祐一と美汐の二人旅 第11話 〜アーツの街〜
「で、結局あんたらはなんなんだい?」
「ズズズ…………え?」
「祐一さん、音をたてながらスープを飲むのはマナー的に感心しませんよ」
「ああ、すまない。…………で、なんなんだとはどういうことですか?」
チェックインした後、宿屋『天下泰平』の食堂にて昼食のひと時を過ごしていた二人。
すると、宿のおかみさんが少しニヤニヤしながらそう聞いてくる。
「あんたらの関係さ」
「関係、といわれましても私たちは…………」
「まあ、ラブラブなのはわかってるけどね」
「いや、あの…………」
「やっぱり駆け落ちかい? それともこれから故郷の両親に結婚の許しをもらいに行く最中とか?」
「か、駆け落ちっ!?」
「け…………けけけけけけけ、結婚…………(////)」
おかみさんのとんでもない推測に真っ赤になって慌ててしまう二人。
実に初々しい。
「おや、違うのかい。ってことはもう結婚済みで新婚旅行ってわけか…………いいねぇ、結婚しても初々しくて」
「「ち、違います!俺(私)たちはそんな関係じゃありません!」」
「おやおや、何もそんなに照れなくたっていいじゃないか。
それにそんなに仲良く息がぴったりなんじゃ説得力の欠片もないよ二人とも」
「う…………」
「そ、そんな酷なことは…………」
結局、この後おかみさんへの誤解を解くのに数十分かかり、しかもその過程で二人の出会いから今に至るまでの経緯を根掘り葉掘り
聞き出されてしまう祐一&美汐なのであった。
のちに祐一と美汐は語る、「あのおかみさんによって自分たちの逸話の半分近くは捏造(一部事実)された」…………と。
「んじゃ、ちょっくら行って来るわ」
「…………早く戻ってきてくださいね」
「善処はする」
昼食とおかみさんの尋問(?)もようやく終わりを迎え、一息ついた祐一はこれからの旅に必要なものの調達と、
そろそろ底の見えかけてきている路銀を稼ぐ仕事を見つけにギルドへと出かけることにした。
ここで美汐は当然のごとく祐一について行こうとしたのだが、先程の騒動のため二人一緒に出歩くのはまずい…………
という判断のもとお留守番に決定となる。
そういう理由をだされてしまうと先程の恥ずかしさが思い出されてしまい強くでれない美汐は大人しく留守番をするしかなかった。
そんな彼女が少し落ち込み気味な理由は二つ、
一つ目は祐一と少しの間とはいえ離れなければならないことに対する寂しさ。
このあたりはもう誰から見ても立派な恋する乙女にしか見えない心境といえる。
もう一つはこれから祐一の不在の間まだ何かを聞き出そうとしているおかみの相手をしなければならないことに対する憂鬱だった。
色恋沙汰において、過去に冷やかされるどころかそういう経験も全く無い彼女にとってこれからの時間は彼女の人生において
トップ10に入る苦行になることは間違いなしだからである。
ちなみに、美汐が一人で行くという案は祐一によって即座に却下された。
その理由は簡単、どう見ても良家のお嬢様っぽい美汐にこの状況下で「初めてのお買い物」をさせるわけにはいかないからである。
と、いうのが説得の建前で祐一の本音としては、
「美汐を一人にして街を歩かせると彼女の容姿に惹かれた男が彼女に寄ってくるのではないか」
という不安があったのも事実である。
余談ではあるがこの話の際、わけを聞いて拗ねた美汐の表情に萌えたことは祐一の心の中の秘密である。
「祐一さん、どうかお気をつけて」
そんな祐一の微妙な男心を知るよしもなく、祐一の外出を見送る美汐。
その様子は『仕事に出かける夫を見送る新婚さんの妻』そのものであった。
「くくくくっ…………まるで新婚夫婦みたいなやりとりだねぇ〜」
「…………え、あっ? あ、あの、私そんなつもりは…………!」
「ゆ、夕方までには帰りますっ!」
案の定おかみさんにそれを指摘され、動揺する美汐と慌てて出かける祐一なのであった。
「む、少しばかり買い過ぎたかなこれは…………」
買い物を終え、軽くなった財布と引き換えに重い荷物を持って歩く祐一。
当初は片手で十分持てる程度の荷物になるはずだったのだが現在彼の持つ荷物は両手を完全にふさいでいる。
「まさかあそこまでさっきのことが広まっているとは…………」
一人で動いているわけだし、街の人みんながみんな先程のことを見ていたわけではない、
そう思っていた祐一だったが世の中はそんなに甘くはない。
最初に立ち寄った食物店の店主に「あんちゃんはさっきの!」と大声を出されあっという間に注目を得てしまうのだった。
げに恐ろしきは人の噂の伝達スピードである。
「たくさん買えたのはいいんだけどね…………なんで花があるんだろう…………」
とはいえ悪いことばかりでもなかった。
宿のおかみと同じく「面白いものを見せてもらったお礼」といろいろおまけして貰ったりもした。
ただ、何故か若い女の子の店員からのものが一番多いことに首をひねるばかりの彼であったが。
ちなみに花屋には寄っていないはずなのに花が彼の手の袋にはあったりする。
「と…………ここか。しっつれいしま〜す、と」
カランカラン、と入り口のベルが鳴りギルドの扉が開かれる。
ちなみにこの世界におけるギルドとは簡単に言ってしまうと『仕事調達&配布屋』となっている。
冒険者や路銀の尽きた旅人に愛用される組織であり、その仕事内容は赤ん坊のおもりから賞金首の捕獲までと幅は広い。
こなした仕事の難易度と数によってランクカードが発行され、下からなし、C、B、A、S、G(great)となっていて、
ランクによってまわしてもらえる仕事が大幅に変わるようになっている。
例外としてギルド経由の仕事でなくても名が知れ渡るような偉業を達成すとランクがあがる場合がある。
ランクS以上になるとその世界ではある程度有名になってしまうので本人の知らないところで二つ名が発生したりする。
(現在ランクGの称号を得ているのは世界で五人、その中には祐一の両親も含まれておりそのことは祐一も知っている)
「いらっしゃい…………って凄い荷物だね(汗)」
「ちょっと買いすぎちゃって…………」
「で、お金がなくなってここに仕事を探しに来たと」
「だいたいそんなもんです」
祐一の荷物を見て驚く店員、他に客はいないらしくがらんとしている。
「ま、それは置いといて…………ここは初めてだね?」
「わかるんですか?」
「常連の客の顔ぐらい覚えているさ…………で、ランクカードはあるかい?」
「ないです。一応腕には覚えはありなんですが…………」
「ふむ、となると賞金首の捕獲ぐらいしかないね。いい仕事はランクがないとまわせないし」
「ええ、それはわかってますんでそれで問題はないです。それに短期で稼げるのが望ましいですし」
「ええと…………お、あったあった。はい、このあたりにいそうな賞金首の手配書」
「どうも」
受け取った手配書をめくっていく祐一…………が、ある手配書を見つけると同時に驚愕の声をあげる。
「…………これ、あゆ?」
「お、やっぱ知ってるのかい?この嬢ちゃんは有名だからねえ」
「ええ、まあちょっと」
「月宮あゆ、Aランク賞金首で主に盗み全般を生業とする『タイヤキ団』のボスだよ』
「あいつがA、ですか…………」
「腕は超一流だからね。今まで幾人もの賞金稼ぎが返り討ちにあったよ」
実はそんな大物をさっき捕らえようと思えば捕らえられる状況だったとはいえない祐一は愛想笑いをするしかない。
しかし、よくよく手配書を見ると、ふと疑問が発生する。
「あの、ちょっと聞きたいんですが」
「なんだい?」
「なんでAランク賞金首なのにこんなに賞金は安いんですか?」
祐一の持った手配書にはこう書いてあった。
『月宮あゆ…………ランクA賞金首。賞金額金貨10枚』
『その部下…………ランクC賞金首。賞金額金貨15枚』
金貨1枚は現代の金額に換算すると約一万円である、Aランク賞金首がこの安さ、しかも部下より安いというのはおかしい。
「ああ、それはね…………罪状の問題だね」
「と、いうと?」
「月宮あゆ本人の犯した罪というと食い逃げぐらいなんだ。ランクは実力によるが賞金額は罪の重さだからね」
「なるほど…………」
「それに彼女はある意味この街のマスコットキャラだからねえ、あんまり高くすると強い賞金稼ぎがやってきちゃって
彼女が捕まるのも忍びないし」
「本気で捕まえる気はないということですか…………」
「部下の方ならいくらでも捕まえていいけどね」
「なんなんだ…………この街は…………」
先程のことといい、荷物さえなければ頭を抱えたくなる祐一であった。
一方、宿屋に残った美汐とおかみさんの会話。
「で、彼とはどこまでいったの?」
「どこまでといわれても…………この街までですが」
「…………い、意外と手ごわいね」
あとがき
どうも、最近昼夜逆転しまくりのtaiです。
さて、前回を読んで、今回の話に邪な期待を抱いた方は手を上げてください。
貴方は人として不出来です!
…………まあ、祐一×美汐ファンとしては合格でしょうが(笑)
実は前話に感想をくれた人の9割が二人の初夜(爆)を期待してくれたんですよね。
その人たちもご安心を!当初はやる予定はなかったんですが急きょ夜のシーン(こう書くといやらしいですね…………)も
後に入れますんで。まあ、期待に添えるかは出来上がりをお待ちください。
次回は事件発生です…………ああっ、二人の夜を期待している人もう少しお待ちを〜
感想・質問は大歓迎につきよろしくお願いします。