祐一と美汐の二人旅 第13話 〜壊滅、タイヤキ団?〜
「ここがあゆ達のアジトか…………流石に盗賊団のアジトだけあって見た目だけはいかにもって感じだな」
感心したように呟く祐一の目の前には扉付きの洞窟があった。
扉の横には何故か『御用の方はここを押してねっ♪』と書かれたインターフォンがあったりする。
流石に表札とかはないようだが扉にタイヤキのマークがでかでかと書かれているのではバレバレではないかと祐一は思ったが、
よく考えてみれば観光案内に書いてある時点でモロバレである。
うぐぅ〜
「おわっ!?」
取りあえず馬鹿正直にインターフォンを押した祐一はそこから聞こえてきた音(?)にびっくりして仰け反ってしまう。
(ちなみにこの世界ではインターフォン等の電化製品は全て魔法の力で作られていることになっております)
『はい、どなたっすか〜?』
「あのー、俺、相沢祐一ってものなんだけど…………」
『ああ、お待ちしていましたよ〜。今扉を開けに行くので少々待っていてください〜』
「は、はぁ…………」
思ったより普通、というか客の来訪したときの態度そのままの対応に唖然とする祐一。
彼としてはいきなり扉が開いて盗賊たちが襲い掛かってくるぐらいを予想していたのだがこれは予想外である。
ガチャ
「あっ、どうも〜。あなたが相沢祐一さんですね?」
「え、ええまあ…………」
「思ったより遅かったですね?」
「い、いやちょっと道に迷ったもんで」
「はあ…………まあ、ここは結構わかりづらい場所にあるっすからね〜」
応対に出てきた男は祐一を前にしているというのにのほほんとした様子でしゃべる。
祐一はそんな男に何故か丁寧語になってしまうのだった。
「けど、もうちょっと早くきてほしかったっすよ」
「え?」
「おかげで僕ら二人以外全滅ですよ〜」
「は、はぁ?」
「詳しい説明はもう一人がしますんで取りあえず中にどうぞ」
男にうながされるままアジトの中へと案内されていく祐一。
その表情はひたすら『?』を浮かべていたのだった。
「こ、これは!?」
アジトの中心部と思われる部屋に案内された祐一は驚愕した。
何故ならば例の美汐を襲っていた盗賊八人がぶっ倒れていたからである。
「あ。あなたが相沢祐一さんっすか」
「そ、そうだけど…………こ、このありさまは一体? 賞金稼ぎでも来たのか?」
「いえ、違うんっすよ」
「あっ! そういえば…………み、美汐は!?」
仲間がぶっ倒れているというのに妙に落ち着いている二人を不思議に思うものの、
肝心の美汐の姿が見えないことに不安を覚えた祐一は、慌てた様子で美汐のことを問いただそうとする。
「えーと…………あなたの連れのお嬢さんなら多分カシラの部屋でカシラと一緒に寝てると思うっす」
「は?」
「見たわけじゃないんで正確にはわかんないっすけどね。おそらくは寝ているかと」
「なんで見て確認しないんだ?」
「だってカシラに無断で部屋に入ったり部屋を覗いたりしたらおしおきされちゃうし」
「それに乙女の寝顔は恋人でもない男が簡単に見るものじゃないっす」
グサッ
下っ端部下、シロアンの言葉に昨日のことを思い出して心に矢が刺さりまくる祐一。
が、取りあえず気を取り直して話を続けることにする。
「ん、んで、どうしてこんな事態に?」
「実は三十分ほど前のことなんすが…………」
祐一が到着する三十分前、タイヤキ団アジト。
「ねえねえ美汐ちゃん、祐一くんとは…………ど、どこまで進んでるのかなっ?」
頬を真っ赤にしながらも是非知りたい!といった様子で美汐に訊ねるあゆ。
盗賊団のカシラをやっているとはいえ、あゆも年頃の女の子、恋愛沙汰には興味津々なのである。
「アーツの街までですが」
ずるぺちゃっ!!
おかみに同じ質問を問われたときと全く同じ返答をする美汐にあゆはお約束どおりずっこける。
美汐はというと何故そんなことを聞きたがるのだろう?と首を傾げるばかりであった。
「う、うぐぅ…………」
「あゆさん、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫…………っていうか美汐ちゃんのほうが大丈夫って感じなんだけど」
「?」
「ひょ、ひょっとしなくても僕の質問の意味がわかってないでしょ?」
「え、この答えは違うのですか? 宿のおかみさんに聞かれたときもそんなことを言われたのですが…………」
どうやら本気でわかっていない様子の美汐にあゆは彼女にしては珍しく少し頭痛を感じたりする。
「祐一くんも大変だね…………」などと考えていたりもするが実際は祐一も似たようなものなので彼女の考えはあまり意味がない。
「い、いい方を変えるよ。祐一くんとはどのぐらい仲良しなの?」
「といわれても私達はまだ出会って二日目ですから…………祐一さんはよくしてくれますので仲は悪くないと思いますけど」
「い、いやそう言う意味じゃなくて…………」
「私の作った食事を美味しいって誉めてくれるんですよ祐一さん」
「へ、へぇ」
「毛布が一つしかないからってそれを私に使わせて自分は寝ずの番をするだなんて言ってくれますし」
「う、うぐぅ…………意味もわかってないのにのろけられてるよボク…………」
「???」
美汐の天然発言にやられっぱなしのあゆ。
当初の予定では狼狽する美汐を見て楽しむはずだったのがこれでは全く逆である。
そこで彼女はいくら無知な美汐でもわかるようにど真ん中の直球を投げることにする。
「じゃ、じゃあ…………美汐ちゃんは祐一くんのことをどう思っているのかな?」
「素敵なお方だと思います。それに言葉では表せないほど感謝しています」
「…………こ、これでも駄目なの…………」
ど真ん中直球なこの質問でも駄目だったのには流石にへこんだらしく、背中の羽のかざりとともにうなだれるあゆ。
しかし、望んだ回答ではないとはいえ好意的な言葉に期待して更なる質問を重ねる。
「じゃあ…………美汐ちゃんは祐一くんのお嫁さんになりたいと思う?」
「えっ…………?」
「祐一くんと結婚したいと思う?」
「…………え? …………えっ?」
今度のあゆの言葉には流石に衝撃だったのか呆然とした表情でしばし沈黙する美汐。
どうやら理解に時間がかかっているもよう。
(…………お嫁さん?) ←言葉を反芻しています
(…………結婚?) ←ようやく意味を理解し始めています
(…………祐一さんの?) ←自分にいわれていると理解しました
(……………………)
「み、美汐ちゃん?」
「……………………」
「ど、どうしたのかな?」
「………………………………………………はぅ(////)」
パタン
黙っていたかと思うと突然顔を真っ赤にして倒れてしまった美汐。
あゆは数瞬何が起こったのかわからなかったらしく目をぱちくりさせていたが、何とか事態を理解して慌てだすのだった。
「えっ…………えっ…………う、うぐっ!?み、美汐ちゃーん!!」
一方、あゆの部屋の外の会議室(兼食堂)
「えっ、じゃあさっきのタイヤキには眠り薬が入ってるんっすか!?」
「ああ、そろそろ効力を発揮するころだな」
「なんでそんなことを?」
「人質だよ人質、悔しいが普通にやったんじゃあいつには勝てそうにないからな」
「だけどそんなことカシラが許してくれるはずがないからな、だから眠り薬をしこんだってわけよ」
「な、なるほど…………さすがは兄貴たちっす。ナイスアイデアっす!」
「はっはっはー! これで勝利は間違いなし!」
「けど…………一ついいっすか?」
「あん?なんだ?」
「肝心の人質って…………カシラの部屋ですよ?」
ピシッ
その場の空気が固まった!
「人質とカシラは寝てるわけですし…………どうやって連れて来るんすか?
勝手に部屋に入ったら…………やばいっすよ?」
「な、なあ腹が減ったなー」
「そ、そうだな。おい、飯は?」
「きょ、今日はアズキの当番だろ」
「アズキの奴ならそこで寝てるっす。それより一体どうやって―――――」
「な、何!?全くアズキの野郎は…………おい、誰かあいつを起こしてこいよ」
「お!ここに食い物らしきものが置いてあるぞ」
「本当だ、なんか白いが新種の菓子かなんかか?」
「あ、そ、それは!」
「うるさいぞシロアン! ちゃ、ちゃんとその辺も考えてあるから気にするな!」
「いえ、そうじゃなくて―――――」
「いただきまーす(パク)」
「あーーーーーーーーーー!!」
バタ、バタ、バタ、バタ、バタ、バタ、バタ、バタッ!
白いお菓子(?)を口に入れるなり次々と倒れていく八人。
「…………それはカシラのお仕置き碁石クッキーの第二弾だから食べないようにって言おうとしたのに…………」
「ふぁぁぁーあ…………あれ、兄貴たちどうしたんすか?」
「―――――ってことでして」
「僕は寝てたおかげで被害はこうむらなかったですけどね〜」
「…………思うんだが、よく今までお前ら捕まらなかったよな…………」
「それが唯一の自慢っす」
「まあ、僕らの場合は新人なんで留守番専門なんすけどね〜」
ほのぼのと経過を語る盗賊二人とどこか同情的に話を聞いている祐一。
祐一としては無駄な争いをせずにすんだので大助かりなのだが・…………
「しかし凄い形相で倒れてるな…………そんなに凄いもの食ったのか?」
「Uっすから」
(邪夢とどっちが凄いのだろうか…………?)
少し好奇心が出て来て『碁石クッキーU』を味見してみようかと一瞬考えてしまう祐一だった。
「じゃあなー、あんまり人様に迷惑かけるなよー!」
「お達者でー!」
「また来てくださいね〜」
見送る二人に祐一は美汐を背に背負ったまま手を振って別れるのだった。
ちなみにあゆの部屋にはシロアンやアズキは入れないので祐一が入った。
あゆは美汐に折り重なるようにして寝ていたのでベッドに放置。
何故か美汐は顔を赤く、あゆは顔を青くして寝ていたのが祐一は少し気になったが。
―――――追記、目を覚ましたあゆにシロアン&アズキも結局部屋に入ったお仕置き(無実)でUを食べさせられた、合掌。
あとがき
どうも、甘いものが食べたいtaiです。
当初は祐一くんがアジトで立ち回る予定だったんですが…………むしろそっちの方が盗賊達には幸せだったかも。
そしてこれにて一部でのあゆの出番は終了です、にもかかわらず出番少なかったですね。
さて、次回はついにみなさんお待ちかねの夜パートです!(笑)
でも、あんまり期待しないで下さい…………私にその辺りの描写は無理ですし。
感想・質問は大歓迎につきよろしくお願いします。
月宮あゆ (17) ジョブ〔シーフ〕
アーツの街近辺を縄張りとする盗賊団『タイヤキ団』の二代目ボス。
ただし住民にマスコット的に愛されているため憎まれてはいない。
いつも食い逃げを働いていて街の名物にまでなっている。また、そのせいか足がとんでもなく速い。
武器は相手を眠らせる『ドリームハンマー』