「では、これより第139回、我慢大会をはじめまーーーす!」

 高らかに宣言される開始の一言。

「「「わーーーー!!!」」」

 会場となっている六畳の部屋にはストーブやらコタツやらが乱積している。
 というか、熱気でなにやら陽炎のようにかすんで見える。

「それでは出場者の確認といきます。エントリーナンバー一番、清掃委員の恥ずかしがりこと椎名希未〜!!」

「が、頑張ります…」

 最初に呼ばれたのは極度の恥ずかしがりである椎名希未。
 冬用のコートにマフラー、普段はノートで顔を隠しているが、今日はそれが湯たんぽである。

「きにしなーい、それではエントリーナンバー二番、司会も兼ねてます、マスターオブキウィこと高槻あゆみ〜!!」

 校内で名を馳せる究極にして最強のキウィマスター。
 やはり冬用のコートにマフラー。普段は変わった髪飾りをつけているが、今日はリボンでポニーテールにまとめている。

「続いてエントリーナンバー三番、誰が呼んだか昭和の子、三重野涼〜!!」

「阪神クリーンナップは常識だと思うんだけど…」

 時々校内で見かけられる他校の生徒、三重野涼。
 普段のセーラー服の上には冬用コートとマフラー。にもかかわらず笑顔は涼しそうだ。

「トリはこの人、家事の帝王、清掃界の悪魔、ペインター等数々の称号を誇る刷毛の名手、矢神由梨子〜!!」

「ペインターって誰が言ったの〜!?」

 本人は隠しているつもりだが、絵を描くのが大好きな少女、矢神由梨子。
 三人と違って、マフラーが無い代わりに帽子を被っている。

「さて、本日も強豪揃いの我慢大会、最後に笑うのはいったい誰だ、それではスタート!」

「どうしてこんなことになったんだろう…」

 希未は軽く目を瞑り、ここにいたる経緯を思い出していた。








































                     諸葛瑾第139回 残暑がまん大会!! より

                          サナララ我慢大会










                           十分前の出来事

                          N.S.さんの証言

                    『誘拐は犯罪です―――This is
fiction―――』







 ※プライバシー保護のため、顔を隠すためのノートと音声を変更してお伝えしております。

「それは、私が帰宅途中に起こりました…」

 意気揚々と帰り道を歩いていました。
 考えていたことは、たまにはお菓子でも作ってみよう。

 その途中で不思議な格好をした三人組に進路を阻まれたと。

「えぇっと、この残暑も残る中、コートに身を包んだ三人が、急に私を担ぎあげて我慢大会の会場に運び込んだんです」

 三人組は全員N.S.さんの知り合いで、なぜこんなことをしたのかは一切語っていない。

「そして、私は参加することになってしまいました。あの我慢大会に…」









                   開始から三十分、会場である矢神由梨子宅より。

                     『楽園行―――Prince Lv .1―――』







「暑いですね〜」

 あなたの顔を見てるとちっとも暑そうに感じないのはなぜでしょうか?
 みんなの顔がそれなりに赤くなっている最中、一人涼しい笑顔を浮かべている涼ちゃん。

「たしかに、暑いと書くよりは熱いですね」

 空気は乾燥し、息を吸うたびに喉の水分を持っていかれる。
 映っているテレビは『すきしょ☆』である。

「あの、このビデオを選んだの誰ですか?」

「あ、私です。一度見てみたいと思って」

 そう、今まで見ることの叶わなかった『すきしょ☆』です。
 某TSUT○YAに希望を出したら他店取り寄せ品で、
『カウンターまでお取りに来てください』といわれた一品だ。

 カウンターの女性店員さんに「通だね」と言われたときはちょっと恥ずかしかったけど。

「え、えーと、趣味は人それぞれだと思います」

 そういう希未ちゃんの顔は完全に真っ赤である。
 顔の前に湯たんぽを持ってきて隠すのはいいが、ものすごく熱そうだ。

「き、金属性だから余計に……」

 希未ちゃんの声が若干震え気味だ。
 しかし、この戦いは始まったばかりだ。













                          開始から一時間。

                  『浪花節々鰹節―――Chivalrous
spirit―――』










 四人でコタツに入りながら囲むものは何か?
 一般的な人ならみかんとか言うだろう。
 その道の人なら麻雀とも言うだろう。

「しかし、あえて言おう! それは違うと!!」

 四人で囲んだコタツの上。
 今そこにあるもの、それは…

「鍋でしょう!!!」

 ガスコンロの上に土鍋が乗っかっている。
 日本製で鉛などは含まれていない。

 コンロから出る火で暖められた鍋からは蒸気が噴きだしている。
 中に入っているのは出汁を取ったお湯だ。

「さあ、皆さん行きますよ!!」

「「おー!」」
「ぉー…」

 希未ちゃんの声が小さいが気にしない。

 由梨子ちゃんがふたを取り、涼ちゃんが電気を消し、希未ちゃんがカーテンを閉める。
 完全に真っ暗だ。

 そう、闇鍋である。
 みんなには何か持ってきてと頼んでおいた。

「さて、皆さんは何を持ってきたのかな?」
「私は…鍋ということもあって、白菜を」
「す、すいかを…」
「わ、アップルパイ!?」

 希未ちゃんの分はくじ引きで決めたものを持ってきた。
 それがまさかあんな結果を招くなんて。

「あの、あゆみちゃんは……何を?」
「それは簡単な問題よ?」




                       一時間五分経過、コタツ周辺。

                    『緑色の視界で―――In green
view―――』





 目に飛び込むのは鮮やかな緑色。

 私たちはとんでもないことをしてしまったことを後悔した。
 あの時、是が非でも止めておけばと。

「さぁ、闇鍋スタイルキウィ鍋完成!!」

 目の前には緑色になった鍋。
 噴き出す蒸気をも緑色だと錯覚してしまう。

 表面上はいつもの笑顔だが、内心では冷や汗が零れ落ちそうです。

「希未ちゃん、希未ちゃん!?」

 由梨子さんが希未さんをゆすっている。
 希未さんの目はどこか遠くに焦点が置かれているように見える。

「さあ、れっつ試食!!」

 みんなの前に配られる小鉢。
 それを目の前にして、みんながいっせいに覚悟を決めた。

「「「「いただきます」」」」

 暗くてよく見えないが、私が当たったのはなんだかやわらかい塊。

「シゲオになりません様に…」

 なぜか頭によぎった単語をつぶやき、口にする。
 やわらかい塊を口に押し込む。

「ア、アップル……パイ?」

 口に広がる甘い酸味に、キウィ出汁のしみこんだしっとりした生地。



 正直に言おう、おいしくない。
 実況するのも大変なので音声だけでどうぞ。




「うぐぐぐぐぐ…!」
「希未ちゃんがすいかの皮を喉に…!」

「は、白菜がキウィ出汁を吸って大変な味に…!」
「それがたまらなくおいしいよねー」

「うーん、底の方にキウィが沈んでるのかな?」
「あっ、そんなにかき回さないで! アップルパイが煮崩れちゃう!」

「さて、締めは雑炊ね」
「もうやめて! 希未ちゃんのライフはゼロよ!」










                    一時間と三十七分経過、インターホンに反応。

           『この時間って海己が壁ノック続けた時間ですね―――Do
know it such a thing―――』








「あ、来客ですね。確か新藤さんとか言う人が来るって言ってましたっけ?」
「希未ちゃん、お願いできる?」

 ふらふらしながら希未ちゃんが玄関へ向かう。
 それに涼ちゃんがついて行く。

 玄関が開いたのか、風が流れ、それが火照った顔に気持ちよくあたる。

「ギャーーーーーーーーー!!」

 響く第三者の絶叫。
 とりあえず同人誌をおいて廊下を覗き込む。

「何でそんなに涼しい顔をしてるんですかー!!」

 涼ちゃんが引き入れてきたショートカットの女の子。
 彼女が新藤さんということだろう。
 こうなったら、

「まぁまぁ、そんなことよりここは一つキウィ鍋をつつきながら」
「読書でもしましょう!」

 死なばもろとも、巻き込んでしまおう。

「いろんな意味で我慢大会だー!!!」



 新藤さんの絶叫が近所中に響き渡った。
 近所迷惑だなぁ、もう。






                 この後に何が起こったかは、またの機会ということで。
                         本日はここまで!!













どうも、おひさしです、森部です。
いろいろ忙しくてこのような状況になってしまいました。
とりあえずこの作品について言えば…

『ムシャムシャしてやった。今は反芻している』

というわけで、サナララです。
決して皇帝栄さんに触発されたことはないと思われる。
あの柔らかほんわかな絵柄に癒されるのです。
ちなみに、私はこれでねこねこを知った口です。
名作なのでやってみるといいですよー。