ぽかぽかとした暖かな陽気。



 優しく身体を包み込むような穏やかな風。



 日差しは柔らかく大地を照らす。



 木々は色づき、色とりどりの花弁が視界を彩る。



 まさに平和そのもの、春爛漫であった……。












少年は竜と共に舞う
第四話「好機は竜と共に訪れる」














「平和だねぇ……」

「何を暢気な事を言ってるんだか。今まで何回冷汗を掻いたと思ってるんだ?」

「私は、心臓が止まるかと思いました……」

 三者三様の様子で陣取っているこの場所は、小高い丘の頂上である。のどかな風景には違いないが、ここが最前線一歩手前である事を考えればそんな事はどうでもいい事だろう。

 彼らがこんな所にいる理由はただ一つ。浩平の悪巧み――というよりは突発的な思い付き――に乗せられたからである。

 それこそ猫が通り抜けるような狭い道や隙間を、祐一の手によって拡充しながら街を脱出しきったのだ。その後は、街の郊外まで徒歩で移動してからアルギズの背に乗ってこの丘まで一直線。

 潜伏する事早一時間、といったところか。

 ちなみに、浩平は前日の轍を踏まえたのか、一応書置きらしきものを残しては来ていた。

『半日ほど旅に出ます。探さないで下さい』

 という紙切れがそれなのだが……。

 浩平は、それを留美が怒りの形相で握り潰すところまでは予想していた。ていうか、判っていてからかっているのだから当たり前だ。

「あんの馬鹿はぁぁぁぁ〜〜!!」

 と彼女が怒り狂う様子を思い浮かべてほくそ笑む浩平。いやまぁ、結構際どい冗談なのだが、こういう冗談が通る辺りは普段の彼の様子が大きいだろう。

 しかし、そんな浩平もその留美の真後ろで微妙に俯いてふっふっふ、と笑う瑞佳までは予想していなかったようだ。

 背筋を震わせて振り返る留美の前で、

「今回はもう絶対に許さないんだよ、浩平」

 目をキュピーンと光らせて笑う瑞佳。

 美汐に向けて彼が言った言葉――普段真面目な奴ほどぶち切れた時にエキセントリックな行動に走りやすいという事か――を彷彿とさせるその情景に、留美をはじめとする数名は凍りついたという。

 まあ、それもこれも今はまだ、、関係の無い話だが。

 眼下の平原では、サーギオス軍先遣部隊の主力である魔導隊一千と護衛の槍隊一千が行軍している。残りの部隊は、先行していたり後方からやって来ていたり。時間にして、徒歩三十分程度の間隔である。

 軍隊の行軍というのは、どうしても細長くなりがちな物なのだ。街道の幅が限定されていて、街道以外を行軍するなどほぼ不可能という事情から、一千名単位での行軍ですら長さがキロに及ぶ事も多い。

 もちろん、行軍中に襲われては一溜まりもないので、十分な偵察部隊が放たれている。祐一達一行も、何度か遭遇しそうになった。

 その都度、浩平の動物的勘によって難を逃れているだが、祐一と美汐にとっては複雑な気持ちにならざるを得ない。

 何でそんな簡単に敵をやり過ごせるんだ? とか、ばったり鉢合わせたらどうするつもりなんだ? とか、そもそも浩平がこんな事を提案しなければこんな苦労は……、とか。

 美汐の愚痴などもはや呪詛の域にまで達しそうな勢いになっているが、浩平の案自体は状況を引っくり返せる奇策だったので強くも出られない。

「しかしまぁ、よく行軍ルートが割り出せたな。魔導兵部隊を叩けば何とかなるって言っても、ここまで簡単に発見できるとは思わなかった」

「山葉に向かうにはこの街道が一番早いんだよ。少しだけ遠回りになるけど、道幅が広いからな。大軍を通そうと思えば、この街道を通るしかない。そして、相手は王都に最速のルートで直行してくるつもりだろうからな。でなければ、強行偵察の意味が無い」

「なるほど。街道網を把握していればある程度予測が効くのか」

「……今更ですけど、本気であれに喧嘩を売る気ですか?」

 確認を取るような美汐の言葉に、無駄に力強く頷く浩平。

「当たり前だ。こんな時期に城どころか街を抜け出してきたからな。目の前の二千は全滅させておかないと帰るに帰れない」

「今頃城では大騒ぎになってるでしょうね……」

「ああ、それなら大丈夫だと思う。俺が城を抜け出すなんていつもの事だし。……七瀬と瑞佳には心配かけてるかもしれないけど」

 あっさりと明かされる事実に絶句する美汐。横では祐一が、それであんなに抜け道を知ってたのか、と納得していたり。……アレを抜け道と呼ぶのは、相当抵抗があるが。

 ていうかなんであんな道を知っていたのか、機会があれば子一時間ほどじっくり問い詰めてみたい気もする祐一であった。

「んで、準備の方はできてるのか?」

「もちろん。上空でアルギズが待機済みだ、いつでも行けるぞ」

「それじゃあ、始めようか」

 気楽に言ってのけた浩平の一言で、祐一はアルギズへと指示を出す。

「アルギズ、『終末の業火ラグナロク』を一発頼む」

「承知した。目標は?」

「街道を行軍中のサーギオス兵二千だ。分かるか?」

「無論」

「なら、一兵残さず消滅させてくれ」

「……了解した」

 遠距離通信用の符を介した会話が終わる頃には、その場にいる全員の背筋を冷たいものが走り抜けている。

 いや、祐一と美汐は例外か。とはいえ、アルギズの持つ圧倒感はある程度慣れていても気圧されるものがある。

 絶対に敵に回したくないな、なんて思いつつ祐一が空を見上げると、そこには一匹の翼竜が羽ばたいている。翼竜系種族の最強種、古竜アークドラゴンの雄姿だ。

 空間展開呪紋の輝きを頭部前方に構え、眼下を睥睨する。その存在に気付いたサーギオス軍から散発的に「光槍術スレイランス」の光条がアルギズへ伸びるが、その全てが虚しくアルギズの張る「防壁術スペルウォール」によって弾かれる。

 実際にはアルギズ独自の防御魔術なのだろうが、そこのところはどうでもいい。今重要なのは、サーギオス軍が一方的にアルギズの魔導攻撃を受けざるを得ないという状況である。

「んじゃ、俺達はさっさと逃げますか」

「おいおい、ほっといていいのか?」

「もちろん。アルギズが本気出してるんだ。万に一つもあいつらが生還する望みなんて無いね。晩飯賭けてもいい」

「なるほど、本気らしいな。疑って悪かった」

 素直に謝る浩平の姿を見て、理不尽さに天を仰ぐ美汐。

「どうしてそんな事で祐が本気だと判断できるのかが、私には理解できません……」

 とはいえ、実はしっかり彼が本気モードである事を理解してしまっている美汐であった。その事実に気が付いて少し凹むが、まぁ、それどころではないだろう。

「祐! 弾着、来ます」

「一応伏せとけ!」

 言って、自らも浩平の頭を引っ掴んで地面へと身体を投げ出す。それに一瞬遅れて美汐が伏せた時、彼らを衝撃が襲った。

「のわぁぁぁぁぁ!?」

 次いで、轟音。地を揺らす衝撃と吹き荒ぶ爆風と耳朶を打つ轟音が肩を並べてやって来る。浩平が慌てている中、祐一と美汐が冷静なのが好対照だ。

 静寂よさようなら、阿鼻叫喚よこんにちわ。と言ったところだろうか。サーギオス軍など、見る必要も無い。

「今の一撃で行動不能か……」

「俺が殲滅と言った以上、それは覆されない。後に残るのは、文字通りの全滅――完全無欠の皆殺しだ。分かったらとっとと行くぞ、あれに巻き込まれるのは遠慮したい」

「お、俺だってそうだっ!」

 とりあえず、三人仲良く起き上がって力の限り猛ダッシュだ。誤爆(直撃弾)を喰らったり圧殺に巻き込まれたり反撃に巻き込まれたりするような事は無いと思いたいが、戦場で絶対は無い。

 故に走る。とにかく走る。一生懸命走っておく。あんな攻撃、意図しようとしていまいと誤爆(攻撃範囲巻き込まれ型)が危険で大ピンチだ。

「って思ってる傍からっ!?」

「あぁ、くそっ! 崩撃ホウゲキ』展開解放!

 舌打ちと共に振るわれた祐一の右手から、赤の光が飛ぶ。それは見事に空中から飛来する馬並みの大きさの岩を撃ち砕き、無数の飛礫に変えた。

「あれでも十分危険だろ……」

「いえ、あれくらいなら防ぎ通せます。護封ゴフウ』起動展開

 美汐の手から符が踊り出て空中へと不可視の防壁を展開する。飛礫は、その全てがその壁に阻まれて彼ら三人に到達しない。

 ……まぁ、周囲の光景は破滅的にぼろぼろだったが。

「これが、古竜アークドラゴンの実力かよ……」

「そういう事。魔導戦において竜族最強を名乗るだけはあるって事だ」

 空中に巻き上げられた土砂が一通り降着したその時には、軍と名乗る事の出来る集団は既に消滅していた。

 二千名を誇った戦力は僅か一瞬でほぼ七割が死傷。残った兵には、上空から雨の如き「光槍術スレイランス」が降り注ぐ。追尾性能まで付加されたその魔術攻撃の前には、逃げ場など一片たりとも残されていない。

 祐一の言う通り、サーギオス軍先遣部隊の内の二割の兵力がこの場で消滅するのだ。

「……こんなの、戦闘と呼べません。一方的な虐殺ですよ、祐」

「分かってるさ。でも、俺達はこうまでしないと勝てないんだ。アルギズの最大の武器はその秘密性だ。味方ですら知らない存在が、二千の敵兵を消滅させる。相手の出方を慎重にさせ、とる戦術を限定させるには有効な手段だ」

「そして、それくらいのハンデが無いと魔導兵力で致命的な劣勢に立たされている俺達は勝てない」

 気に食わない状況だけどな、と鼻を鳴らしながら眼下の状況を見つめる浩平。その様を脳裏に焼き付けるように眺めた後、二人に声をかけた。

「それじゃあ、帰ろうか。もうこの場に用は無い」

「……そう簡単にもいかないみたいだけどな」

「そうですね」

 溜息をつきながら、祐一と美汐はそれぞれに自らの持つ符に意識を向ける。何処から湧き出てきたものかは分からないが、彼らは魔狼の群れに囲まれていた。

 別段人を好んで襲うような種族では無いはずだが、血走った目で取り囲まれてはそんな事は何のフォローにもなりはしない。

 浩平の両脇に立ってそれぞれの外側の魔狼を見据える祐一と美汐。

「一気に行くぞ!」

「はい。炎翔爆陣エンショウバクジン』起動解放!

 詞を叫ぶと同時に、自らの持つ符を四方へばら撒く美汐。連携良く三人へと突っ込んできた魔狼の数匹が慌てて踏み止まろうとするが、既に起動している符術が相手では遅すぎる反応だった。

 劫、という音と共に吹き上がる炎柱に呑まれ、数匹の魔狼が骨も残さず焼き払われる。

――『護封ゴフウ』起動展開

 その炎柱には全く構わずに、祐一は符による防壁を全方位展開。魔狼の突撃に対して何の意味も成さないその障壁展開に浩平は首を傾げるが、その疑問はあっという間に氷解する。

 上空に撃ち上がった計六線の炎柱は、最高到達点に達した直後から反発しあいつつ重力に引かれて落ち戻ってくる。急加速をかけながら大地へ向かって突っ込んだそれらは、その場で炸裂。周囲に真紅の暴風を生み出し、総てを薙ぎ払った。

 「護封ゴフウ」は、この広範囲殲滅炎撃から彼ら自身の身を守るために展開されていたものなのだ。

「ほとんど自爆だな」

「けど、周囲を薙ぎ払うには一番効果的だろ」

 生き残った魔狼が逃げてゆくのを視認しつつ、祐一は不敵に笑った。

 いつも、祐一と美汐の二人だけで組んでいたからこその無茶な戦法だ。祐一一人ではこんな無茶は出来ないし、人数が多過ぎても味方を巻き込んでしまう。

 そういった意味では、この戦法こそが彼ら二人らしい――そして、彼ら二人を強者たらしめているモノの象徴なのだろう。

 まあ、巻き込まれる方としてはたまったものではないが。

「祐、アルギズが来ます」

「……終わったみたいだな」

 実質、最初の一撃で全ては決していた。後は指揮系統がずたぼろになった個別の兵を潰していくだけだ。アルギズにとっては気持ちの良いものではないだろうが、難易度の点から言えばそう難しい戦いではない。

「主よ、このような戦いは二度と御免被るぞ」

「分かっている。またいつか頼る事もあるかもしれないけど、一兵残さず、なんて事は言わないようにするさ」

「その言葉、忘れぬようにな」

 その巨躯とは裏腹に、静かに三人の傍へと舞い降りるアルギズ。行きにも乗ったとはいえ、浩平はその存在感にただただ圧倒されるばかりだった。

「何してるんだ?」

「ん、ああ。何でもない」

「アルギズに掴まれたまま空中散歩を楽しみたいなら、別にそのままでもいいけど」

「遠慮しておく。どうも、健康に悪そうだからな」

「多分、健康に悪いどころの騒ぎじゃないと思うのですが……」

 美汐の呟きは風に流されて二人の耳には届かない。

「けど、あんまり積極的に乗りたいとは思わないんだよなぁ」

「それについては全く同感です」

 翼竜系でも最大の体躯を誇る古竜アークドラゴンといえども、その大きさは地竜系や海竜系の竜族と比べるとかなり小さい。飛ぶためなのだから当然といえば当然だが。

 そして、その小ささが故に飛んでいる時の揺れはかなりのものだ。外洋を航行している帆船並みかそれ以上。嵐に突っ込んだ帆船よりはマシ、という程度でしかない。

 もちろん、酔う。情け容赦なく酔う。これでもかというくらいに乗り物酔いする。

 なぜか祐一は平気らしく、美汐も顔を青くする程度で済むが、一般人にしてみればそんな二人が例外存在だ。

「諦めろ。あぁ、それとアルギズに乗ってる時に吐くなよ。こいつに睨み殺されても俺は庇えないからな」

「うぅ……乗る前から思い出し逆流しそうだ」

 顔を青くしながらアルギズの背にまたがる浩平。その後ろに美汐、美汐を抱きかかえるようにして祐一が最後尾から二人を支えて、搭乗が完了した。

 快適とは言えない空の旅は、三十分程度の予定である。

「行くぞ、落とされぬようにな」

「出来る限り静かに飛んでくれよ、アルギズ」

「承知している。我とて背を汚されたくはないからな」

 言葉と共に、アルギズの翼が羽ばたかれる。同時に、干渉による重量軽減と暴風に近い風がアルギズの体を持ち上げた。

 その翼を一杯に広げつつ、アルギズは上昇気流を調整しながら浮き上がる。

 十分な高度を稼いだ後、アルギズは背後を一瞥して三人に注意を促す。

「う……」

 浩平が冷や汗を流すが、構う者など誰もいない。アルギズは山葉に向けて飛行を開始するのであった。











<山葉城 浩平私室>





「二度とあんなのには乗らないからな……」

「浩平、大丈夫?」

「自業自得なんだから放っときなさいよ、瑞佳」

「でも……」

 ベッドの上に青い顔をして寝転んでいる浩平は、もう完全にグロッキー状態だった。それを心配そうに瑞佳と美汐が見ているが、別に何が出来るという訳でもない。

 まあ、放っておけばそのうち復活するだろうが。

「で、浩平の馬鹿に振り回された成果は出たの?」

「もちろん。敵の全兵力が把握できた。と言っても、先遣部隊だけだけどな」

「それでも御の字よ。先遣部隊さえ撃破できれば、援軍が到着するまでの時間が稼げるもの」

「確かに。けど、槍隊5000、弓隊2000、騎馬1000の大部隊相手になるぞ。数の上では勝ってるけど、確実に勝てる戦力差というわけでも……」

 そう言いかけた祐一の台詞に被せるように、勝てるわよ、という声が響いた。

「雪見先輩……」

「勝てるわ。それだけは間違いない。私の近衛が同数の敵相手に敗北するなんてあり得ない。まして、500とは言え『聖槍』の援護付きで、しかも敵の方が少ないのよ。さらに言えば、地の利も私達にある。補給の面でもこちらが有利。負ける要素なんて一つもないわ。後は、どれだけ被害を抑えて完勝できるかどうかね」

 その言葉に、しばし考え込む祐一。

 軍隊というのは、とかく混乱に対して致命的に弱い集団だ。古来より、混乱した軍勢が壊走した例など腐るほどある。

 その事実に思い至った時、祐一の脳裏に嫌でもアルギズの姿が浮かんだ。

「んじゃ、アルギズ出してみるか? 味方の騎馬隊も使えなくなるけど、アルギズの姿を見ただけで敵の騎馬1000はほとんど全滅すると思うんだけど。並みの竜属ならともかく、伝説級の最上位種だからな。訓練された軍馬でも怯えるはずだ」

「なるほど……。その直後に古竜アークドラゴンの火炎魔法攻撃と祐君の戦略級魔導攻撃を行えば、労せずして勝利をもぎ取れるわね。味方の士気高揚にも繋がるでしょうし」

「それはいいけど、こっちの聖槍騎兵団が使えないのって苦しいんじゃない? まぁ、馬に竜に怯えるなって言う方が無茶だけど。下級の飛竜ワイバーンならともかく、古竜アークドラゴンが相手じゃね……」

「いや、馬って意外と鈍いから姿さえ見えなきゃ大丈夫だよ。下手なモンスターの方がよっぽど敏感だしね。なんせ、連中は魔術的な探知能力も持ってるから」

 意外と知られていない事実だが、普通の野生動物というのは意外と鈍いものなのだ。もちろん、聴覚や嗅覚、視覚に優れている分そういった面での敵の察知は人間の及ぶところではない。

 しかし、「存在そのもの」の知覚は殆ど出来ないため、そういった点での敏感さはモンスターや人間に劣るのだ。

「ふーん。なら、敵本体が来た時はどうするの?」

「アルギズは、城の陰に隠れて防御に徹してもらえばいいんじゃないかな。それか、馬から見えないような遥か上空からの支援魔術攻撃に徹するか。どっちの場合にしても、俺がアルギズで足りない部分を補佐すればいいだろ」

 果たしてそれで上手くいくのかは検討してみなければ分からないだろうが、雪見としてはとにかく目前の戦いに勝利する事が先決だった。

「それじゃあ、敵先遣部隊に対して近衛兵団と祐君で野戦を挑みます。場所は王都までの街道沿いを考えているわ。王都に敵が到着するのはいつになりそう?」

「敵の進軍速度が不明瞭だから何とも言えないけど、あと二日もしないうちにここに来ると思う」

「なるほど。……そう言えば、敵の戦力は魔導兵力無しの8000で合ってるの? こっちの偵察報告とはかなり食い違ってると思うんだけど」

 その雪見の言葉に、浩平は祐一に「喋るな」と必死にアイコンタクトを送る。が、祐一はそんな事は露知らずにあっさりと質問に答えてしまった。

「そりゃあ、偵察ついでにアルギズと俺達三人で2000ほど殲滅してきたからな」

「はい?」

「……浩平、お城を抜け出していたと思ってたら、そんな事してたの?」

「は、ははは」

 底冷えのするような瑞佳の声に、浩平は乾いた笑いを発するしかない。いつの間にか、しっかりと頭部を両手でホールドされてる辺り逃走も抵抗も不可能だ。

 それを見やった祐一は黙って両手を合わせておく。

「……一兵たりとも逃がしてないわね?」

「アルギズが殲滅したんだからな。絶対に、一人たりとも生き残れないさ」

「……そう。ならいいわ」

 雪見は、それだけ言うと俯いて考え込んだ。

 行軍中にいきなり友軍が、それも自軍の中核をなす魔導兵力が根こそぎ消滅したのだ。今頃サーギオス軍先遣隊はパニックに陥っているだろう。

「決めたわ。近衛は今すぐに出撃する。王都の守備は留美と聖槍騎兵団500に任せるわよ。民兵をある程度使い物になるように組織して、待機していてちょうだい」

「味方が到着した場合はどうするの?」

「一時的に貴女の指揮下に入ってもらって。私が帰還次第、指揮系統を調整するわ。……まぁ、みんなならその辺りは大丈夫だと思うけどね。たぶん、みさきなんかは積極的に貴女の指揮下に入ってくれるでしょうし」

 川名公爵軍の川名みさきを初めとする各貴族軍の指揮官は、それぞれ雪見や浩平の旧知の仲にある人物が多い。各軍を指揮するのが時期当主であるというこの国ならではの伝統が、ここにきて意外な効果を伴ってきたのだ。

 互いに気心が知れている分、連携はとり易い。

 まあ、その強烈な副作用として、全員揃うと激しく緊張感が薄れるというものがあったが。……というか、全員揃っていなくても十二分に雪見の頭痛の種になるだろう。

「これから来る連中はみんな個性的だから、その辺り心しておいてね、留美さん」

「……確かに」

 一癖も二癖もある人物達の事と、置いて来てしまって怒り心頭であろう真希の事を思い出したのだろう。ゲンナリとした表情を浮かべる留美。

「それじゃあ、私は由紀子さんに直接許可を得てから出撃するから。祐君と美汐ちゃんはついて来て」

 颯爽と部屋を出て行く雪見に祐一と美汐は付いて行く。

 その姿を見て、留美は少し眼光鋭く三人の後姿を眺めた。

「受けた依頼に失敗無く、参加する戦いに負け無き『竜騎士ドラグナー』、かぁ……。裏で流れてるあんたの名声、信頼してもいいのかもしれないわね」

 そう呟いた彼女は、すっ、と立ち去って行く三人から視線を逸らした。すると、嫌でも部屋の中の情景が目に入る訳で。

「大体浩平はいつも心配ばかりかけて、ちっとも反省してないんだから! ちょっと、聞いてるの?! 私だってたまには怒るんだよ!」

「うぅ……。もう勘弁してくれよ……」

 雰囲気をぶち壊すその痴話喧嘩――というか一方的な瑞佳の説教に、留美は軽くため息を吐いた。今でこの様子では全員揃う先が思いやられる。

「はぁ……。馬鹿ばっかね」










続く














 あとがきちっくなもの

 あぁっ、申し訳ない(いきなり土下座)

 他の作品もそうですが、最近私の遅筆っぷりに磨きが掛かって来たようで。えらいお待たせしましたが第四話の投稿と相成りました。

 短いし話進まないし、しかもこれってあんまり面白くないんじゃなかろーか、なんて思っちゃう内容ですが、見捨てないでやってください(懇願)

 どうも、意識してギャグっぽく持っていかないと私の場合は思わせぶりなセリフやら行動が多くなるらしく、ノリが悪くなる一方です。

 そんな訳で、次回は徹底的にノリ悪くいくか、完全はっちゃけ状態で敵を蹴散らすかの二択状態の方向で。

 とりあえず、一月以内に続きが書ければいいな〜、なんて思っていますが……。

 いやほんとに、投稿ペース激遅な作家で済みません。taiさんと読者の皆さんには迷惑をおかけします。