祐一と美汐の二人旅 第5話 〜二人のドキドキな夜(前編)〜
「そう言えば祐一さんのご両親なのですが…………」
ここはヴァルハラから歩きで二日の距離がかかる広い荒野の中ぽつんと存在している湖である。
久平をほったらかし状態のまま出発して歩くこと三時間、問題なく初日の目的地である湖に辿り着いた祐一と美汐。
荷物を降ろし、ほっと一息ついたところで美汐は気になっていたことをきりだした。
「俺の両親?」
「はい、先程の方が仰っていましたが祐一さんのお父様の名前は相沢祐馬と仰るのですよね?」
「ああ。母さんの方は相沢春奈っていう名前だが」
「つかぬことをお尋ねしますが…………もしや祐一さんのご両親は20年ほど前に魔王アイザックを倒したとされている
三英雄の内の二人だったりしますでしょうか?」
「魔王アイザック? 三英雄? …………ああ、そう言えばそういう風に言われていた時期があのバカップル夫婦にもあった
らしいとは聞いていたけど…………」
「やっぱり…………その剣と相沢という名字からもしかしたらと思っていたのですが…………」
「ん? 美汐はこの剣を知っているのか?」
「直接見たのは初めてですが…………その剣は主を自らが選ぶと言われている伝説の剣、『エンジェルウイング』
ではないのですか?」
「ご名答。この剣は二年前に俺の父さんから譲り受けたんだ。
滅多にこいつの世話になることはないんだが…………こいつに主と認められるようになるまでは苦労したよ、
なんせ気位が高いからな、自分を扱うに相応しい技量がないと全く力になってくれないんだ」
「そうなのですか? さすがは伝説の剣の一本に数えられるだけはありますね」
「ま、俺の大切な相棒だよこいつは」
「触ってみてもいいですか?」
「もちろんいいけど…………触るだけで持つのはやめとけよ、所有者以外がこいつを持とうとすると無茶苦茶重くなるからな」
美汐にそう注意すると、祐一はエンジェルウイングを地面に置いて美汐が触りやすいようにした。
「綺麗…………」
目を輝かせてエンジェルウイングを食い入るように見つめる美汐。
祐一はそんな彼女を苦笑しつつ見ていたが、ふと疑問が生じる。
「なあ美汐、ちょっと俺にも聞きたいことがあるんだが」
「何でしょうか?」
「何で俺の両親が魔王を倒したことを知っているんだ?確かそのことは血縁者以外では各国の王族クラスでないと知らない
はずなんだが…………」
「い、いえ、あの、その…………そ、そう、私の両親が昔相沢さんのご両親に助けられたことがあったらしいので…………」
「ふーん、そうなのか…………」
あからさまに慌てた様子で答える美汐。
祐一はそんな美汐の様子に気付いたものの追求することはなかった、プライバシーの問題に関わると思ったからである。
「ふぅ…………」
「もういいのか?」
「はい、どうも有難うございました」
「これぐらい別にお礼を言われるほどのことじゃないさ」
「いえ、親しき仲にも礼儀ありと申しますし…………」
「えっ」
美汐の言葉に顔を赤らめる祐一。
最初、何故祐一がそのような反応をするのかわからなかったが、美汐は祐一に遅れること数秒、理由に思い当たったのだった。
『親しき仲』…………美汐はそういったのだ。
普通のままの意味で受け取ればよかったのだろうが純情なこの二人はどうやら意味を別に取ったらしい、二人して顔を赤らめる。
「……………………」
「……………………」
微妙な沈黙が二人に訪れる。
「あ、あのっ!」
「は、はい!」
先に沈黙を破ったのは美汐だった、初対面の時といい美汐の方が復活が早い。
どうやらこういう場合の対応は美汐の方が僅かに強いらしい。
「わ、私、歩き詰めで少し汗をかいたようですのであちらの方で水浴びをしてきますね!」
…………とはいっても口調は動揺しまくりではあるが。
「お、おう、わかった!俺は火を起こしとくから存分に行ってきてくれ!」
「ははは、はい、行って参ります!」
そう言うと、美汐は妙な気合を入れて祐一の視界から消えていった。
一人になってほっとした祐一は
「いかんいかん、どうもああいう雰囲気は駄目だ…………今までこんなことなかったのに…………
しかし…………信用されまくってるなー、俺」
そう一人で呟いていた。
いろいろと先は長そうである。
舞台は移って湖のほとり、美汐は宣言どおり水浴びをしていた。
その姿はまるで一つの芸術品のようで、時折跳ねる水滴は輝きを放っているかのようだった。
作者は二人同様純情なためこれ以上詳しい描写は出来なかった、期待していた方ごめんなさい…………
「私はなんて大胆なことを口走ってしまったのでしょう…………祐一さんにおかしな女だと思われなかったでしょうか、
もし、祐一さんに嫌われたらどうしましょう…………」
水浴びをしながら自己嫌悪する美汐、どうやら先程の自分の発言を気にしているようだ。
別にどっちが悪いとか言う問題ですらないのだが美汐にとっては大問題らしい。
…………ガサッ
「ここはこの後、私が食事を作って名誉挽回するしか…………」
そのため、美汐は自分の背後で鳴った物音に気付かなかった。
…………ガサガサッ
「何を作りましょうか…………ん?何の音でしょう?」
どうやら二度目は気付いたらしく、美汐は音の鳴った方向を見る。
ちなみにこの時、美汐には『祐一が覗きに来たのではないか?』と言う考えは全くなかった。
先程祐一が独り言で言っていた通り、美汐は祐一を絶対的に信用していたからである。
「…………え?」
実際、音の原因は祐一ではなかった。
…………が、美汐の視線の先には彼女を見つめる金色の瞳が複数存在していた。
そして、美汐の悲鳴があげられる。
「きゃあああああああああーーーーーーーーーーーっ!!」
「っ!今のは美汐の悲鳴か!?」
のんびりと焚き火にあたっていた祐一だったが悲鳴が聞こえると同時に剣を取り、美汐のもとへ駆け出した。
「美汐っ!」
祐一が辿り着いた先で見たものは、水の中で怯える美汐と彼女に今にも飛び掛ろうとしている複数のモンスターであった。
「祐一さん! 助けて下さい!」
「―――――ちいっ! ここはハンターウルフの水飲み場だったのか!」
ハンターウルフ。個体としては低級の強さ。ただし集団で動くことが多く、
複数で襲い掛かられると厄介な非常に獰猛で肉食の動物系モンスターである。
急いで美汐の所に走る祐一。
しかしハンターウルフはそんな祐一は構わず、集団で一気に美汐に飛び掛る!
「きゃあああっ!」
「くそっ、間に合えっ!! 剣技―――――≪水斬弾≫!!」
バシャァァァァァーーーーーーーーーン!!
祐一の放った≪水斬弾≫は見事に目標へと命中、ハンターウルフの集団は一気に向こう岸まで吹っ飛んだ。
「しゃあっ!!命中!」
ガッツポーズをとる祐一。
ダメージは浅かったらしく、ハンターウルフはすぐに起き上がったが、祐一との力の差を感じ取ったのか慌てて逃げていった。
「ふう…………危なかったな…………っ!?」
「祐一さんっ!」
美汐の声と共にいきなり固まる祐一。
それもそのはずである、美汐が抱きついてきたのだ…………もちろん一糸まとわぬ姿で。
「ちちちちちちちちちちちちちちちちち、ちょっと美汐さん…………離れてくれないでしょうか!?」
「嫌です!」
動揺を通り越してパニックになった状態になりながらも美汐を引き離そうとする祐一。
しかし、美汐は祐一から離れなかった。
怖い思いをしたばかりなので当然と言えば当然なのだが…………問題は自分の格好を理解していないことにある。
少し冷静になれば自分の行為に卒倒するであろう美汐だったが、今の彼女はそれどころではなかったのである。
(女の子の体って柔らかいんだな…………ってそうじゃないだろ俺! い、いかん、意識が遠くなってきた…………!)
しかし、祐一の方はパニックとはいえ思考は働いていた。
こういったことに全く免疫のない彼の思考は、自分の置かれている状況に耐え切れなくなり、そして…………
「も、もう、駄目だ…………(ガクッ)」
顔を真っ赤にヒートさせてその機能を停止させるだった。
この後、冷静になった美汐は気絶している祐一と自分の格好に気付き、再び悲鳴をあげることになる。
ただ、先程と違うのは誰もその声を聞く者がいないということだった。
「…………うう、もうお嫁に行けません…………」
あとがき
どうも、最近はエヴァの「残酷な天使のテーゼ」ばかりを聞いているSS作家taiです。
何か不調ですね〜、はっきりいって狼退治のところが駄目駄目です、客観的視点の地の文では戦闘が書きづらいです…………
さて、今回は恋愛もののお約束パートTを描いてみました…………失敗でしょうか?ひょっとして(汗)
次回は湖編の後編です。食事と就寝時の話ですので今度こそ背中が痒くなるような文章を書きたいなと思います。
限界はありますが(笑)
感想を貰えたりすると喜びますのでどうぞよろしくお願いします。
水斬弾
水の塊を剣で『打って』相手にぶつける技