祐一と美汐の二人旅     第9話 〜疾風のあゆ!〜


















 「と、いうわけですんでこいつをボコボコにしちゃってください!」

 「え、で、でも…………」

 「あのなー、もとはといえばお前らが悪いんだろうが」

 「うるさい! さあカシラ、こいつの言うことなんか信じちゃいけません。

  会ったばっかりのこいつらと、今まで苦楽を共にしてきたオレのいうこと、どっちを信用するって言うんです!?」

 「う、うぐぅ…………」

 「あゆさん…………」

 「ど、どうすればいいの〜」



 悩むあゆ。

 かたや会ったばかりとはいえ、どう見ても悪い人には見えない二人、

 かたや自分と長い間いっしょに暮らしてきた子分。

 もともと難しいことを考えるようにできてはいない彼女の思考回路はもはやショート寸前だった。

 そこへ、彼女のことを熟知しているツブアンの一言。



 「…………おやつ、減らしますよ?」

 「まかせてっ!(即答)」

 「ええっ!?」

 「…………まてこら」



 即答だった。

 どうやらこの少女は盗賊団のボスという肩書きを持っているにもかかわらず、おやつを子分に作らせているらしい。

 今までの彼女の真剣な葛藤はなんだったんだ? と心の中で突っ込む祐一&美汐。



 「祐一君に恨みなんて全くないんだけど…………ボクのこれからの鯛焼きライフがかかっているからねっ、

  悪いけど少し痛い目に会ってもらうよっ」



 説明しよう! タイヤキ団ボス、月宮あゆは鯛焼きの命運がかかったとき、通常の二倍の戦闘力を発揮するのだ。

 やる気満々になったあゆを見てほくそえむツブアン。



 「…………一応確認するが、本気か?」

 「本気だよっ」

 「女の子とやりあうのは趣味じゃないんだけど…………」

 「ふふ、ボクのことをただの食い逃げするだけの女の子だと思ったら大間違いだよ」



 あゆはそういうと背中に背負っていたリュックからなにやら武器のようなものを取り出す。

 それは…………



 「…………おもちゃ?」

 「どーみてもピコピ〇ハンマーにしか見えんな」



 あゆの取り出した武器(?)に関して正直な感想を述べる二人。



 「違うよっ!これは―――――」

 「カシラ専用の必殺武器、その名も『ドリームハンマー』だ!」

 「この武器は―――――」

 「この武器はなっ、なんとこれで殴った相手を―――――」



 ドゴォッ!!



 「…………人がしゃべろうとしていることを全部言わないでよっ!」

 「Zzzzzz…………」

 「あーっ!い、いけない。こらっ、キミが寝ちゃ駄目だよっ」



 あゆにハンマーで殴られて眠ってしまったツブアンを必死に起こそうとするあゆ。

 完全に置いてきぼりをくらっている二人はというと…………



 「なあ美汐、昼メシは何を食べようか?」

 「そうですね、祐一さんが昨日話されていた『ようかん』というものを食してみたいです」

 「なら、甘味所にでも行くか…………」



 昼御飯の話し合いをしているのだった…………















 「さあ、ちょっと待たせちゃったけど覚悟はいいかな!?」



 ようやくツブアンを起こし、祐一たちが和菓子談義を終えたころに宣言するあゆ。

 ちなみにツブアンの頭にたんこぶが無数に出来ているのは気にしてはいけない。



 「…………ん?ああ、なんだったっけ?」

 「ええと、確かあゆさんと祐一さんが鯛焼きを早食い対決…………」

 「全然違うよっ!」

 「ふん、そんな余裕を見せていられるのも今のうちだぜ!」

 「と、言われてもねぇ…………」



 面倒そうに『エンジェルウイング』の柄に手をかける祐一。



 「はっきり言って俺は結構強いぞ? 女の子に怪我をさせるような真似はできるだけしたくないんだが…………」

 「そうですよあゆさん。ここは引いていただけませんか?」

 「おいこら、あんまりウチのカシラを甘く見るなよ?」



 昨日あれだけコテンパンに祐一にやられておきながら余裕の態度のツブアンを訝しがる祐一と美汐。

 どうやら殴った相手を眠らせるらしい『ドリームハンマー』は確かに厄介ではあるが、当たらなければいいだけの話である。

 ましてや相手は祐一なのだ、あゆ一人では到底勝ち目などないと思われた。

 が、その予想はあっさりと裏切られるのだった。



 ―――――ヒュン



 風を切り裂くような音と共にあゆが一気に祐一の目の前に移動する!



 「っな!?」

 「もらったよっ!」



 ブンッ!!



 「祐一さんっ!?」















 「見たか、ウチのカシラの超スピード!伊達に『疾風のあゆ』の二つ名で呼ばれてないってわけよ!」

 「そ、そんな祐一さん…………」



 あゆの攻撃が決まったと確信して喜ぶツブアンと目の前で起こったことが信じられないといった表情の美汐。

 あゆの『ドリームハンマー』は見事に祐一の頭に当たって―――――



 「残念でした…………」

 「う、うぐぅっ!?」



 ―――――いなかった。

 祐一はすんでのところでハンマーを掴んでいる。

 まさかあのタイミングで防御されるとは思っていなかったらしくあゆは驚愕の表情を見せる。



 「な、なにぃっ!?あれを防いだだと!?」

 「祐一さん!」

 「真剣白刃取りってね…………いや、こういう場合はハンマー掴み取りってところかな?」

 「ど、どうして!?」

 「まあ、勘って奴?流石に少しあせったけどなー」



 そういいながらハンマーを放してにっこりする祐一。



 「…………う、うぐぅ(////)」

 「祐一さん、凛々しいです…………(////)」



 それを見て顔に朱を散らしてしまう少女二人。

 実に緊張感のない戦いである。



 「く、くそっ、たった一回まぐれで防いだからっていい気になってんじゃねえぞ!

  カシラ!ぼーっとしてないで本気でやっちゃって下さいよ!」

 「……………………はっ、そ、そうだね!今度こそっ」



 子分の言葉に気を取り戻して祐一との距離をとるあゆ。

 そしてハンマーを両手に身構えたかと思うと、その姿が消える!



 「えっ、き、消えた?」

 「消えたんじゃねえよ、目にも止まらぬ高速移動をしているのさ!」



 ―――――ガッ、ヒュン

 ―――――ビュッ



 ツブアンの言葉を証明するように何かが周囲の空間を移動していると思われる地面を蹴る音と風切り音が三人の耳に届く。



 「どう、これでも今度もボクの攻撃を防げるかなっ」

 「降参するなら今のうちだぜ!」

 「祐一さん…………」

 「…………」



 勝ち誇る二人と心配する美汐を尻目に、微動だにせず黙っている祐一。

 それを観念した態度だと解釈し、あゆは祐一の背後に唐突に現れてハンマーを振り下ろす!



 (今度こそもらったよ!)



 勝利を確信するあゆ。

 あゆの手に握られたハンマーは彼女の狙い通りに祐一の頭に吸い込まれる―――――かに見えた。

 だが、ハンマーが祐一にヒットしたかに見えた瞬間、祐一の姿が掻き消える!



 「―――――!?」



 むなしく空を切るハンマー。 

 慌てて祐一の姿を探そうとしたあゆだったがそれは叶わず後ろ襟をつかまれ、宙にまるでネコのように持ち上げられる。



 「う、うぐぅ〜〜〜〜〜〜〜〜」

 「チェックメイトだな。残念でした、あゆが攻撃を当てたと思っていたのは俺の残像だよ」



 あゆをぶら下げている人物―――――祐一はそういって意地の悪い笑みを浮かべ、ツブアンを見る。



 「ば、馬鹿な…………」

 「ま、俺のほうがちょっとばかし速かったってわけだな」



 軽い感じでそう言い放つ祐一に呆然とするあゆ&ツブアン。



 「さて、どうする?お前んとこのカシラはこの通りだが…………」

 「カ、カシラを離しやがれ!」

 「じゃあ、もう俺と美汐を襲ってこないと約束できるか?」

 「く、くそっ…………」

 「言っとくけどな、俺は結構昨日のことに関しては怒っているんだぞ?

  美汐は俺が間に合ったからいいようなものの…………他の人をみんな殺しやがって」

 「て、抵抗してきたんだから仕方ねえだろうが!」

 「……………………え?」



 ぴくり、とぶら下げられているあゆが反応する。

 その反応を見て、やばい!といった表情になるツブアン。

 汗がダラダラと頬を伝い始め、怪しさ爆発だった。



 「…………殺したの?」

 「い、いや、そのあの」

 「タイヤキ団は殺し厳禁っていつも言ってるのにそれを破ったのっ!?」

 「す、すすすすすすすみませんーーーーーーーー!!」



 そう謝るとダッシュで逃げ出す盗賊A。



 「あ、待てーーーーっ!帰ったらおしおきだからねっ、逃げても無駄だよっ!!」















 「なんだかなぁ…………」

 「あの、祐一さん。そろそろ降ろしてあげたらいかがでしょうか?」

 「あ、忘れてた…………」





 あとがき

 どうも、そろそろ扇風機を出そうかと考えているtaiです。
 予告通りあゆVS祐一になってしまいました。
 個人的にはラブコメシーンが書けなかったのでちょっと消化不良気味です。くっ、次回こそは…………
 次回は…………秘密ですが、取りあえず今度こそラブコメを入れようかと。
 感想・質問大歓迎につきよろしくお願いします。