祐一と美汐の二人旅 第8話 〜食い逃げ少女の正体は?〜
「ようやくアーツの街に到着しましたね、祐一さん」
「そうだな…………ふぁ〜あ…………」
街に到着するなり大あくびの祐一。
昨晩ほとんど眠ることが出来なかった彼はここに至るまでの道中をずっとこんな調子だった。
「祐一さん、今朝からずっとそのような調子でいらっしゃいますが大丈夫ですか?」
そんな祐一の様子に心配そうに問う美汐。
しかし流石に自分が祐一の不調の原因であるとは想像もつかないらしく、その瞳には心配の色しかない。
「あ、ああ、大丈夫だ。ちょっと早起きがつらかっただけだから…………」
「すみません…………私が早く目が覚めたとはいえ、祐一さんまで起こしてしまって…………」
「い、いや、俺が低血圧なだけだから」
実際は低血圧など真っ赤な嘘なのだが、まさか本当のことを話すわけにもいかない祐一は慌ててそう言う。
額にでっかい汗が浮かんでいるため嘘をついていることが一目瞭然なのだが…………幸いにも美汐がそれを見ることはなかった。
余談ではあるが美汐の方も祐一を朝早く起こしたといってはいるものの事実はわずかに違っていたりする。
確かに美汐は早起きをしたし、祐一を起こしたのも彼女ではあるが、すぐに祐一を起こしたわけではない。
実際は祐一の寝顔に数分ほど見とれていたのである。
(とはいっても結局祐一を朝早い段階で起こしたという事実には変わりはないので祐一がそのことに気付くことはなかったが)
「まあ、その話はおいといて、と…………取り合えずまずは今日の宿を探すとしようか」
「そうです(く〜)……………………ね」
――――――――――静寂
「……………………」
「……………………」
「…………あ、あの」
「…………(赤面)」
「…………先に腹ごしらえをした方がいい?」
「………………………………………………………………(こくん)」
「じゃ、じゃああっちにでもいってみようか。なんかあるかもしれないし」
「(こくこく)」
祐一の言葉で歩き出す二人。
しかし二人の歩く動きは果てしなく不自然だったりする。
ぎくしゃく、と擬音が聞こえそうな勢いだった。
(め、滅茶苦茶気まずい…………やっぱり聞こえない振りをしたほうがよかったか…………?)
(…………こ、これで二度目の失態です。も、もう完全にお嫁にいけません。一体私はこれからどうしたら…………)
それぞれ真剣に悩む二人、しかしその時…………
「うぐぅ〜〜〜〜〜〜〜〜!! そこの人〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜どいて〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
鯛焼きの入った袋を持った少女が二人に向かって突っ込んで来るのだった。
「はい?」
「美汐、危ない!!」
ドガァッ!!
―――――数分前、祐一たちから少し離れたとある一軒の鯛焼き屋台
「ほいよ、焼きたてのタイヤキおまちどう!」
「おじさん、ありがとうねっ」
「タイヤキ十個でしめて…………」
「じゃ、そういうことでっ!(ダッ)」
「…………へ?」
鯛焼きを受け取るなり回れ後ろをして走り出す少女。
「タイヤキはやっぱり盗りたてに限るよね〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
その手際によどみは全くなく、鯛焼き屋の店主が呆然としている間に少女はあっという間に見えなくなる。
少女の動きは正にプロの仕事といえよう(というかある意味プロなのだが)
「…………はっ!?しっ、しまったーーー!! 食い逃げだーーーーーーー!?」
「うぐぅ、いたたたた…………」
見事な食い逃げ術を披露した少女だったがアフターケアはなっていなかったらしい、加速のつきすぎた足は何かにぶつからなければ
止まらないほどのものだったらしく、結局前方を歩いていた男女―――――祐一と美汐にぶつかってしまうのだった。
「ご、ごめんね…………って、うぐぅっ!?」
激突した相手に謝罪しようとする少女、しかしその瞳に映ったものは…………
「あたた…………美汐、だいじょ…………!?」
「ゆ、祐一さん…………」
ぶつかった二人のラブシーンともいえる状態だった。
自分と同い年ぐらいの少年(かなり好みのタイプ)がこれまた自分と同い年ぐらいの少女(かなり可愛い)を押し倒しているのだ。
まあ、実際は祐一が少女のタックルから美汐を庇ったためにそう言う体勢になっただけなのだが。
少女には刺激が強すぎたらしい、酸欠の金魚のように口をパクパクさせながら呆然としている。
それでも戦利品(鯛焼き)をしっかりと抱えているのは大したものではあるが。
「う、あ…………うう…………」
「は、はぅ…………」
一方の祐一と美汐も体勢が体勢だけに両者共に身動きが取れなくなっていた。
祐一がどけば良いだけの話なのではあるが、そこは天然ラブコメ体質な純情コンビ、
お約束どおりそんな考えは頭から消えうせて、ただお互いの瞳を見詰め合うだけであった。
「う、うぐぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!! 天下の往来で何をやってるんだよっっっっっっ!!??」
「はっ!?」
「きゃっ!?」
たまらず(?)そんな二人に突っ込む少女。
そして慌てて離れる祐一と美汐。
傍目には漫才トリオにも痴話喧嘩にも見えるこの光景、唯一の救いは人通りの少ない路地のため見物人がいないことだった。
「さっきは変なところを見せてしまってすまなかったな」
「すみませんでした…………」
「い、いや、ボクが勘違いしちゃっただけだし、元はといえばボクがあなたたちにぶつかっちゃったのが悪いんだから…………」
ようやく落ち着いた三人は取り合えず近くのベンチに座ってお互いの自己紹介をした。
最初は少女―――――あゆが謝罪をするだけの話だったのだが何時の間にか話がすり替わってしまっているのだった。
「そういや…………なんであゆはあんな凄いスピードで走っていたんだ?」
「ああ、それは食いに…………」
「食いに?」
「あ、あはは何でもないよっ!ええっと、ところで祐一君たちは恋人同士さんなのかなっ?」
「なっ!!」
「…………っ!」
危うく自分の犯行を暴露してしまいそうになり焦って話題を変えるあゆ。
しかし、彼女は気付いていなかった。自分がとんでもない爆弾を投下してしまったことを…………
「あ、い、いや俺たちはそーいう関係じゃなくてだな!?旅のパートナーっていうかだな…………」
「そ、そうです!私たちは『まだ』そんな関係じゃありません!」
「へっ!?み、美汐さん?」
「…………はっ!?い、いえ違うんです。違わないけど誤解なんです、言葉のあやなんです」
「……………………」
「ゆ、祐一さん、どうしてそこでそんなに悲しそうな顔をなさるんですかっ」
「あはは、祐一君たちって面白いねっ」
一瞬にしてパニックを開始する二人。
あゆはそんな二人を見て笑いつつもどこかうらやましそうな表情で見る。
「もういいよ、何となくわかったから」
「な、何がだ!?」
「言葉通りだよ」
「キャラが違うっ!」
「祐一さん、何を言ってるんですか?」
「何となくだっ!」
「あははっ」
「へえ〜、祐一君たちは旅人さんなんだ〜」
「まあ、簡単に言うとそうなるな。ま、美汐とはヴァルハラまでの二人旅になるんだけどな…………」
「ふ〜ん、だけど美汐ちゃんも大変だったね。馬車を襲われるなんて…………」
「ええ、でも祐一さんが間一髪で助けてくださいましたから」
「だけど、殺しまでするなんてその盗賊さんたちは駄目駄目だねっ。ボクがその盗賊団のボスだったらおしおき確定だよっ」
「あゆが盗賊団のボスだったら、ねえ…………」
「むっ、祐一君なんかボクに対して失礼なことを考えてない?」
「気のせいだ」
「くすくす…………」
話を続けるうちに打ち解ける三人。
しかし、無情にもそんな楽しい時間は一人の男の声によって終わりを告げる。
「カシラ!こんなところにいたんですか!?」
「あっ、ツブアン君じゃない。どうしたの?」
「どうしたの、じゃないですよ。探しましたよカシラ、全くいきなり走り出さないで下さいよ」
「ごめんごめん。鯛焼きの美味しそうな屋台を発見したものだからつい…………ね?」
「いつものこととはいえ勘弁してくださいよ。…………で、その二人は誰なんですかい?」
「ああ、さっきちょっとしたことで知り合ったんだよっ」
「そうなんですか?すいやせん、うちのカシラが迷惑をおかけしたそうで…………って、あーーーーーーっ!」
「いや、こちらこそ…………って、お前っ!?」
「昨日の…………」
「うぐぅ、迷惑をかけたって決め付けなくても…………あれ、知り合いなの?」
驚愕する三人を尻目に一人頭にハテナマークを浮かべるあゆ。
「知り合いもなにも、こいつですよ!昨日俺らが言ってたやつは!」
「へ? へ?」
「お、おい、あゆ、どういうことなんだ?お前はこいつとどんな関係なんだ?」
「う、うぐぅ。どういう関係って…………カシラと子分」
「はあっ?」
「そ、それって…………」
「そうだ!今貴様の目の前にいるお方はな、我等『タイヤキ団』の二代目のカシラ、月宮あゆさんだっ!!」
「……………………」
「……………………」
「「えええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!??」」
「うぐぅ…………そんなに驚かなくても…………」
あとがき
どうも、愛しさと切なさと心強さが欲しいSS作家taiです。
タイヤキ団カシラことあゆの登場です、まあとっくの昔にばれていたとは思いますが…………
だんだんラブコメ的なネタが尽きてきました、でもまだまだ頑張ります(燃)
次回は《あゆ VS 祐一》…………になるかなあ…………なればいいなあ…………
改訂版になって、部下に名前がつきました。AとかBじゃ適当すぎたので(笑)
感想・質問大歓迎につきよろしくお願いします。