祐一と美汐の二人旅     第3話 〜とりあえず自己紹介?〜

















 「…………(ぽけ〜)」

 「…………(ぽ〜っ)」



 どれくらいの沈黙が流れたのだろうか………… 

 少女―――――美汐が名乗ってからすでに五分が経過しようとしている。

 しかし、二人はお互いの顔をじっと見つめたままピクリとも動かない。

 この場に第三者がいればさぞ異様な光景に見えたに違いないし、二人に声をかけたであろうと思われる。

 だが、残念ながら第三者は存在しなかったためひたすらこの状態が続く。

 とはいえ、この状態が続くのも何なので少しばかり二人の心情状態を覗いてみたいと思う。















 まずは祐一の心の中。



 (なんてかわいい、いや、綺麗な顔をしているんだ…………

  なんか人間の女の子っていうよりどちらかと言うとフェアリー系の顔立ちって感じだよな。

  ここ七年母さん以外の女性は見たことなかったけど、この娘は絶対美人の部類だよな…………

  山から降りて初めて会った女性がこの娘だったなんて、俺はなんてついてるんだ。

  しかしさっきから胸がなんか切ない感じで苦しいな…………突発性の病気か?)



 続いて美汐の心の中。



 (この御方が先程あの男の人たちから私を助けてくれたのですね。

  なんて凛々しいお顔をしていらっしゃるのでしょう…………

  それに優しくて強い意志を感じさせる瞳を持っていらっしゃる。 

  このような殿方に出会うのは初めてです…………

  なぜだか先程から心臓がドキドキして止まりません…………私はどうなってしまったのでしょうか?)















 以上、二人の心の中でした。

 さて、すでに皆様のお察しの通り二人は目の前の相手に俗に言う一目惚れというものをしてしまった模様。

 しかし、祐一は思春期を死ぬか生きるかのサバイバル生活の中で過ごして来たが故に、

 美汐はその育ちとこの五年間の生活環境が故に自分の抱く気持ちが恋と呼ばれるものであると理解できないのである。

 今この場に祐一の母親―――――春奈がいたとしたら



 「祐一、チャンスよー。バッと押し倒しちゃいなさいー♪」



 と、アドバイス(?)をくれたであろうが彼女は現在愛する夫とラブラブ旅の最中なので勿論そんなことはない。

 良くも悪くも今この場は祐一と美汐の二人の世界であった。















 ――――――更に五分後、先に正気に戻ったのは美汐の方だった。



 「…………はっ、あ、あのすみません私ったらぼーっとしてしまいまして…………」



 美汐の声に祐一もフリーズが解け、慌てて返事をする。



 「い、いや!こっちの方こそじーっと見つめたりなんかして…………すまない」

 「い、いえ。そんなことは…………」

 「……………………」

 「……………………」



 再び沈黙が訪れる。

 が、その静寂は先程よりも短く終わりを告げた―――――二人の微かな笑みと共に。



 「…………ぷっ」

 「…………くすっ」

 「あははははっ!何やっているんだろうな俺たち」

 「くすくす、そうですね。なんだかおかしい…………こんなに楽しいのは久しぶりです」

 「そうか?そいつは良かった。ええっと君の名前は…………沢渡美汐さんでいいんだっけ?」

 「そんな、さんだなんて…………どうか私のことは呼び捨てでお呼びください、祐一様」

 「さ、さまぁ!? 勘弁してくれ、俺の柄じゃないよ」

 「そう言われましても…………殿方のことは様付けでしかお呼びしたことがないもので…………」

 「呼び捨てで良いよ。それなら俺も美汐って呼び捨てにするから…………」

 「そ、そんな酷な事仰らないで下さい!殿方を呼び捨てにするなど私には出来ません!」

 「なら俺も呼び捨てで呼ぶことは出来ないな。それとその敬語、悪いとは言わないけど俺に対してはもう少しくだけた感じで

  話し掛けて欲しい」



 容赦なく要求を突きつけていく祐一。

 美汐としては恩人の言うことなので聞かなければと思ってはいるのだが生まれてこの方15年、そのようなことを言われたことも

 しようと思ったこともない彼女にとって祐一の要求は青天の霹靂であった。



 「そうは言われましても…………この喋り方で今まで過ごしてきたのですし急に変えるなど出来ません。

  それに先程も申し上げた通り殿方を呼び捨てにするなど私には酷なことです」

 「どうしても?」

 「……………どうしてもです」



 頑なに祐一の要求を拒む美汐。

 このままでは埒があかないと思った祐一はしょうがなく妥協案を出すことにする。



 「なら、せめて様付けだけはやめてくれ。敬語に関してもゆっくり直してもらっていけばいいいから」

 「…………わかりました。ならば祐一さんとお呼びさせていただきます」

 「祐一さん、か…………まあ、今はそれでいいか」

 「あの…………それでお聞きしたいのですが…………」

 「ん?」

 「ゆっくり直していけばというのは…………?」

 「ああ、そのことか。美汐はヴァルハラ公国に行くんだろう?」

 「ええ…………まあ…………」

 「けれど馬車もああなっちまったし一緒にいた人たちもさっきの盗賊にやられちまった。

  てことはここからヴァルハラまで一人で行かなければならなくなったってことだろ?」

 「そういうことになりますけれど…………まさか」

 「そ、俺がヴァルハラまでボディーガードとしてついて行ってやるよ。

  さっきみたいな奴らがまた君を襲ってこないとも限らないし、俺は腕に覚えがあるから安全だと思うぜ?」

 「え、でもそんな…………悪いです、そんなことまでしていただくなんて…………」

 「そんなことないって、第一俺も道に迷ってたからちょうど良かったんだ。だから気にしないで欲しいな。

  …………それとも、俺のことが信用できない?」



 少し悲しそうな顔になる祐一。

 それを見た美汐は慌てて手を振り否定の意を示す。



 「い、いえっ!決してそのようなことはないのですけれど…………」 

 「なら決まりだな。馬車から必要最低限の荷物だけを出して持っていくとしよう。

  歩きだとここからヴァルハラまでどれくらいかかるんだ?」

 「二日半といったところでしょうか…………」

 「二日半か…………食料はともかく寝床が問題だな…………」

 「それなら大丈夫だと思います。ここから数時間行ったところに湖がありますし、更に一日ほど行けば街があるはずですので」

 「けれどそれじゃあ歩き詰めということになるぞ?それにそのルートだと今日は野宿ということになるが…………」

 「かまいません、私こう見えても体力はあるほうなんです。それに野宿って一度やってみたかったんですよね」

 「美汐がそういうなら俺は別に良いけど…………」



 はりきる美汐を見て微笑ましくなる祐一。

 そんな祐一を不思議そうに見ていた美汐だったがふと思いだしたように口を開く。



 「そういえば祐一さんはどのような理由でヴァルハラまで行かれるのですか?」

 「…………ん?ああ、別に目的地がヴァルハラって訳じゃないんだ。一応アクアサイドに行こうと思ってるんだが…………」

 「アクアサイド共和国へ?」

 「ああ、アクアサイドにおれの叔母がいるんでね。久しぶりに挨拶がてら訪ねようと思ってな。

  んで、旅立ったは良いもののいきなり道を間違えて、途方にくれてたところで美汐の声が聞こえたってワケだ」

 「そうだったのですか。しかし祐一さんはどちらよりいらっしゃったのですか?」

 「モノミノ山」

 「ええっ!? モノミノ山ってヴァルハラより南に位置する人外魔境といわれているあのモノミノ山のことですか!?」

 「多分そのモノミノ山で合ってると思うが…………人外魔境か、なかなか的確な表現だ」

 「何でまたそのような所から…………?」

 「俺はこの七年間、両親に拉致されてずっと山で修行の日々だったんだ。

  だけどつい先日、母さんの気まぐれでようやく山を降りることを許されたのさ」

 「凄いご両親なのですね…………」

 「まあな…………ところで美汐の方はどうしてヴァルハラに?」

 「里帰りです。私、この三年間西のエターナル院に留学していたのですがつい先日晴れて卒業となりましたので。

  それで、家の者が迎えに来てくれて帰郷の最中だったのですが…………」

 「そこをさっきの連中に襲われたと」

 「はい…………」



 そう言うと落ち込む美汐、どうやら供の者が死んでしまったことに責任を感じているらしい。

 そんな美汐の心を察した祐一は場の雰囲気を変えるため話題を変えることにする。



 「しかしそれでようやく納得だな」     

 「えっ?」

 「美汐のその物腰が上品なところや言葉遣いの丁寧さだよ。

  確かエターナル院っていいとこのお嬢様しか通っていないって言う白魔法の名門だろ?

  つまり、美汐はある程度礼儀作法等を気にしなければいけないお嬢様ってことだ」

 「お嬢様、ですか…………まあそんなところですね。あっ、だからといって気を使って頂く必要は…………」

 「馬鹿だな、俺は身分とかそんなんで人を区別したりはしない。むしろ正直に言ってくれて嬉しいよ。

  嘘をつく奴の方が俺はよっぽど嫌いだ」

 「あっ…………はい、ありがとうございます…………」    



 しかし言葉とは裏腹に美汐の表情は浮かないものになる。

 それに気付いた祐一がどうしたのかと言葉をかけようとした時…………















 「ついに見つけたぞ相沢祐一!我が親の敵、とらせてもらう!」















 二人の頭上にそんな声が響き渡ったのだった。





 あとがき

 どうも最近麺類しか食べていないSS作家taiです。
 最後に登場した謎の人物は一体何者なのでしょう。まあ前回を見ている方にはバレバレですが…………
 今回は二人の一目ボレ初恋話でした。二人の心情が難しいです。
 次回はバトル…………になるんですかねぇ。
 ちなみに感想等の私宛の文は私のHPの掲示板でも構いませんので下さい(ぇ



 天野美汐 (15)   ジョブ〔プリースト〕

 盗賊に襲われていたところを祐一が助けた少女。このSSのメインヒロイン。
 物腰が上品で馬鹿丁寧な言葉遣いをする。ちなみに今着用している服は白の法衣のようなもの。
 何故か偽名を名乗っている。どうやら良家のお嬢様らしいのだが…………



 白魔法
 前回説明した六属性の魔法とは全く異なるもの。よって六属性の魔法と併用して身につけることも可能。
 主に傷や病を癒したりするのに用いられる。女性に素養があることが多い。
         
 エターナル院
 ヴァルハラ南西に位置する良家のお嬢様ばかりが通う白魔法の名門。ただし親がこの院に娘を
 預けるのは白魔法を学ばせるのが主目的ではなくもう一つの理由によるものなのだが……