祐一と美汐の二人旅 第21話 〜ヴァルハラ武闘大会、開始〜
「はーい、大会の受付はこちらですよー」
「観戦のチケットはこちらで販売しておりまーす」
花火が打ち上げられ、盛り上がる広場。
広場の入り口の垂れ幕にはデカデカと『第三回ヴァルハラ武闘大会』と書き記してあった。
「エントリーを頼む」
「あ、はい。お名前とご年齢、あと使用武器を」
やって来た男のかっこよさに少しばかりドギマギしながら応対する受付嬢。
男は長い髪をさらりと流し、片手でファサッとかき上げた。
「寺岡久平、17歳。使用武器は剣と…………コイツだ」
背中に背負った布で包まれた棒のような物を指差す。
布に何が包まれているのか受付嬢には判別できなかったが、
特に危険物探査機には引っかからなかったようなのでありのままを用紙に記入していく。
「あと、よろしければご参加の動機などをお聞きしてよろしいでしょうか?」
「……この大会に倒したい奴が出ている、それだけだ」
「ありがとうございました。では、寺岡様はCの予選会場に行ってください」
「わかった」
Cと書かれたカードを手渡す受付嬢。
髪をなびかせてキザっぽく立ち去っていく彼をぼうっと見送り、次の受け付けに取り掛かる。
次にやって来たのは黒い甲冑に身を包んで顔すらも兜で隠した異様な選手だった。
「あ、あの…………お名前とご年齢、あと使用武器にできればご参加の動機などを…………」
目の前の人物にビビリながらも己の職務を果たす受付嬢。
ちなみに隣の受付嬢などはそんな彼女を尊敬の目で見つめていたりする。
が、甲冑の人物は特にそれを気にする風もなく、くぐもった声で答えた。
「ユウ……17歳……剣……強い奴と戦いに来た」
「は、はい。どうもありがとうございました。で、ではユウ様はDの予選会場へ行ってください」
ユウと名乗る男の雰囲気に押され、半泣きでDのカードを渡す受付嬢。
男はカードを受け取ると無言のままその場を去っていくのだった。
「やっほー、美汐」
「香奈に真琴ではないですか。どうしたのですか?」
広場の一角、王室専用のテントの一幕に現れる香奈と真琴。
中では美汐の着付けが行なわれていて、美汐の他にも数名のメイドが控えていた。
「いやー、私たちって予選免除だから本戦が始まるまで暇なのよ。だから暇つぶしに来たってわけ」
「暇つぶしで王女の所に来るのは貴方達くらいですよ……」
苦笑しつつも嬉しそうな表情を見せる美汐。
ここのところずっと気が滅入っていたせいか、友人と話すのは良い気晴らしになると思った様子。
香奈もそれがわかっているのか陽気な口調だった。
「わぁー、美汐。それ綺麗だねっ」
「有難う、真琴」
「ねえねえ美汐、それって着物って奴だよね?」
「はい、これはエアー地方の格式ある行事の際に身分ある女性が着るという十二単という着物です。
名前の通り十二の布で一つの服を作っているんですよ」
「それって、重いんじゃないの? それに動きづらそうだし……」
「確かに重いですけど見た目ほどじゃないんですよ。まあ、動きづらいのは確かなんですけど父様が晴れの舞台だから是非にと」
「あはは……流石国王。でも、確かにこれなら晴れの舞台にはいいかもね。下手なドレスよりもど派手だし」
「私はあまり目立ちたくなどないんですけどね……」
自分の格好を見下ろして溜息をつく美汐。
と、香奈が何か悪戯を思いついたような表情になって美汐の背後にまわる。
真琴はそんな香奈の様子に気がついたものの、彼女が何をする気かわからないので様子を見守る。
そして、次の瞬間
ばっ!
「ええいっ!」
「えっ…………?」
なんと香奈が十二単の裾を思い切りたくし上げた。
そして中から現れる真っ白な生足―――――ではなく白の法衣の裾。
近衛騎士隊長の突然の暴挙に目を丸くするメイド達と副隊長。
ちなみに美汐は顔を真っ赤にして口をパカパカ開いていた。
「なっ、なななっ」
「ちぇっ、ざーんねん。下も着てたのか」
「何をするのですか、香奈っ!」
言った本人もビックリするくらいの大きな声で怒鳴りつける美汐。
まあ、同性にとはいえいきなり服を捲りあげられれば当然の反応だろう。
「いや、本に着物って下には下着を身に着けないって書いてあったから本当なのかなーと思って」
「ちゃんとつけてますっ。あと、だからと言って実力行使にでないでくださいっ」
「いいじゃない、どうせ男はいないんだし」
「そういう問題ではありません!」
「んで、なんで法衣なんて着てるの?」
「……十二単だけでは動きづらいからです。まあ、この着物は着ているというより羽織っているという方が正しいので」
「あ、なーるほど。おトイレとか困るもんね」
「はい…………って香奈!」
「あはは、ごめんねー。それじゃあそろそろ私は会場の方に行くから。応援よろしくー♪」
「あ、ちょ、ちょっと香奈。手をひっぱらないでよっ!」
ひらひらと手を振って真琴を引っ張りつつ退出していく香奈。
そんな彼女を見送りながら美汐は疲れたような顔で椅子に座る。
「まったく…………あの娘は」
「ふふふっ、香奈さんは元気ですね」
「元気すぎて近衛の長としての自覚までないような気がします」
「ふふ、でも流石は香奈さんですね」
「え?」
話し掛けてきたメイド―――――凪音の言葉に疑問符を浮かべる美汐。
凪音は香奈たちの立ち去った方向を見据えたまま、優しく微笑んでいた。
「きっと、香奈さんは姫様を元気付けようとなさったのですよ」
「あ……」
「姫様は先程までどこか沈んだ雰囲気でいらっしゃましたが、今はもうそんな風には見えませんもの」
「香奈……」
「ふふ、心配なさらなくても香奈さんか真琴さんが優勝しますよ。そうすればお悩みの半分は解消できますよ」
「凪音さん…………はい」
ぎこちなくも微笑む美汐を見て、満足そうに頷く凪音。
もっとも、心の中では自分の言とは反対のことを思い浮かべていたのだが…………
(あとは……相沢様がどこまで頑張れるかですね。すみません誠林様、私は姫様の味方なのです)
「もう、香奈ってば…………絶対美汐怒ってるよ?」
「気にしない気にしない♪ それより急がないと予選終わっちゃうよ?」
「予選なんて見る必要ないわっ。どーせ全員真琴が黒焦げにしてあげるんだから!」
「それなら私も楽でいいんだけどね……あ、間に合わなかったか……」
立ち止まって何故かポーズをとる真琴を尻目に香奈は会場へと目を移した。
ちょうど予選の決勝が二つ同時に行なわれていたらしく、二つの闘技場に人が集まっていた。
C会場では長髪のキザっぽい男が、D会場では黒い甲冑の人物が勝ち名乗りを受けている。
『Cブロック代表は寺岡久平選手! Dブロック代表はユウ選手に決定いたしました!』
アナウンサーの言葉に盛り上がりを見せる両会場。
香奈は二人に目を向けて、不敵に微笑むのだった。
「これで役者は揃ったってわけか。さて、それじゃあ親愛なる親友のためにもがんばりますかっ」
えいえいおー! と片手を振り上げて真琴の方へと戻っていく。
ヴァルハラ公国近衛騎士隊隊長黒崎香奈。
彼女の考えていることを見破れる人間は…………皆無である。
『さあー今年もやってまいりましたヴァルハラ武闘大会っ! 今年も司会兼アナウンサーは私、ジェット斎藤が御送りします!』
熱気に包まれている本戦会場は満員御礼。
闘技場の中央ではマイクを降りかざした男が一人。
もはやお祭り騒ぎの武闘大会であった。
裏では姫の婿決めが行なわれていることなど嘘のようである。
『先程まで行なわれておりました予選も終わり、特別シードの二選手も加え計八名!
この八名によって本戦が争われます! では各選手の紹介と組み合わせの発表ですっ!
第一試合、Aブロック代表『大剣の巨人』ムドウ選手 VS 前回の覇者『赤い狐娘』沢渡真琴選手!
第二試合、Bブロック代表『仮面の貴公子』シェザル選手 VS Cブロック代表『美しき者』寺岡久平選手!
第三試合、Dブロック代表『黒騎士』ユウ選手 VS Eブロック代表『破滅の魔術師』ダウニー選手!
第四試合、Fブロック代表『冷血の魔女』ミュリエル選手 VS 前々回の覇者『トリックマスター』黒崎香奈選手!
なお、今回の大会はご帰国をはたされたこの国の王女、美汐姫がご覧になられますっ!』
司会の言葉とともにシーンとなる会場。
そして闘技場正面の特製テントにゆっくりと姿を現す美汐。
数瞬後、爆発したかのように歓声が湧き上がった。
皆、久しぶりに公の場に姿を現した美汐の姿に感激しているのである。
ちなみに、ヴァルハラでは結婚前の王族は滅多に民衆の前に姿を現さない。
特に美汐の場合、ここ三年間エターナル院に留学していたため珍しさもひとしおであった。
「さ、美汐さん。手を振ってあげてください」
「はい」
手を振る美汐にまたもや歓声が巻き起こる。
今度は男の歓声がかなりの部分を占めていた。
そんな観客の反応にむっとする馬鹿親が一名、メイドの目に確認されたりされなかったり。
美汐は誰かを探しているのか、視線はキョロキョロと会場中を彷徨っていた。
『さあ、それでは早速第一試合! 両選手、入場っ!』
あとがき
二ヶ月も更新さぼってすみませんなtaiです。
本戦出場選手の元ネタは某ゲームからとっております。
仰々しい呼び名で呼ばれておりますが全員所詮は一回戦負けでしょうから気にしないで下さい(ぇ
あ、着物の下には服とか下着をつけさせるなよ! って苦情は一切聞きませんのでー(w
次回から本戦開始、果たして祐一はどこにいるのか!?(バレバレだよ)
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