祐一と美汐の二人旅 第15話 〜さようならの約束〜
「ここが…………王都、ヴァルハラかぁ。こっから見ても街が賑わっているのがわかるな」
「そうですね…………」
何故か名残惜しそうなおかみさんに見送られて『天下泰平』を出発して歩くこと数時間、
祐一と美汐はついにヴァルハラ公国首都ヴァルハラに到着したのだった。
「なんかここに至るまで長かったよな、時間にすればたった二日のことなのに」
「ええ、いろいろありましたから…………」
「本当だな…………」
二人は短いながらもお互いが出会ってからの出来事を思い返す。
それは、限られた生活を強いられてきた二人には新鮮で、楽しかった時間。
だが、そんな時間もこれで終わる。
祐一には旅が、美汐には実家へ帰るという別れが近づいていた。
「…………俺さ、旅の間ずっと思ってたんだけど…………美汐って意外と体力があったんだな」
「え?」
「いや、だってさ…………今日もだけど俺らの移動って全部歩きだっただろ?なのに美汐は全然へばったような様子がないし」
「それは…………鍛えられましたから」
「へ? 誰に?」
「友人に、です」
平然と言う美汐に内心『どんな友人だ、それは!?』と突っ込みを入れる祐一。
頬には一筋の雫が流れていたりする。
まあ、その友人のおかげでスムーズに移動が進んだので感謝(もしくは叱責)はしなければならないだろうが。
「で、どうする? 到着したばかりだし、街中に行ってどっかの店にでも入って休むか?」
「いえ…………早く家族に会いたいですし、馬車を拾おうと思います」
「…………そっか」
途端に祐一は落ち込んだ表情になる。
本人に意識はないものの、『美汐は自分と早く別れたいのか…………』というマイナス思考になってしまう。
美汐はというとそんな祐一の心情を読み取ったのか、慌てて手を振って補足をつける。
「い、いえ、あの…………べ、別に祐一さんと早く別れたいとか思ってるわけじゃないんです。
私、馬車が襲われたせいでおそらく家族に心配をかけていると思うから、それで早く帰らないといけないっていいますか」
「あ、ああ、そうだよな。家族が心配してるものな。すまない…………心配させちまったみたいで」
「い、いえ、そんなことありません。私もできれば祐一さんとまだ別れたくないですし…………」
「え…………」
「…………はっ!?(////)」
「今、なんて…………」
「そ、その…………な、なんでもないです。今のは気にしないで下さい」
「そ、そう言われてもかなり気になるんだが…………」
「いえ、だから、その…………あ!馬車が来ました!」
これぞ天の助け! とばかりに馬車へと駆けて行く美汐。
残された祐一は…………先程の美汐の発言を忘れ、いきなりの別れに呆然としていた。
「そんな…………お別れの言葉も言えないのか?」
祐一と美汐の二人旅――――――――――完。
「…………祐一さん?」
「…………そんな酷なことは…………って美汐っ!?」
「きゃっ…………ど、どうしたのですか?」
「そ、それはこっちの台詞だ。馬車に乗ったんじゃなかったのか?」
「え?…………荷物を置いてきただけですけど…………」
美汐のその言葉を聞いてその場に崩れ落ちる祐一。
どうやら『完』にはまだまだ早いらしい。
「…………びっくりさせるなよ」
「すみません…………でも、祐一さんとちゃんとお別れもせずに私はさようならをしたりはしませんよ?」
彼女にしては珍しく、悪戯っぽく微笑む美汐に祐一は胸の鼓動が高鳴る。
一緒にいたこの二日間で彼女は自分にいろんな表情を見せてくれた。
単純な喜怒哀楽だけではない、本当にいろんな表情を。
きっと彼女にはまだ自分の知らない表情があるのだろう。
まだ、彼女と一緒にいたい。
それが祐一の素直な今の気持ちだった。
「祐一さん、最後に二つほどお願いがあるんですけど…………」
「…………なんだ?」
「…………握手、してもらえますか?」
最後。
美汐から放たれた言葉。
それは祐一の気持ちには反する言葉。
「そんなことか…………もちろんいいぞ」
「…………有難うございます」
けれども、彼女を困らせられないから
自分の気持ちに自信が持てないから、わからないから…………
祐一に出来ることは一つだけ、右手を差し出すことだけだった。
「やっぱり…………想像通りでした」
「…………?」
「祐一さんの手ですよ。大きくて…………暖かいです」
「んなことないさ…………剣ばっか振ってたからざらざらなだけだ」
「それでも…………安心できます。この手に触れていると…………」
本当に安らかな表情の美汐。
祐一はそんな彼女の言葉に少し照れてしまい、目をそらしてしまう。
「…………なぁ、美汐。俺の利き手は右なんだ」
「…………え?」
突然の祐一の言葉に美汐は瞬間的に呆然としてしまう。
目をそらしたまま祐一は続ける。
「戦いを生業とする者…………特に剣士っていうのはな、普段は決して利き手を人に預けないんだ」
「……………………」
「それはその人に自分の命を預けることと同じ意味だからだ。だから握手をするにしても俺の場合は左手を出すのが普通だ」
「でも、今、祐一さんは…………」
「そ。今俺は美汐と右手で握手している。これがどういうことかわかるか?」
「え…………」
「信頼してるのさ、美汐のことを。光栄に思ってくれよ?両親以外でこんなことしたのは美汐が初めてなんだ」
そう言うと祐一は目の位置を美汐のほうに戻して微笑んだ。
それはおそらく美汐がこの二日間で見た中では最高の微笑み。
美汐はそんな祐一に感極まってしまう…………もはや泣き出してしまわないのが不思議なくらいに。
「…………祐一、さん…………」
「はは…………なんて、ちょっとくさかったか?」
「…………いえ、嬉しかったです…………とても。多分今まで生きてきて一番…………」
「…………大げさなやつだな」
「くす…………いいんですよ」
どちらからともなく名残惜しげに手を離す二人。
そして、美汐はポケットから一つのどこか古びた指輪を取り出して祐一に差し出す。
「もう一つのお願いです。これ…………受け取ってもらえませんか?」
「…………これは?」
「それ、母様の形見なんです」
「おいおい、そんな大事なもの…………」
「はい、だからそれは祐一さんに預けるだけです」
「え?」
「再会の約束です。もし、また私たちが会うことが出来たなら…………その時に返してもらえませんか?」
「……………………」
「それならいいですよね?」
「…………なら、俺もこのペンダントを預ける。それなら条件的には五分だろ」
「これは?」
「俺の母さんが作った特性の魔法装飾。治癒を除くあらゆる魔法を打ち消す力があるんだ。ま、限度はあるけどな」
「そ、そんな凄いものを…………」
「これぐらいじゃないと…………いや、これでも釣り合わん位だ」
「…………わかりました。預かりますね」
「ま、それの場合は別に返さなくてもいいけどな。っていうかむしろそれは美汐にやる」
「くす…………それは流石に祐一さんのお母様に悪いですよ」
「いいんだよ、どうせ俺が持っていたってあんまり役に立たないし。
それに…………許可は得てある。渡したい人がいたら渡しても構わないってな」
祐一は照れかくしなのか押し付けるようにしてペンダントを美汐に渡す。
美汐は受け取るとそれをぎゅっと握り締めて俯く。
「有難うございます…………私、大切にします」
「ああ、俺も大切に預かっとくよ」
「それでは…………お別れですね」
「…………結構、楽しかったよ。美汐と旅が出来て」
「それは私もです。…………私の、一生の思い出です」
「…………じゃあな、美汐」
「…………はい、さようなら…………祐一さん」
―――――そして、二人は別れた。
「…………嘘付きですよね、私」
祐一の姿が見えなくなるまで窓から彼を見つづけていた美汐。
そして祐一の姿が見えなくなった後の馬車の中、美汐は祐一からもらったペンダントを濡らしていた。
濡らしていたものは―――――涙だった。
「はぁ…………ごめん、おかみさん」
一方、美汐と別れた祐一は一人鬱になりながら街中のベンチに座っていた。
思い出すことは『天下泰平』出発時のおかみの台詞。
『あの娘を、決して離すんじゃないよ』
『…………え?』
『ああいう危なっかしい娘は誰かが一生守ってやらなきゃね』
『…………なんで、俺を見るんですか』
『ま、一生っていうのは大げさかもしれないけど…………少なくともあんたの側にいる間は…………ね?』
『……………………』
『ほら、返事は!』
『…………は、はい』
『…………また、二人で来ておくれよ』
「…………離しちまったな」
美汐の感触の残る右手を見ながら祐一は呟く。
その表情は誰が見ても落ち込んでいるようにしか見えないものだった。
「…………やめやめ!取りあえず宿を探そう!全部それから考えればいいんだ!」
何とか自分の心を奮い立たせ立ち上がる祐一。
そして一歩目を踏み出そうとした時、『彼女』は現れた。
「…………やっと見つけた」
あとがき
どうも、死ぬときは好きな人の膝枕で死にたいなぁとか思ってるtaiです。
ついに二人が別れちゃいました、もちろん後で再会を果たしますけどねー
珍しくしんみり系のお話もはいりましたし…………
ラストに出てきた少女は…………まあ、バレバレですね多分(笑)
次回はこの少女についてとついに明かされる美汐の正体についてがメインになる予定です。
感想・質問は大歓迎につきよろしくお願いします。