祐一と美汐の二人旅 第7話 〜二人のドキドキな夜(後編)〜
「ちくしょう…………あのガキ、今度あったらぶっ殺してやる!」
祐一が苦難の時間を過ごしているのと同時刻、
祐一たちが次に目指しているアーツの街からほど近い洞窟でむさ苦しい男たちが何やら話し合っている。
「で、君たち、相手はどんな奴だったか覚えてるの?」
―――――訂正、何故か可愛らしい少女も混じっている模様。
「へ、へえカシラ。そいつは多分カシラと同い年ぐらいの奴だったんですが」
「無茶苦茶腕が立つ奴でして」
「うぐぅ、それは災難だったねっ」
しかもこの少女が盗賊たちのボスらしい。
しかし、口調も容姿も見た目どおり可愛らしい女の子といった感じでとても盗賊団のボスには見えない。
「女のほうがヴァルハラへ行くとかどうとか言ってたんでおそらく明日あたりアーツの街に…………」
「なるほどねっ、まあボクにまかしといてよ。君たちのカタキはちゃんととってあげるから!」
「さ、さすがはカシラ!よっ、部下想い!」
「えへへ…………そうかな」
照れる少女、どうやらおだてに弱いらしい…………
「けど、君たちが襲ったっていう馬車についてだけど…………まさか、人は殺してないよね?」
少し殺気を込めて男たちに問う少女。
はっきり言って迫力など欠片もないが、少女の強さを知っている男たちにはそれで十分だったらしく男たちは慌てて首を縦に振る。
「ならいいんだけど…………いい?ボクたちタイヤキ団は殺しだけはしないんだからねっ!」
「わ、わかってまさぁ!!」
「よろしい、みんな良い返事だねっ。さあ明日は早くなるから早いとこ寝るよっ」
「へい!!」
「じゃあ、おやすみ〜」
「カシラ、いい夢を!!」
ばたん、と少女の部屋のドアが閉まる。
それを確認すると男たちは「はぁ〜」と息を吐く。
「お、おいどうする?本当のこと言ったら…………カシラ、怒るぞ」
「しょーがねえだろ、抵抗してきたんだから!」
「でも先代…………カシラの親父さんのいいつけを破ったのはまずったなー」
「ま、まあだまっときゃバレねえだろ」
「念のため鯛焼き買っとくか?」
再び場面は祐一と美汐のいる湖に戻ります。
「ううううううう…………」
既にかれこれ一時間、身動きも取れずにただ隣にいる美汐の存在に焦り続ける祐一。
美汐はもう寝たのだから当初の予定通り毛布を抜け出して番をしていればはっきり言って問題ないのである。
しかし、祐一の焦燥しきった思考ではそんな当たり前のことも思いつかないらしく、現体制を維持するのが関の山といった模様。
「そ、そうだ…………こういう時は毛布の模様でも見て気をまぎらわそう…………」
苦肉の策としてそんなことを思いつく祐一、普通はそんなことで気はまぎれないものなのだが…………本人は至って本気の様子、
どうやら本気でテンパっているらしい。
取り合えず祐一は毛布を目の前に引き上げるために毛布の端をつかむ。
…………が、それが喜劇の始まりだった。
「う…………うん…………(ぐいっ)」
「う、うわっ(ごろり)」
寒かったのだろうか。
祐一の動作と同時に美汐も毛布をつかんで、それを自分の方へと引っ張る。
結果、不意を突かれた形になる祐一は体制が反転し、美汐のほうを向く形となった。
「……………………う(汗)」
そして、祐一の眼前には美汐の赤みのかかった髪が緩やかに流れているのだった。
しかも、美汐からほのかに香る香水(石鹸?)の匂いが祐一の精神状態を追い込んでいく。
これで祐一の五感の内、触覚と視覚と嗅覚が麻痺することになった。
(…………な、なんかいい匂い……………………はっ!こ、これじゃあただの危ない奴じゃん!?)
そう自分を言い聞かせながらも目を離せない祐一。
―――――悲しい男の性といえよう。
更にちらり、と見えるうなじに顔を真っ赤にして動揺もしたりする。
そういう経験がないとはいえとことん純情な男である。
(と、とにかく態勢を元に戻さねば…………)
なんとか思考が冷静になってきたらしい祐一はようやくその考えを脳内から弾き出す。
だがしかし、二人を見守る運命の神様は更に試練を少年に与えることを選択した模様。
「すぅ…………ん…………(ごろっ)」
「ピキッ!?」
―――――そう、美汐が寝返りをうつという祐一にとって最大の試練を。
(わわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ…………………………………)
かすかに揺れるまつげ
整った鼻立ち
赤みのある唇
そこからゆっくりと吐き出される吐息
それら全てが完全なるバランスを保ち、天野美汐という少女の外見上の魅力を引き立てているとわかる至近距離。
祐一はもはやいっぱいいっぱいであった。
ただでさえ先程から―――――つまり、湖についてから美汐に惹かれるような出来事ばかりだったというのに、
(か、可愛いすぎる…………)
ここで一撃必殺の決定打を与えられた祐一は、かろうじて意識を保って微動だにしないのが精一杯だった。
「…………すぅ…………すぅ…………」
「…………う(汗)」
「……………………んん」
「…………うぅぅ(激汗)」
このままではいけないと頭では理解しているものの、どうしても美汐の寝顔から目を離すことが出来ない祐一。
彼の視線はやがてある部分―――――美汐の唇に釘付けになる。
(や、柔らかそうだな…………)
蜜に誘われる蝶のようにふらふらと美汐の唇に顔を近づけていく祐一。
そして―――――
(同時刻―――――美汐の夢の中)
『美汐の作る料理は絶品だな…………』
『も、もうそれはいいですから』
『俺のお嫁さんに欲しいぐらいだよ』
『え、ええっ!』
『美汐…………結婚してくれないか?』
『じょ、冗談は止めて下さい祐一さん』
『冗談でこんなことはいわないさ』
『で、でもその、あの…………』
『美汐は俺のことが嫌いなのか?』
『い、いえそういうわけでは…………』
『じゃあ、好き?』
『そそそそそ、そんな酷な質問はないでしょう』
『どうしてだ?俺は美汐を愛している、だから美汐の本当の気持ちを聞きたいんだ』
『い、いきなりそんなことを仰られましても、わ、私たちはまだ会って間もないですし』
『時間なんて関係ない、現に俺は美汐に心奪われてしまったのだから』
『で、でも…………』
『さあ…………美汐…………』
「…………い、いけません…………祐一さん」
「#$&%*@/#”!!!!?」
ずざざざざざざっ!!
あわやあと数ミリで唇同士が触れ合うといった瞬間。
祐一は美汐の突然の寝言に驚き、毛布から飛び出るのだった。
彼が大声を上げなかったのは奇跡とも言える快挙である。
「あ、危なかった…………もう少しで性犯罪を犯すところだった…………」
キスぐらいでは犯罪にはならないと思うのだが、祐一の中では犯罪に該当するらしい。
彼は額に浮かんだ汗をぬぐっている。
ちなみに「で、でも嬉しいです…………」という美汐の寝言の続きは聞こえなかった模様。
「はあ…………今の状況を母さんたちに見られたら一生笑い話にされるんだろうな…………」
ぼやきながらも何とか危機(?)を脱した祐一は、寝相が悪くて転がっていったことにして離れて寝ることにしたのだった。
ちなみに、それでも祐一が眠りについたのは日が昇る頃だったらしい。
あとがき
どうも、最近自分で書いてて祐一君が羨ましくなってきたSS作家taiです。
タイヤキ団のボス登場です。誰なのかはわからない人はいないでしょう(笑)
しかし、私の書くキャラは皆純情すぎる気がします…………でも、ある意味それがウリなので変わらないでしょう(苦笑)
次回でようやく街に到着、ここからは話をじゃんじゃん進めていきたいと思います。
なんせこのSSは三部構成の予定にもかかわらずまだ第一部の半分もいってませんので(涙)
感想・質問大歓迎につきよろしくお願いします。