祐一と美汐の二人旅 第22話 〜本戦、開始〜
『さあ、第一試合はいきなり優勝候補筆頭の沢渡真琴選手が登場ですが、いかがですか解説の黒崎選手?』
特製テントのすぐ脇に作られた実況席でアナウンサーが香奈にマイクを向ける。
実は毎年解説役をやっているのは近衛騎士隊長の香奈である。
すぐ横に美汐や王の座るVIP席があるので警護も兼ねてこの配置なのだ。
香奈自身は単にこういう役回りが好きなだけなのだが。
『あー、テステス。んー、そうですねぇ。多分結界術士さんたちが頑張ってくれるのではないかと』
『は? それはどうい―――――』
ボガァァァァン!!
アナウンサーが疑問の言葉を言い切る前に会場に轟音と閃光が轟く。
数瞬遅れて試合の終了を告げる審判の声。
余波で揺れる実況席を気にしつつアナウンサーが慌てて闘技場に目を向けるとそこには真っ黒焦げな大きな物体が一つ。
そしてそれを足蹴にしつつ高らかに右手を挙げて観客の声援に応える真琴の姿があった。
『おーっといつのまにか試合が終わっていたー!? どうやら沢渡選手の瞬殺で終わった模様!』
『あー、やっぱり』
『黒崎選手、一体なにがどうなったんですか?』
『試合開始と同時に真琴が爆炎の魔術をぶちかましたんですよ。詠唱は試合開始直前にやっておいて開始と同時にどかーん、です』
『え、えげつないですね……』
『まあルール上は問題ありませんからねー。よっぽどの魔法防御があるか、回避するスピードがなければ瞬殺ですね、今みたいに』
『な、なるほど……では先程の結界うんぬんというのは?』
『見ての通り真琴は手加減ってものができませんから。結界を気合入れて張らないとこの実況席やVIP席まで吹っ飛ばされます』
『か、解説、ありがとうございました。なんの情緒も盛り上がりもないまま一回戦第一試合終了です!』
「美汐、真琴の大活躍見てくれたー?」
「ええ、ちゃんと見ていましたよ。でももう少し火の扱いには気をつけてくださいね、危ないですから」
ニコニコと笑顔でVIP席にやってくる真琴をこれまた笑顔で迎える美汐。
真琴の炎術の威力を考えれば笑い事ではないのだがこの二人は良くも悪くも大物だった。
そんな会話の横では誠林が何かを諦めたかのような表情をしていたり、
少し離れたところでは必死に結界を張り続けている結界術士が滂沱の涙を流していたりする。
「大丈夫大丈夫。真琴が美汐を傷つけるはずないじゃない」
「ふふ、そうですね。でも、真琴も怪我をしないようにしてくださいね?」
「へーきへーき! 真琴が怪我なんてするはずないじゃない」
「でも、もしもということもありますから……」
心配そうな顔を向ける美汐。
真琴が強いのは知ってはいるが不測の事態というのはいつ起きるかわからない。
特に彼女の場合、その不測の事態で母親を失っているのだから。
「もう、真琴だって子供じゃないんだから」
「どの口がそんな言葉を言うかね、この破壊魔狐娘が」
「むっ、しつれーなことを…………って香奈?」
「香奈、解説はどうしたのですか?」
振り向いた二人の前に立っていたのは実況席にいるはずの香奈だった。
「あのね……おしゃべりも結構だけど少しは試合の方も見なさいよ。第二試合が終わったから私は準備しないといけないの」
「え、もう終わったの?」
「ええ、開始直後にシェザルが斬りかかって久平くんがそれをカウンターで沈めて終了。
まったく、解説のしがいのない試合ばっかりで困るわ」
「進行がはやくていいじゃない」
「あのねー、今回は私が選手として出てる以上、解説の間がいっぱい空いちゃうの! なのに解説の時間まで短いなんて……ファンが暴動起こすわよ」
「まあまあ……ということは真琴の次の相手はあの長髪の人ってことなんですよね?」
「ううん、準決勝はもう一度抽選しなおすの。まあ誰が来たって真琴は負けないけどね。
あのロンゲもここまで残ったってことはそこそこやるんだろうけど真琴にかかればイチコロよぅ!」
余裕しゃくしゃくの真琴を微笑ましく見つめる美汐。
さりげなく久平のことは記憶から消えている模様。
石をぶつけておきながらこの扱いはあんまりといえばあんまりである。
『さあ、両選手の入場です!』
「あ、第三試合が始まるようね」
「ねえ香奈。あのユウって奴どこかで嗅いだことのある匂いがするんだけど……」
「気のせいよ気のせい」
「けどあのユウって人、あんなに着込んで暑くないのでしょうか?」
「さあ、多分慣れてるか簡易の水術でも使ってるかじゃない? それより始まったわよ」
少しずれた美汐の発言に苦笑しつつも香奈は闘技場に視線を向けた。
試合開始と同時に黒尽くめの甲冑男が駆け出す。
が、それを迎え撃つべくダウニーが爆炎の術を放つ。
術の着弾と共に煙が周囲に巻き上がり闘技場の一部を覆う。
『おおっと第一試合と似たような展開だっ! ユウ選手のダメージは如何に!?』
もくもくと立ち上る煙の幕を、勝利を確信したのか余裕の表情で見つめるダウニー。
が、次の瞬間その表情が驚愕に染まる。
無傷の甲冑男が剣を閃かせて煙の中から飛び出してきたのである。
「な―――」
「遅い」
ガスッ!
斬撃の音が響く。
峰打ちだったらしく血は流れていなかったが骨を何本か持っていかれたのだろう。
苦悶の表情を浮かべてダウニーは崩れ落ちた。
『あーっと、ここで試合終了だー! 勝者はユウ選手。なんとこれで三試合連続で一撃決着です!』
それなりに見せ場があったためか、今までの中で観客の送る声援は最も大きなものだった。
VIP席に一礼をし、闘技場を後にする甲冑男。
「今、当たってましたよね……?」
「うん、でも無傷だった。ってことは……」
「あの鎧の対魔防御力がすごいか、それかあらかじめ魔防の術をかけていたかってことね。まあ、真琴ならどっちにしろ問題ないけど」
「ああいう人とは当たりたくないなぁ、私接近戦苦手だし…………っと準備準備」
「香奈、頑張ってくださいね」
「まっかせなさい! やるときはやる女なのよ、私は」
「やらないことのほうが多いけどね」
「舐めないでよ、黒崎なのよ私!」
「意味がわかりません」
乙女は無敵なのよー、と謎の言葉を残して去っていく香奈だった。
「あー、早く解説に戻りたいからさっさとかかってきてよおばさん」
「誰がおばさんですかっ!? 雷よ、豪雨となりて振りそそげ―――――《ブラストレイン》!!」
詠唱に応えて雷が闘技場に降り注ぐ。
しかし、そのこどごとくが香奈に当たることなく脇にそれていく。
まるで、香奈の姿を雷が認識していないかのように。
『ああっとこれはどうしたことか!? 微動だにしていない黒崎選手だが全く雷が当たる様子はありません!』
「な、なぜ!?」
「んじゃ、こっちの番ね。光よ、我が手によりて束ねられて一筋の閃光となれ―――――《ライトレーザー》」
「ふん、そんなもの―――――ってきゃああっ!?」
ドオンッ!
前方に障壁を展開したミュリエルの『背中』に光線が突き刺さる。
観客からすればわけがわからないだろう。
何故ならミュリエルは前方から迫ってくる光線に対して『後ろを向いて前方に障壁を張った』のだから。
『何が起こったのかさっぱりわかりませんが……第四試合決着っ!』
「相変わらず、見事ですね香奈のアレは」
「前々回の大会もアレ一本で優勝しちゃったもん。真琴はタネを知ってるからどうにかなるけど……」
「トリックマスター。いいえて妙ですね」
感心した様子で香奈の勝利を喜ぶ美汐と真琴。
そしてその横にはなぜかほっとした表情を見せる誠林がいた。
「父様、どうしたのですか?」
「ふふふ、これなら賭けは私の勝ちですね……」
「父様?」
「しかしそれでいいのでしょうか……美汐さんが望むなら私は……」
「父様、父様」
「……え、は? な、なんですか?」
「さっきからブツブツ独り言をなさっているようですが、お疲れですか?」
「い、いやいや。心配は有難いですが、なんでもないですよ、はい」
「そうですか……?」
明らかに様子のおかしい父を心配する美汐だったが当の本人に否定されたのでは追及するわけにもいかず閉口。
真琴は動物の本能なのか不穏な気配を感じ取って顔をしかめていたり。
「しかし真琴も黒崎さんも相変わらず強いですねぇ」
「当然よぅ! ……と、当然です」
「はっはっは、言い換えなくてもいいですよ。公式の場ではまずいですが、今は喧騒で周りには声は届かないでしょうし」
「やった、だから王様って大好き♪」
「照れますねぇ。それで、彼ら……ユウ選手と寺岡選手には勝てそうですか?」
「もっちろん。真琴は無敵だもん」
「香奈の場合は?」
「……あぅ」
「ははは、まあ期待してますよ」
笑う誠林。
が、美汐はそんな父に違和感を抱いた。
この大会の趣旨からすれば父にとって真琴や香奈が優勝するのは望ましくないことである。
むしろ彼女らを負かすほどの男を待ち望んでいるはず。
にも関わらず真琴を応援するこの態度はおかしい。
真琴の目の前だからという建前を考えても父が嘘をついているようには見えないのである。
「父様、何か隠していらっしゃいませんか?」
「え、あ、は? い、いきなり何を?」
「あ、それ真琴も思った。だって何か挙動が怪しいもん」
「いえいえいえいえいえいえいえいえ。何も隠してなんかいませんよ」
残像が残るほどのスピードで首を振る誠林。
しかし、その行動は二人の疑惑を深めるだけだった。
「王様?」
「父様?」
「あ、いや……その……あっ! 準決勝の組み合わせが発表されるようですよっ!?」
あからさまに慌てた様子で闘技場を指差す誠林。
二人は後で追求することを心に誓いながらしぶしぶと闘技場に目を向けるのだった。
『準決勝の組み合わせは……第一試合、黒崎香奈選手 VS 寺岡久平選手! 第二試合、沢渡真琴選手 VS ユウ選手!』
あとがき
どうも、戦闘描写は苦手だと改めて確認したtaiです。
容赦なく省略される戦闘シーン、明らかに書き手の都合が出ています(w
今回は戦闘話ばっかだったから筆がすすまないすすまない。
改めて私の作風がわかりましたよ……
次回は準決勝、書きたい部分が近づいてきたので早く更新したいですね。
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