ギャラクシーエンジェル 〜Little Lovers〜(初対面編)





「…と、いうわけでこれからエルシオールは白き月を脱出する」

『はっ!!』



ブリーフィングルームで状況説明を終えたシヴァに対し、ピシリ、と一糸乱れぬ敬礼をする五人の少女。

ミルフィーユ・桜庭。

蘭花・フランボワーズ。

ミント・ブラマンシュ。

フォルテ・シュトーレン。

ヴァニラ・H。

それぞれが一騎当千の戦闘力を持つといわれる紋章機。

それを駆るのが彼女たち皇国の誇る最強チーム、ムーンエンジェル隊だった。



「それでは、出発前にこれからお前たちを指揮する人間を紹介しておこう。マイヤーズ、来い」



その人物名に反応したのは五人の中ではただ一人。

残りの四人は聞いたことのない名前に首を傾げる。

やがて、その人物は扉の向こうから姿を現した。

軍人らしからぬにこやかな表情で入室するその人物の名はタクト・マイヤーズ。

後に『天使たちの指揮棒(エンジェル・タクト)』と『ロリコンの英雄』の二つ名で全銀河に名を轟かせることになる男だった。



(うわっ、睨んでる! 無茶苦茶睨んでるっ!?)



五人の乙女から視線を送られているタクトはにこやかな表情に反して背中にはびっしょりと汗をかいていた。

その理由は自分に向けられている視線の一つにある。

ヴァニラ・H、彼女の視線がタクトの身体を刺し貫いていたのだ。



「おほん…紹介にあずかったタクト・マイヤーズです。階級は大佐。まあ、以後よろしく!」



露骨にヴァニラの視線を避けながらタクトはそう自己紹介をする。

だが、好意的な視線はミルフィーユからしか受け取れなかった。

ランファとフォルテは「こんなのが自分達の指揮するの〜?」といった表情。

ミントは表情こそにこやかなものの心の奥まで見通すような底知れぬ視線を送ってきている。

正直、タクトは少し泣きたくなった。



「質問や疑問は多々あるだろう。だが、今は一秒の時間も惜しい。矢面で戦うことになるお前たちにとっては納得いかないことだろが

 ここは私の顔に免じて一度だけこの者の指揮に従ってやってはくれぬか」

「シ、シヴァ様!? そんな、頭を上げてください!」

「そ、そうですよ!」



いきなり深々と頭を下げて懇願するシヴァにフォルテとランファが慌てる。

残る三人も流石に驚いたのか目を丸くしていた。

「さて、久しぶりにそなたの指揮を見せてもらうぞ?」

「……覆面艦長で軍の艦隊戦の演習を指揮させられたときはずっと冷や汗もんでしたよ」

「今度は堂々と顔を出せるではないか」

「そっちのほうが緊張しますよ!」



シヴァに対して敬語こそ使ってはいるものの、フランクな様子のタクトにエンジェル隊の面々はモニター越しに目を丸くする。

いや、ただ一人、ヴァニラだけは半眼になっているのだが。



「出撃命令を」

「ヴァ、ヴァニラ? まだ作戦の説明が」

「ていうかなんでアンタそんな怖い顔…」

「ふふふっ」

「ミントは笑ってるし…」



周囲は敵だらけ、味方は少数。

絶体絶命といっても過言ではないこの状況下で、なごやか(?)な雰囲気が伝播する。

初の実戦に顔を硬くしていたブリッジクルー達もいつの間にか微笑んでいた。

狙ってやったのか、あるいはただの偶然なのか…

フォルテは一人無言でタクトを観察しながらも、口元を吊り上げる。



(まあいいさ、これから嫌でもわかることだ。さあ、タクト・マイヤーズ。あんたの力を見せてもらうよ?)