祐一と美汐の二人旅 第10話 〜そして二人の伝説は始まった〜
「じゃあね〜」
「ああ、じゃあな」
「またお会いしましょう」
あゆからの必死の謝罪を10分ほど聞いた後、そう言って別れた三人。
あゆの去り際の「クッキーの刑だね…………」という台詞が若干気にはなったところではあるがそこはスルーした二人であった。
「さて、メシと宿、どっちを先にする?」
「宿が先の方が良いでしょう、あんまり行くのが遅くなって宿泊できなくなったら困りますし」
「そうだな…………また野宿ってわけにもいかないしな」
「あれはあれで私は楽しかったんですが…………」
「…………勘弁してくれ…………俺の精神が今度こそ持たない…………」
そう言いつつ昨日のことを思い出し、赤くなったり青くなったりとなかなか器用な表情をする祐一。
が、そんな祐一の心情などわからない美汐は祐一の表情に違った解釈をしたらしく、表情を曇らせる。
「…………それは、私といることが苦痛ということでしょうか…………?」
「え?」
「そうですよね…………私、祐一さんに会ってからご迷惑をかけてばかりですし…………」
「い、いや、違うんだ」
「気を使って頂かなくて結構です。すみませんでした、いろいろと私のために…………」
「う、うわ、泣かないでくれー」
もう半分泣きそうになっている美汐に慌てふためく祐一。
会話に夢中になっている二人は気付いていないが周りの人の注目を浴びまくっている。
「ひそひそ…………別れ話かしら」
「きっとあの男の子のほうが浮気したのよ。やーね、あんな可愛い娘を泣かせるなんて」
しかも痴話喧嘩に見られているらしく、見物人は主に恋愛沙汰が大好きなおばさまでいっぱいである。
唯一の救いは二人がそれに気付いていないところだが、それも時間の問題であろう。
「ち、違うって。別に俺は美汐と一緒にいることが嫌ってわけじゃない!」
「じゃあ、何で…………」
「そ、それは…………」
「理由を仰らないということはやっぱり」
「う、わ、わかったよ、言うよ…………あのさ、俺がずっと両親と山に篭っていたって話はしたよな」
「…………はい」
「だからさ…………俺、この七年間同年代の女の子と話すことはおろか会ったことすらなかったんだ。
なのに美汐みたいな可愛い娘といきなり二人旅することになっちゃって…………」
「…………ゆ、祐一さん…………(////)」
祐一の「可愛い娘」という部分に反応し真っ赤になってしまう美汐、しかし彼女はしっかりと祐一の言葉に聞き入っていた。
「俺、そういうのに慣れていない…………っていうか全く免疫がないから…………それでちょっと精神的に疲れちゃって」
「それならばやっぱり私のせい―――――」
「でもな」
再び顔を曇らせる美汐の言葉を遮る祐一。
その表情は笑顔で、先程まで見せていた疲れた感じの表情ではなかった。
「それ以上に美汐と一緒にいると俺は楽しいから」
「祐一さん…………」
「だから、美汐が気にする必要はないさ」
「…………はい」
そう言ってポン、と美汐の頭に手を置いて撫でる祐一に真っ赤になる美汐。
それでも嬉しそうな表情で微笑み返す彼女に祐一は心が暖かくなるのを感じるのだった。
―――――が、この幸せいっぱいな二人は気付いていなかった。
ここが街中だということを。
そして先程から注目を集めまくっているということを。
―――――パチパチ
「ん?」
「拍手…………?」
「「「「「ワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」」」」」
「う、うわっ! な、なんだこの人たち!?」
「も、もしかして…………」
突然巻き起こった拍手と歓声の嵐にびっくりする二人。
気付くのが遅すぎである。
「いやー、いいもん見せてもらったぜ!」
「全くだ!白昼堂々臆面もなくあんなに恥ずかしい会話をするなんて…………」
「私、見ていて泣きそうになっちゃったわ」
「お幸せに〜」
次々と二人にかけられる冷やかしと賛辞の言葉の数々。
そこでようやく二人は自分たちの今の状況を悟るのだった。
「ひょっとしなくても俺たちって…………」
「この人たちの前でとんでもなく恥ずかしいことをしていたのでは…………」
「…………(汗)」
「…………はぅ(////)」
「つ、ついた…………宿屋だ」
「な、なんかここまでの道のりが凄く長く感じたのは私の気のせいでしょうか…………」
「気のせいだ…………と、いいたいが…………現実だ」
「うぅ…………もう、この街を出歩けません」
「言わないでくれ…………」
あの後、これ以上ないくらい真っ赤になって固まってしまった美汐の手を引っ張って観衆から逃げ出した二人。
その姿がまた二人に歓声を呼ぶことになったは別のお話である。
余談ではあるが、のちに二人の名前が全世界で有名になった際、この一幕を使用した劇がこの街の名物になったらしい。
ガチャ
「こんちわ〜」
「いらっしゃい、お二人さんかい?」
「そうです、部屋は空いてますか?」
「すまないが二人部屋は満室だね、一人部屋なら一つ空いてるんだが…………」
「そうですか…………」
もともと二人部屋には泊まる気はなかったので二人部屋が満室なのは問題なかったが、一人部屋も一つしか空いていない
のではどうしようもない。しょうがないので他の宿屋の場所を聞くことにする祐一。
「じゃあ、ここから一番近い宿屋はどこにあります?」
「ここの裏通りにも一つあるが…………多分そこも満室だと思うよ」
「何故わかるのですか?」
「いやね、近々王都ヴァルハラでなんか大きい催しがあるらしいんだ」
「催し?」
「ああ、わたしはよく知らないんだが何でも何かの大会が行われるらしい」
「へぇ…………美汐は知ってたか?」
「…………いえ、私はそういうことにあまり興味がありませんから」
「大会」と言う言葉を聞いて少し声のトーンが落ちる美汐。
(…………美汐?)
そのことに祐一は気付いたのだが、美汐がそうなった理由がわからないためただ不思議そうな表情をするだけだった。
「で、その大会とやらを見物しに行くんだろうね。ここ最近この街は旅人でいっぱいなんだ」
「それで今の時期は宿が取れないってわけですか」
「そういうことなんだ。ま、こっちとしては商売繁盛でいいことなんだけど…………そういうわけなんですまないね」
「いえ、そんなことになってるなんて知りませんでしたし」
ガチャ
「帰ったよー」
「おう、おかえり」
「あれ、お客さん?」
どうやら女性はこの宿屋の関係者らしい、祐一たちの姿を確認するとお辞儀をしてきた。
外見こそ全く似てはいないが、その女性に自分の母親に通じるものをふと感じる祐一。
「ああ、お二人さんなんだがあいにく空いてる部屋がないんで困ってたところなんだよ」
「ありゃ、それは運が悪かったねー…………っておや、あんたたちは…………」
「?」
「…………ねえアンタ、確か一人部屋は空いてるんでしょ?」
「ああ、一部屋だけだけどな」
「なら、そこに泊めたげれば?」
「え?」
「は?」
「おいおい、何言ってんだよ」
「ウチは一人部屋っていっても広めに作ってあるから二人ぐらいなら平気でしょ」
「それはそうだが…………ベッドは一つしかないぞ」
「別にいいんじゃない?一緒に寝れば」
さも当然のように言う女性(おそらくこの宿屋のおかみさんだろう)に呆然とする祐一&美汐。
「い、いや、流石にそれは…………」
「何いまさら照れてるんだい?さっきはあんなに二人で盛り上がっていたのにさ♪」
「!!!」
「…………はぅ」
ニコニコ顔でそう言うおかみがさっきの現場を見ていたと悟り真っ赤になる二人。
それを見てますますニコニコするおかみ。
事情を知らない主人は不思議そうに二人を見るだけであったが。
「宿代は半額でいいからさ、泊まっていきなって」
「おいおい」
「まあまあ、この二人にはさっきいいもの見せてもらったからそのおひねりみたいなもんだよ」
「おひねりって…………別に寸劇やってたわけじゃ…………」
「そうだね、周りが目に入らないくらい二人とも本気だったしね♪」
「…………お恥ずかしいところをお見せしてしまったようで…………」
「〜〜〜〜〜〜〜〜(////)」
「そんなわけだから遠慮せずに泊まっておくれ、それとも宿に泊まれず二人っきりで野宿するかい?」
そう言われては昨日のこともあり何も言えなくなってしまう祐一だった。
「…………お願いします」
「お世話になります…………」
結局、おかみに押し切られる形でこの宿『天下泰平』に泊まることになってしまった二人であった。
あとがき
どうも、妹キャラには「お兄ちゃん」と呼ばれるよりも「お兄様」の方がより萌えるtaiです。
なんとか予告通りラブコメっぽくしてみました…………が、話が進んでない(汗)
このままでは一部終了までに何話かかるのやら。
さて、次回はまたまた秘密です。
ちょっとした(?)事件を起こすつもりではいますが…………あまり期待はしないで下さい。
私には予想を裏切るような展開を考えるのは無理ですから(マテ
感想・質問は大歓迎につきよろしくお願いします。