2階はシンと静まり返っていた。

「うぐぅ〜〜!!」
「わ、わ、あゆちゃん暴れないでよ〜」

 …やかましいぞあいつら。
 リュックに頭突っ込んだまま抜けなくなるあゆもあゆだが、その救出に手間取る名雪も名雪である。
 大方、リュックの口を緩めるところを逆に締めてしまったのだろう。
「…………」
 しかし、あゆに言われて二階に来たのはいいが……
 どこに行けと言うんだろうか?
 2階廊下で辺りを確認してみるが、これといった異常はない。
 強いて言えば……

「うぐっ!?」
 ベチッ
「あ〜、だから暴れないでって言ったのに」

 お前らいい加減黙ってろ。
 どうやら、リュックに顔を突っ込んだまま暴れた結果、敷居から落っこちたようだ。
 もう放っておこう。


 強いて言えば……
 あゆの部屋の扉が開けっ放しになってることくらいだ。
 あゆが飛び出してきたのは部屋からだったはずだし、まずはそこから見てみるか。
 俺はそう思って、開けっ放しの扉からおもむろにあゆの部屋に入った。




「……はい?」
 そこには確かにおかしなものがいた。
 しかし、怯えるようなものではないとは思うのだが……
「えっと、今日はあゆと遊ぶ約束でもしてたのか?」
 そう、そこにいたのは正座をして部屋の中央に居座ってる栞だった。
「…………」
 栞は扉から横になるように、つまり、俺に横顔を向ける形で座っていた。
「お〜い」
 栞がまったく反応を示さないので、もう一度呼びかけてみる。
「…何か用ですか?」
 ……な、なんか無茶苦茶ご機嫌斜めって感じだな。
 こっちの存在なんかまったく気にかけていないような横顔が少し、いやかなり怖い。
「い、いや、何でここにいるのかな? と思って……」
「家出したからです」
「なるほど」
 って、『なるほど』じゃない!
「ちょっと待て、家出って何でだよ」
「お姉ちゃんと喧嘩したからです」
 こっちにまったく視線をやらずに淡々と答える栞。
「お姉ちゃん、って香里とか?」
「お姉ちゃんから謝りに来るまで絶対帰りません」
「おいおい、何があったか知らな…」
「帰りません。いいですね」
「は、ハイ」
 滅茶苦茶怖い。思わず頷いてしまった。
 今まで栞が怒ってるところは何度か見てたけど……
 それは『ぷんぷん』という擬態語がぴったりの、小動物か何かが怒ってるような感じで怖いというよりは、かわいらしいという感じだったが……
「何か?」
「いえ」
 どうやらそれは怒ってみせてるだけだったようだ。
 今の栞はかわいらしいどころか、ひたすら怖い。
 表情をまったく変えずに、ぞっとするような冷たい声で淡々と言葉を紡ぐものだから、いやがおうにも引き込まれる。
 更に言うなら、普段のほんわかした雰囲気とのギャップが大きすぎる。
 まさに完璧な無表情だった。
「…………」
「…………」
 双方共に無言。
「…………」
「…………」
 あゆが怯えてた理由がよくわかった。
 あの姉にしてこの妹あり。
 相手を雰囲気で喰うという意味では、栞のほうがはるかに上だ。
 さっさとこんな雰囲気の部屋から逃げ出したい気分だが……
 こっちを見ているのか見ていないのかわからない、あの無表情な横顔がそれを許してくれない。


「文化祭の後……」
「え?」
「私はお姉ちゃんに何であゆさんにあんなことを言ったのか問い詰めました」
 栞は独り言のように語りだした。
「帰った後、昨日、そして今日……私はお姉ちゃんに顔を合わせるたびに訊き続けました」
 あれからずっと香里に訊き続けてたっていうのか?
「でも、お姉ちゃんは何も答えませんでした。ただ、『あの子は気に入らない』としか」
 おいおい、それじゃ説明になってないじゃないか。
「それで、喧嘩して家出か?」
「あんなの私のお姉ちゃんじゃないです。私にとってあゆさんは……あゆさんは」
 声が震えていた。だけど、それは悲しみではない。
 静かではあるが、とても激しい怒りの顕れだった。
「私にとってあゆさんはとても大切な人なんです。なのに、なのに、何で理由もなく嫌われなきゃいけないんですか?」
 膝の上に置いた小さな拳が、スカートを鷲掴みにする。
「私、お姉ちゃんが謝るまで絶対にあの家には帰りません」
「……栞、お前」
 知らなかった。
 栞ってこんなに行動力あったのか。
 いつもは自分の意見を滅多に言うことなく状況に身を任せてるようなやつなのに……。
 芯の部分ではとても強い意志を持ってたんだな。
 今や話しかけるのも躊躇われる雰囲気を持った香里を詰問するばかりか、よもやその香里に真っ向から喧嘩を売るなんて……
 しかも、その香里は栞が慕ってやまなかった姉である。
 その姉に絶縁状を叩きつけるなんて……普通出来ないよな。
 裏を返して言うと、そこまでしてもいいと思えるくらいにあゆを大切に思ってくれてるってことなんだろう。
 普段はからかいやすいあゆで遊んでいるだけのようにしか思えなかったが……
 栞、お前は本当にあゆの親友なんだな。


「そういうわけなので、この家に置いてください」
 にこっ
「は?」
 さっきまでの無表情から一転、いきなりこっちを向いたかと思うといつもの笑顔でとんでもないことを言い出した。
 あまりの豹変ぶりに頭は完全にパニック状態である。
「ちょ、ちょっと待て。気持ちはわかるが、でも家出はまずいだろ」
 香里と喧嘩するのはともかく、家出はまずいに決まってる。
 栞の両親が捜索願でも出したらどうするんだ……
「お洗濯でもお掃除でも何でも手伝います。だから置いてください」
「そういう問題じゃないっ」
「わかりました。だったら祐一さんに夜のご奉仕もします」
「な、ななっ!?」
 よ、夜のご奉仕って!?
 俺にはあゆが……いや、でも少し、いやいや、かなり嬉しいかも……
「お兄ちゃん♪」
「はうっ」
 だ、ダメだ。
 僅かに残ってた理性もぶっ飛びそう……
「…………」
 にこにこ。
 こ、この野郎……
 危なくもう少しで『いつまでもいてくれ』って言いかけたじゃないか。
 最後の最後で、いつものあの策略家のような作り笑顔が出たおかげで理性が復活してくれた。
「栞、その笑顔には騙されないぞ」
「そうですか? 押し倒し寸前まで来てたような感じでしたけど?」
 にこー
 悪魔かこいつは……。
 悔しいが図星だ。


「それで、ここに置いてもらえませんか?」
 ふざけるのはやめたらしい、真剣な表情で栞は再度そう訊いた。
「いや、だからそれはまずいだろう。だいたい、そういう事は秋子さんに……」

「了承」

「ありがとうございますー」
「…………」
 いつからそこにいたんですか、秋子さん?
 ていうか、今の栞のお願いは俺じゃなくて、いつの間にか扉の前に立っていた秋子さんにしたものだったのか?
「うふふ、これでこの家もまた賑やかになりますね」
 いつのものポーズでたおやかに微笑む秋子さん。
「秋子さん!」
「冗談です」
 まったく、犬や猫を家に拾ってくるのとはわけが違うんですよ……
「栞ちゃん」
「はい」
 改めて真剣な顔で向かい合う二人。
 ここからは真面目な話だ。
「栞ちゃんがここにいることは、あなたのおうちに連絡しておきます。それでいいですか?」
「はい、でも……」
「わかってるわ。香里ちゃんには言わないで欲しいのでしょう?」
「はい。すみません、我儘言って」
「いいのよ、栞ちゃんはあゆちゃんの大切なお友達ですからね」

 ベチッ!

「うぐぅ、やっぱり重いよこれ」
「栞ちゃんどうやってこんなの持ってきたのかな?」
 階段の方から二人の声と妙な衝突音が聞こえてきた。
 何やってるんだ、あいつら……。
 まさか、まだリュックでもがいてるんじゃないだろうな?
「あゆちゃんでしたらわたしが帰ったときに解放してあげましたよ」
「そうですか」
 つまり名雪じゃ助けられなかったわけだ。
 まったく……名雪に期待した俺が馬鹿だった。
 そう思ってると、名雪とあゆが二人で玄関にあったでかいリュックを抱えて部屋の中に運び込んできた。
 家から、おそらくは栞一人で持ってきたリュックに二人がかりって、ちょっと大げさ過ぎないか?
「重かったよ〜」
「栞ちゃんよくこんなの一人で持ってきたね」
 リュックを部屋の真ん中に下ろした二人は、ふうっと溜息をつく。
「二人ともお疲れ様」
「お前ら、少し大げさだぞ。栞一人で持ってきたリュックくらい……って、うお!?」
 たしなめるつもりで片手で担ぎ上げようとしたリュックは予想外に重かった。
 ていうか、下手するとこれは持ってきた栞の体重と同じくらいありそうだぞ!?
「栞、お前一体どうやってこんなもの持って来たんだ?」
 リュックから手を離し、栞に訊く。
 どう考えても、細身の栞が担いでこれるような重さじゃないぞこれは……
「あはは、おうちを出るときに部屋にある物とか必要なものを全部詰めてきたんですけど……」
 苦笑しながら続ける栞。
「そのとき私よっぽど怒ってたのか、リュックの重さなんか忘れてたみたいなんです」
「うちに来た時、一度玄関に下ろしてからは運べなくなっちゃって大変だったんだよ」
 火事場の馬鹿力か。まったく、とんでもないな……
 そんな力を出せるくらいまで、あゆのことを大切に想ってくれているのかと思うと少し嬉しかったが。
「それでは、わたしは栞ちゃんのおうちに電話してきますね」
「お願いします」
「名雪とあゆちゃんは栞ちゃんの荷物の整理を手伝ってあげてちょうだい」
「うん」
「うん、秋子さん」
 秋子さんに一緒に頷く二人。
「あれ? 二人とも栞がここに来た理由知ってるのか?」
 リュックを運んできた時といい、今の返事といい手際がよすぎる。
「うん、さっき下であゆちゃんからお話聞いて、で、お母さんが『うちに泊めてあげましょう』って」
 下で既に了承済みだったのか……
「では、わたしは電話をかけに行きますね」
「あ、俺はどうしたら?」
 部屋を出ようとした秋子さんに尋ねる。
「そうですね……、長電話になるかもしれませんからわたしの代わりにお茶でも入れてもらえますか?」
「わかりました」
 俺は頷いて秋子さんと一緒に一階に向かった。








 しかし、あっさり決まってしまったけど……
 家出してきた少女をかくまって本当にいいんだろうか?
 本人は嫌がってもこういう場合は家に帰すほうが筋ってもんじゃあ……
 秋子さんについて一階に向かう途中、俺はそんなことを思っていた。

「祐一さん」

「え?」
 一階の廊下に出たところで、無言で歩いていた秋子さんが突然声をかけてきた。
「わたしが栞ちゃんをこの家に置くことに納得していませんね」
「え、いや、そんなことは」
 そんなことは大有りなわけだが、まさか家主の秋子さんに意見を言うわけにもいくまい。
 しどろもどろする俺に秋子さんは『いいのよ』と言うように微笑んだ。
「顔がそう言ってますよ」
「う……はい、そうです」
 駄目だ、やっぱり秋子さんの前では俺の隠し事なんて無駄なのだ。
 俺は観念して素直に頷いた。
「帰る家がないならともかく、やっぱりこういう場合は家に帰すべきじゃないでしょうか?」
 姉妹喧嘩で家出だなんて栞の両親だって心配するに決まってる……と思う。
 世間体とか、大人の理屈であまり好きな言葉じゃないけどそういうものもあるだろう。
「それで、あの子が本当に家に帰るかしら?」
「え?」
 秋子さんの表情が強張るのを見て、こちらも緊張する。
「祐一さんも見たでしょう? あの子の決意の強さを」
「はい……」
「あの子はここに置いてもらえないなら、野宿でもしますよ」
 『そんな馬鹿な』と言いたかったが、たしかにさっきの怒りに体を震わせていた栞のことを思うとやりかねない。
 あの重いリュックもその意思の強さだけで担いできたわけだし……
「あのリュックの中には、着替えの服以外にも寝袋等が入っていました」
 それであんなに重かったのか。
 しかし、ということはここを追い出されたら本気で野宿も考えていたんだな。
「あんな小さな女の子にそんなことをさせるわけにはいきませんよね?」
 と、頬に手をあてにっこりと優しく微笑む秋子さん。
「はい。すみません、余計なこと気にして」
「いいのよ。ちゃんとお客さんとしてもてなしてあげてくださいね」
 やっぱり秋子さんは凄い人だ。
 事情をちょっと訊いただけでそこまで予想して『了承』するなんて。

「そういえば」
「はい?」
「あゆちゃんがいるのに浮気しちゃ駄目ですよ」
 ぶっ!
「な、な、なんてこと言うんですか!?」
 また、この人は笑顔でなんてこと言うんだ……
「お兄ちゃん♪」
「はうっ」
「あら、わたしもまんざらじゃないみたいですね」
「……勘弁してください」
 ていうか、いつから俺と栞の会話見てたんですか?
 いや、秋子さんがいたから栞は俺をからかってみせたのか!?
「冗談です。でも、栞ちゃんがかわいいからって手を出しちゃいけませんよ」
「当たり前です」
 まったく、何てこと言うんだ、秋子さんは……
 そんなことするわけ……
「…………」
 と思ったところで、小悪魔のような笑顔をした栞の顔が頭に浮かぶ。
 やる、あいつなら絶対にやる。
 あゆの前で俺を誘惑してからかって遊ぶに決まってる。
「あらあら、これからしばらく賑やかになりそうですね」
 天使の顔をした鬼と悪魔がいっぺんにやってきたような複雑な気分だった……
















 秋子さんのことだから、手際よく済むだろうと思っていたが……
 その予想通り、栞の水瀬家滞在の件は10分足らずで話がついた。
 さすが秋子さんだ。


 そして、今俺たちは少し遅めの夕食の席についている。
 栞が来て、一人分食事が余分に必要になったので秋子さんが急遽献立を変えたからだ。
 しかし、5人で食卓を囲むと、またなんだか明るくなった気がするな。
 ていうか、この家は5人くらい人がいてちょうどって広さじゃないかと思う。
「で、栞はどこに泊まるんだ?」
 全員で『いただきます』をしたあと、栞に尋ねる。
「ボクの部屋だよ」
「あゆの部屋って……寝にくくないか?」
 あゆの部屋は、あゆの好みでベッドが置かれていない。
 つまり、床に直に布団を敷いて寝るようになってるのだ。
「そんなことないよ、ボクはよく眠れるもん」
 あゆはどうか知らないが、俺は床で寝るよりはまだソファーの方がマシだと思う。
 床は布団を敷いててもやっぱり固い。
「大丈夫です。一度、そんな和風な寝方を体験してみたいと思ってましたから」
「なんだ? 栞ってベッドでしか寝たことがないのか?」
 ちなみに、俺は修学旅行で床で寝るとはどういうことか嫌というほど味あわされた。
「私は物心ついたときから病院が多かったですから」
「あ、そうか。すまん」
「いいですよ。もう昔の話ですし」
 栞はこともなげにそう言ってのけた。
 もはや昔のこととはいえ、栞がそのために失った物は多かったはず。
 俺ならこんな平然としていられるだろうか?
 そう思うと栞の落ち着いた物腰には感心してしまう。
「まあ、寝心地悪かったら言ってくれ」
「え、祐一が栞ちゃんにベッド貸してあげるの?」
「いや、名雪が貸すんだ」
「え?」
 一瞬何のことかわからず、名雪の動きが止まる。
「それじゃ、わたしはどこで寝ればいいの?」
「お前は別にどこで寝ても大丈夫だ」
 どこで寝ても大丈夫というか、どこでも寝られるというのが実生活で証明されている。
「無理だよ〜。わたしはベッドじゃないと寝られないもん」
 嘘つけ、今日も教室で盛大に寝てただろうが。
「あー、わかったわかった。けろぴーも持っていっていいからベランダで寝ろ」
「けろぴーが凍っちゃうよ〜」
 お前は平気なのか? お前は?
「栞ちゃん、寝辛かったら言って下さいね。わたしのベッドを貸しますから」
「はい、ありがとうございます」
 元より貸す気のない二人の問答を無視して、合意は一瞬で成立した。
「でも、秋子さんはどうするの?」
「そうですね、あゆちゃんと一緒に寝ましょうか」
 頬に手をあて微笑む秋子さん。
「う、うん」
 あゆは恥ずかしそうにうつむきながら答えたが、まんざらでもないようだ。
 こういう甘えたがりなところはまだまだ子供っぽい。


「あら? 栞ちゃんお料理口に合わなかったかしら?」
「えっ、あ……その」
 秋子さんが気付いたように、栞の皿はまったく減っていなかった。
 今日の夕飯は特に変哲のないハンバーグ。
 もちろん秋子さん特製なので味は折り紙つきだ。
 冷蔵庫に蓄えられていた挽肉を出して作ったものだとか。
「お肉は苦手ですか?」
「いえ、そんなことはないです。おいしいです」
 たしかに少しだけかじった跡がある。
 いや、よく見ると付け合せの温野菜やご飯とかも少しずつだがついばんではいるようだ。
「……ちょっと、ごめんなさいね」
「あっ」
 秋子さんは怪訝そうな顔をしながら突然立ち上がり、栞の傍に寄り額に手を伸ばした。
 すると、栞の顔があっという間に赤みを帯びてくる。
「37度5分というところですね」
 なんだ? 栞のやつ体調が悪いのか?
「駄目よ、疲れているなら休まないと」
「すみません」
 いかにも熱っぽそうな顔をして栞は申し訳なさそうにうつむいた。
「あ、ボク部屋に布団敷いてくるよ」
 あゆはそんな栞の様子を見て、慌てて席を立つとぱたぱたと自分の部屋へと駆け上がっていった。
 ……あの慌てぶり、少し心配だな。
「名雪、あゆがひっくり返ってないか心配だ。栞を連れて行くついでに見にいってやってくれ」
 本音を言うと名雪なんかに任せるのは心配だが、男が栞を寝かせるところまで面倒を見るのは失礼だろう。
「う、うん。じゃあ、栞ちゃん」
「……はい」
 栞は名雪に手を引かれて、おぼつかない足取りで食堂を出て行った。
 あいつ、相当無理してたんだな……


「栞、本当は病気が治ってないんじゃ?」
「あの子は病気が治ったというだけで、体は弱いそうだから。緊張が抜けて疲れが出たのね」
「大丈夫なんでしょうか?」
 このまま数日寝込むってことは……
「一晩休めば大丈夫だと思いますよ。ただの疲労ですから」
「はあ、なるほど」
「それにしても、本当に強い子ね」
 秋子さんはそう言って微笑んだ。
「え?」
「栞ちゃん、わたしに言われるまで元気なふりをしてましたから」
「……ああ」
「顔色まで誤魔化されたのははじめてでしたが」
 しかし、それを見破った秋子さんも凄いと思う。
 俺なんか、いやあゆでさえまったく気付いてなかったんだから。


 その後、栞を部屋に寝かせたあゆと名雪が戻ってきて、夕食が再開された。
 ちゃんと世話してやれるのか心配だったが、杞憂で済んだようだ。






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