよ、何も反応しないんだよ」
「反応しない?」
あゆの切羽詰った顔から、それがただ事ではない気がしてきた。
あゆでは要領を得ないと思ったのだろう。
後ろから栞がおずおずと俺にしがみついたあゆの後ろにやってくる。
「夕御飯の時間を過ぎても祐一さんが戻らないので、とりあえず名雪さんを起こそうとしたんです」
「で、起きなかった…と」
「はい。何をやっても起きる気配がなかったんです」
「栞、それは昏睡状態に近い感じかしら?」
黙って話を聞いていた香里が厳しい顔をして口を挟む。
「う、うん。それで万が一のことを考えてお父さんに電話したの」
「そう…いい判断だったわ」
「あ…うん」
少々ぎこちないが、二人は少し打ち解けてきたようだ。
事の顛末を説明していないのに既にこの雰囲気なのはいいことだと思う。
「いくらなんでも一日以上寝ているなんて変だよ」
言われてみれば…もう名雪が昨日睡眠に入ってから一日が経過している時間だ。
それだけ寝ていても起きる気配すらないというのはいくら名雪でも考えられない。
「それで、診察結果は?」
「何故起きないのかは分からないそうですが、ただ寝ているだけだそうです」
秋子さんが険しい顔をして俺の問いに答えた。
『ただ寝ているだけ』…だが、それがいつもの名雪ではないということを秋子さんの表情が語っている。
「だから、また明日になったら普通に目を覚ますかもしれないと仰ってました」
秋子さんの表情が一段と険しくなる。
「ただ…その逆もありえると」
「それって」
一日目を覚まさなかったのだ。
…いや、ここ最近の名雪は目に見えて睡眠時間が長くなっていった。
とすると、このまま目を覚まさない可能性もある?
「あゆ、退いてくれっ!」
「えっ?」
俺は靴を脱ぎ捨て、あゆの手を振りほどいて二階に駆け上がった。
行き先はもちろん、名雪の部屋だ。
診察が終わったばかりだからか、開かれたままの扉からは明かりが漏れている。
目に飛び込んできたのは……
朝と全く同じようにベッドで眠り続ける名雪の姿だった。
そう、いつものように寝ているだけの名雪だった。
何だ…あゆも栞も、秋子さんまで一緒になって俺をからかうなよ。
心で軽口を叩いて不安な気持ちを払拭する。
「ほら、名雪起きろ」
ユサユサ
体を揺すってみる。
「おい、名雪」
ペシペシ
なら今度はとばかりに頬をはたく。
……だが
何をやっても無駄だった。
名雪はただ規則正しい呼吸をするだけで、何の反応も示さない。
鼻と口を塞いだら起きるかと思ったのだが、それも無駄だった。
名雪は抵抗することもなく、そのまま呼吸を止めてしまった。
あのまま続けてたら窒息死していたかもしれない。
「嘘…だろう?」
「…うにゅ?」
「…わたし、にんじん食べれるよ」
寝ている名雪を起こそうとすると多彩な反応が返ってくる。
俺はそれが面白くて、寝ている名雪をからかって遊んだものだ。
だが、何の反応も示さずただ規則正しい呼吸音だけ立てて眠っている名雪は…
まるで植物人間だった。
「…無理だよ」
声に振り向くとあゆが扉の前に無表情で立っていた。
「ボクたちも色々やったもん。でも名雪さんは寝言も寝返りの一つもないんだよ」
「…そうか」
「祐一君…ボク怖いよ。このまま名雪さんがボクみたいなことになったら」
「馬鹿なことを言うな」
少しきつい口調であゆを叱る。
「ご、ごめん」
だが、俺も怖かった。
既に名雪の睡眠は尋常ではない。
何でだよ…
栞と香里の問題がやっと終わったっていうのに…
何でこんなことになってるんだよ?
せっかくの晴れた気分もまた不安の曇天に包まれていく……
名雪の部屋にいてもどうしようもないので、俺はあゆと一緒に一階に降りた。
玄関では残りの面々が真剣な表情で俺達が戻るのを待っていた。
「話は栞と秋子さんから聞いたわ」
香里が開口一番にそう言った。
「名雪に会わないのか?」
「服が汚れているし、風邪をうつしたらいけないからやめておくわ。それに、縁起でもないこと言わないで」
「すまん」
まるで今生の別れのような発言をしてしまったことに謝る。
「香里ちゃん、風邪ならうちで休んでいってもいいのよ。着替えもありますから」
どろどろに汚れた制服を見て秋子さんが香里をいたわる。
「あ、構いません。今から帰りますから。病気なら自分の家の方が安心ですし」
「そう…それもそうね」
秋子さんはそう言って苦笑いのような微妙な笑顔を浮かべた。
自力で帰れるなら医者の父がいる自宅の方が安心に決まっている。
「って、今から帰るのか?」
「ええ」
まあ、そうか。元々少し立ち寄って帰るつもりだったわけだし。
顔にこそ出してないが、早く家に帰って自分のベッドで休みたいのだろう。
香里は睡眠不足と風邪の両方で疲れ切っているのだから。
「ああ、栞は残しておくわ」
「連れて帰らないのか?」
「どうせお父さんのことだからまたあれを栞に任せてるんでしょう」
香里が呆れたようにそう言うと、栞が苦笑いしながらそれに答える。
「はい、きっちり任されました」
「はぁ…そのうち医療ミスとか起こしても知らないわよ」
「そんなこと言うお姉ちゃん嫌いです」
ぷーっと頬を膨らませる栞。
『あれ』って何だろう?
「あれだけ嫌われたんだからこれ以上嫌われても同じね」
「わ、冗談です」
なんだか、和解も半ばってところなのに仲のいい二人だな。
こういうのを心で分かりあえてる仲っていうんだろうか?
「栞、あゆさんをしっかり支えてあげるのよ」
不安げでいつものような元気さを感じられないあゆを見やって香里は栞の肩を叩いた。
「うん。お姉ちゃんも早く元気になってね」
「あたしは丈夫だから一晩寝れば十分よ。でも、心配してくれてありがとう」
二人で励ましあった後、香里は秋子さんの方を向く。
「秋子さん、お邪魔しました。それと…あたしのせいで色々ご迷惑かけてすみません」
「いいのよ。何があったのか知らないけれど、あんまり思いつめないで下さいね」
「はい…ありがとうございました」
秋子さんに大きくお辞儀をした後、香里は玄関で全員にもう一度頭を下げて俺達に背を向けた。
「あ、香里」
それを慌てて呼び止める。
「何?」
「送ってくよ。夜道で女の一人歩きは危ないだろう?」
おまけに途中で倒れられたりしたら困る。
そんな俺の申し出に香里は、くすりと笑って…
「女の子を本気でぶん殴った人が何言っているのかしら?」
と言った。
とたんに秋子さんとあゆの顔が変わる。
俺に不審の眼差しが…
「殴った?」
「祐一さん?」
そういやこの二人はさっき『鉄拳制裁』なんて聞いてなかったっけ。
あゆはともかく秋子さんに睨まれてるのはやばい。
ここは…逃げるに限る。
「ちょっと、押さないでよ」
「それでは香里を送ってまいります」
バタン
あっけに取られる二人を置いて俺は急いで家を飛び出した。
はあ、香里送った帰り道、どう説明するかちゃんと考えないといけないな…
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