祐一と美汐の二人旅 第2話 〜二人の出会い〜
「ここはどこなんだ一体……………」
祐一はピンチに陥っていた。
食料も尽き、現在地すらも把握できない状態という有様。
事の発端は数時間前にさかのぼる。
「そういえば荷物って一体何が入っているんだ?」
そう思い手さげ袋に入っている荷物を確認する祐一。
すると、その端整な顔立ちが驚愕の表情に変わっていく。
「ドラゴンの肉二切れと金貨十枚、それと…………手紙と映写機!? 地図とかねーのかよ!?
しかも食料これだけって…………街はすぐ近くにあるんだろうな…………
まあいい、手紙を読んでみるか。地図も一緒に書いてあるかもしれんし」
一縷の望みを託し、手紙を開く祐一。しかし、その望みは容赦なく打ち砕かれる。
『祐一へ。何故映写機があるのか不思議に思ったと思うのだけどー、だけどそれには訳があるのー。
簡単に言うとその映写機は、あなたの彼女さん(お嫁さんでもいいわよー)を撮ってもらうためのものよー。
もちろんそれは私たちに送るのよー。楽しみに待ってるわー』
地図どころか無用の長物にすらなりかねないものの説明しか書いていないという母の暴挙にへこむ祐一。
取りあえずお腹がすいていたため唯一の食料である肉を食べて決断を下す。
「取りあえず北に向かおう、寒い方が北だろうし…………」
と、適当極まりない根拠で歩き出す。
そして、冒頭部の場面に戻る…………
「街らしきものは全く見あたらないし…………っていうか人も見あたらん。
やべえ…………冒険開始初日で餓死決定かよ…………
せめて一般の人が経験しているって言う甘酸っぱい青春とやらを俺も経験してみたかった…………」
なんとも可哀想すぎる望みを口にしふらふらと倒れ掛かる祐一、すると…………
「だ……たす…………さい!!」
どこからか声が聞こえてくる、が祐一は…………
「ついに幻聴まで…………いよいよもって大ピンチだな俺…………」
と空腹が原因の幻聴と決め付け絶望モードを続ける。
だが…………
「誰か、助けて下さい!!」
今度は祐一の耳にもはっきりと助けを求める声が聞こえる。
そして祐一は声の主の下へ駆け出す。
その時の祐一の思考はというと…………
(今の声の感じだと何かに襲われてピンチ状態といったところか?
まあ、モンスターだろうが賊だろうがどっちでもかまわんが問題はこれから助ける奴が食料を持ってるかということだな。
街への道を知っていればモアベターだが…………)
全く襲われてピンチであろう人については心配していなかった。
「だ、誰か…………」
「へへ、おとなしくしてな嬢ちゃん。たっぷり可愛がってやるからよ…………」
「そうそう。それに助けを呼んだってこんなところじゃ誰もいないって」
祐一が声のしてきた場所にたどり着くとそこでは八人の盗賊(にしか見えないので勝手にそう呼ぶ)に取り囲まれた少女が一人。
横転した馬車と数人の死骸があるところを見るとどうやら少女が乗っていた馬車をあの盗賊たちが襲ったらしい。
祐一としては人道上にも自分の今後のためにもこれを見過ごすわけにも行かないので大声を張り上げ盗賊たちの気を引くことにする。
「相沢家家訓が一つ!困っている人は助けるべし!!」
祐一の大声に反応した盗賊と少女が祐一の方を向く。
「なんだてめえは!?」
「邪魔すんじゃねえよ!」
「そ、そこの御方、助けて下さい!」
盗賊は突然現れた邪魔者に対する怒りを、少女は自分を助けてくれそうな人が現れたことに対する喜びをもってそれぞれ喋る。
取りあえず祐一は盗賊は無視して少女に話し掛ける。
「そこのお嬢さん!?」
「な、何でしょうか。助けていただけないのでしょうか」
「いえ、もちろん助けることに関して問題は無いのですが聞きたいことがあります!」
「は、はあ…………」
「食料とかはありますでしょうか?またあなたは街への道とかはご存知でしょうか!?」
「は、はい。食料なら馬車にありますし私はヴァルハラ公国に向かう最中ですので…………」
「そうですか!なら何も問題はありません、この盗賊っぽい奴等は俺にお任せください!」
「は、はい。お願いいたします」
緊迫した事態にもかかわらずどこか間の抜けた会話を繰り広げる祐一と少女。
あまりの出来事にしばし呆然としていた盗賊たち。
だが、我に帰ると怒りをたぎらせ祐一に剣を向けて叫ぶ。
「貴様、俺たちを無視して話を進めるんじゃねえっ!!」
「だいたい貴様は俺たちが誰だかわかっていてモノ喋ってんだコラァ!?」
「お前ら盗賊ごときのことなんざいちいち知りたいなんて思うかってんだ!
俺は腹は減ってるわ母さんに理不尽な仕打ちを受けるわで機嫌がとてつもなく悪いんだ!
とっとと逃げないと腕一本ぐらいじゃ済まさんぞ!」
そう一喝すると祐一は剣を構える―――――鞘から剣を抜かないまま。
「ひゃははっ!兄ちゃんよ、剣を鞘に入れたまんまでどうしようってんだい!?」
「このままお前らをぶちのめす」
「なんだとぉ!なめてんじゃねーぞ!」
「なめてなどいない、ただお前らごときにこの剣を抜きたくないだけだ」
「それをなめてるって言うんだよ!もうゆるさねえ、皆やっちまえ!!」
そう言うと盗賊八人は一斉に祐一に襲い掛かる。
しかし祐一はどうすると言うことも無くただ剣を構えているだけだった。
「死ねぇ!!」
盗賊の一人が祐一に剣を振り下ろす。
が、剣はむなしく空を斬るだけで祐一の姿は盗賊の視界から消える。
「なっ、どこへ消えやがった!?」
「後ろだよ」
言葉と同時に剣の柄を後頭部に叩き込み祐一は盗賊の一人を昏倒させる。
そして続けて斬りかかって来た盗賊二人を軽くいなし、先程と同じく後頭部に一撃を加え気絶させる。
「ば、馬鹿な…………三人が一瞬で」
「まだやるかい?そっちがその気ならこの剣を抜いて相手してやってもいいんだぜ?」
「くっ…………ひ、引け! …………小僧、この場は見逃してやる」
「それはこっちの台詞。ちゃんと倒れてる人も忘れずに持って帰れよ」
「覚えていろ!必ず我ら『タイヤキ団』を敵に回したことを後悔させてくれるわ!」
そう捨て台詞を言い残し盗賊たちは去っていった。
それを確認した祐一は呆然とこちらを見つめている少女の所へゆっくりと歩み寄る。
「怪我とかはないか?」
「…………あっ、は、はい大丈夫です。連れの者たちは皆殺されてしまいましたが…………」
「そうか、それはご愁傷様だったな。けれど君だけでも助かってよかったな」
「貴方のおかげです…………お強いんですね」
「まあ、小さい頃から両親に鍛えられてきたからな…………死ぬほど。
ああ、そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名前は相沢祐一だ、好きに呼んでくれてかまわない。
君の名前は?」
ようやく、お互いの顔が確認できる距離になる。
服をパンパンとはらって少女は立ち上がり、名乗った。
「あま…………いえ、沢渡、沢渡美汐と申します」
そして二人はお互いの顔を見る。
これが後に『The sweetheart of fate(運命の恋人)』と呼ばれ世界に名をとどろかせる事になる少年と少女の出会いであった。
あとがき
どうもtaiです〜。『祐一と美汐の二人旅』第二話でした。
今回はメインヒロインこと美汐嬢が登場です。なぜ彼女が本名を名乗らなかったかはおいおい判明します。
しかしtai初の戦闘シーンでしたがいかがでしたでしょうか?
まあ祐一君の強さがチラッとだけ判明しただけのつたないものでしたが…………
ちなみに美汐の紹介は次回になります。
相沢祐馬 (37) ジョブ〔剣士〕
祐一の父親。二十年前に魔王を倒した三人の一人。
普段は陽気で息子を困らせる芸人気質な男だが本気になったら悪魔のように強い。
無茶苦茶愛妻家でそのアツアツぶりは息子の祐一にいつも呆れられているほど。
相沢春奈 (36) ジョブ〔六術士〕
祐一の母親。祐馬と同じく二十年前に魔王を倒した三人の一人。
間延びした声で喋るマイペース主婦。秋子さんの姉。ちなみにモデルは某雪の若女将です。
六術士
この世界では魔術を使う者は六の属性(地水火風光闇)のいずれか一つを身に付け魔術を扱う。
通常属性は一つしか持てないのだがまれに強大な魔力と共に全属性を扱える者が生まれ、その者をこう呼ぶ。