祐一と美汐の二人旅     第1話 〜旅立ちの時〜

















 「祐一、あんた今から旅にでなさいねー」

 「はい?」



 少年―――――相沢祐一はいきなり母親からそう告げられ困惑した。

 この母親、相沢春奈(あいざわはるな)が突飛なことを言い出すのはいつものことである。

 しかし、今回の突飛は今までとは桁が違った。

 今、祐一たちがいるのはキータクティクス大陸南端に位置するヴァルハラ公国に程近いモノミノ山。

 祐一は十歳のときに両親に連れられこのモノミノ山で育てられた。

 山を降りることは許されず、ただ修行の日々を繰り返してきてはや七年である。

 そんなわけであるから春奈からの旅に出ろ宣言は祐一にとって寝耳に水であった。



 「世界を見聞して来なさいっていってんのよー」

 「その世界と言うのはこの山の中限定の世界と言うことではないよな?」

 「当たり前でしょうー、私が今まで冗談を言ったことがあった?」

 「谷にいきなり突き落とされて『自力で登ってきなさい』と言われた時はさすがに冗談かと思ったが」

 「あの時も冗談じゃなかったでしょうー?」

 「…………そうだな。で、なんでいきなりそんなことを言い出したんだ? 母さんの言うことだから何か理由があるんだろう」

 「もちろん」

 「何なんだ理由は?」

 「それは俺が説明してやろう我が息子よ」

 「…………いたのかよ父さん」

 「む、いいツッコミだ息子よ。芸人の親として嬉しいぞ」

 「あんた芸人じゃないだろ」 

 「今帰ったぞ春奈。今日はなんとフレアドラゴンの肉が手に入ったぞ」

 「まあ、ちょうどいいわー。祐一の旅立ちにふさわしい食材ねー」

 「突っ込んだんだから反応しろよ」



 祐一の第二のツッコミを無視して現れた父親、相沢祐馬(あいざわゆうま)に溜息をつきつつ祐一は気を取り直す。

 まだ何も説明されてもいないのにこのまま旅立たされてしまうと感じたからである。



 (しかしフレアドラゴンの肉かよ。相変わらず化けもんだな)



 この世界においてドラゴンは上級のモンスターである。

 騎士団総出でかかっても勝てるかどうかわからないモンスターを一人で狩って来たという祐馬に祐一は改めて父の偉大さを知る。

 まあ、修行を積んだおかげで祐一にも同じ事が可能ではあるが。



 「お前に旅に出ろという理由は他でもない。実はお前には生き別れの妹がいることが判明したのだ」

 「マジかよ!?」

 「冗談だ」

 「…………斬っていいか?」

 「すまん、許せ。もうお前は俺や春奈よりも強いからな。はっきり言ってお前とはやり合いたくない」

 「わかればいい。でも、俺は母さんには勝てんぞ」

 「そんなことないわよー。あんたは十分強くなったわー」

 「そう言ってもらえると嬉しいけど…………そろそろ話を進めてくれ」 

 「そうね、理由は三つあるわねー」

 「三つ?」

 「一つ目はさっきも言った世界を見聞させたいと言うこと。七年間も外界との接触を絶っていたからねー、

  そろそろ世界常識も学んでもらわないとー」

 「それは母さんたちのせいだろう」

 「細かいことは気にしないー。二つ目は私たちも旅に出ようと思うのよ、夫婦水入らずで旅するって素敵よねー」

 「それがメインの理由だろ」

 「そんなこと無いわー。次の理由がメインの理由よー」

 「ほう」

 「三つ目はねー………………私たち、そろそろ孫の顔が見たいのー」

 「はあ!?」

 「だから祐一………………旅先で女の子をゲットしてきなさいー」

 「何言ってるんだ!?」

 「大丈夫よー、あんた私と祐馬さんに似て顔が良いからー。街に行けばモテモテよー」

 「あほかっ、そんなくだらない理由で人を旅立たせるな!」

 「くだらなくなんてないわよー。あんたこの七年間女っ気ゼロでしょー?それが不憫だしー…………」

 「さっきも言ったがそれはあんたらのせいだろうが!

  だいたい母さんたちも旅に出るんなら子供が出来ても見せようが無いだろうが!?」

 「つまり子供を作る気はあると」

 「まあ、それは俺も一応男だし…………ってそうじゃないだろ!」

 「まあまあ、旅していればきっとまた会えるさ」

 「父さんまで………………」

 「それに、もう旅に出る準備しちゃったしー」

 「なんてこった………………」

 「はい、これあんたの荷物。彼女できたら伝書鳩で連絡しなさいねー」

 「祐一、何事もあきらめが肝心だ」

 「うう…………わかったよ。旅に出ればいいんだろ!」

 「よく決心したわー祐一!」

 「さすが俺たちの息子!」

 「ただし!彼女ができるかは知らないからな」

 「別にそこの心配はしてないわー」

 「俺たちの息子だからな、きっと春奈にも劣らない良い娘さんをゲットするだろう」



 先程よりも深い溜息をはいて『世の中なんてこんなもんだ』と自分に言い聞かせる祐一。

 自分で了承した以上旅に出るしかなさそうなのでしぶしぶ荷物を受け取る。



 「それじゃあな、父さん母さん。しばらく会えなくなるだろうがあんまり人目をはばからずイチャイチャすんなよ」

 「待ちなさい祐一」

 「何だよ」

 「忘れ物よー」



 そう言って春奈は祐一に一本の剣を渡す、祐一の愛剣『エンジェルウイング』だった。



 「ああ、サンキュー。これを忘れたらまずいよな」

 「それじゃ祐一、頑張んなさい」

 「ああ、でもどこをどう行きゃいいのやら」

 「なら、とりあえずここから北へ向かいなさい」

 「北に何があるんだ?」

 「少し行ったところにヴァルハラ公国があって、さらに北に行けばアクアサイド共和国があるわー。

  アクアサイド共和国には秋子がいるから会いに行きなさい」

 「秋子さんって母さんの妹の?」

 「ええ。秋子の娘の名雪ちゃんとは小さい頃よく遊んだでしょうー?」

 「ああ、名雪なら覚えてるよ」

 「きっと美人になってるわよー。名雪ちゃんが祐一のお嫁さんでもいいわねー」

 「はいはい、美人になっていたらその時考えるよ」

 「ふふっ、そうねー。でも喜ぶと思うわよー、祐一が会いに行ったらー」

 「そうだな、久しぶりに会うから俺も楽しみだな」

 「おい、春奈。俺たちもそろそろ行こう」

 「そうねー、じゃあ祐一体には気をつけてねー」

 「ああ、母さんたちもな」

 「さらばだ息子よ」



 別れの挨拶をして相沢親子は別れる。















 こちらは、祐一と別れた相沢夫婦。



 「でも大丈夫かしらーあの子」

 「あいつに勝てる奴なんていないさ」

 「そっちじゃないわー」

 「嫁のことか?うーん確かにあいつ奥手そうだしな」

 「そうなのよー。それが心配で心配でー」

 「ま、運命があいつを導いてくれるさ」

 「私たちの時のようにー?」

 「ああ」

 「もう、祐馬さんったらー♪」 



 早くも祐一の警告を無視してイチャイチャし始めていた。















 一方、こちらは両親と別れた祐一。



 「はあ、悩んでもしょうがないか。久しぶりの下界だ、こうなりゃ旅を楽しむまでだ!

  さあ、いざ行かん!遥かなる未知の世界へと!」



 結構、前向きに考えていたりする。















 後に『天翼の剣士』とあともう一つの名で世界に知れ渡る少年はこうして旅立ったのだった。



 ――――――――――今、世界が動き出す。



 「あれ?そういやドラゴンの肉はどうなったんだ?」





 あとがき

 どうも、多分初めましてなtaiと申すSS作家です。今回は初ということであとがきがちょっと長めです。
 まず二つほど謝罪を。美汐が出てないぞと思った方、すみません次回で登場しますんで。
 そして二つ目、タイトルが安直すぎだと思われた方、すみません自分でもそう思います。
 このSSはファンタジーです。タイトル通り祐一と美汐の二人旅を描きます。他のキャラも無論出てきます。
 また話が進むと他のSS作家さんの作品と似た展開になるかもしれませんが気にしないでください。
 キャラ紹介や世界観設定は個別に作るのが面倒なためあとがきで出るたびに紹介しますのでご了承を。
 ちなみに原作キャラの服以外の外見は原作通りです。



 世界観
 
 俗に言う剣と魔法の世界です。舞台となるキータクティクス大陸は三つの地方にわかれており、祐一が今いるのはカノン地方です。
 カノン地方には三つの国が存在しています。モンスターについてですが人間と友好な種族もいますが大半は人間と敵対しています。
 魔王が二十年前にいたのですが祐一の両親ともう一人が倒しています(そのことを知っているのは各国の王族クラスだけ)
 通信手段についてですが本文でも書いたとおり伝書鳩や手紙を使います。



 相沢祐一 (17)  ジョブ〔剣士〕

 この物語の主人公。剣しか扱えないがその腕前は超一流。本人はわかっていないが結構美形。
 七年間両親にしっかり教育されたため世間知らずではあるが知識は深い。
 かなりの方向音痴で高所恐怖症。
 愛剣『エンジェルウイング』は祐一が使うとその名の通り羽のように軽いが他の者が持つとものすごく重くなる。
 祐一の腕とあわせればなんでも斬ることが可能だが一つだけ斬れないものがある。



 祐一の両親は次回で紹介。なおこのSSやtaiへの感想、質問はそれとわかるようにBBSかメールにお願いします。
 最後にsarnga様、このような駄文を掲載させていただきありがとうございます。絶対に連載ストップはしません。
 もうやめろといわれない限りは(笑)