人を遥かに越える力を持ち、三界に君臨する存在。



 大空の守護者、古竜アークドラゴン。大海の遊弋者、深海竜リヴァイアサン。大地の覇者、大地竜アーサーペント



 数多存在する竜族の中でも超越的な力を持つ彼ら三種族の力は、神をも殺すと謳われるものだ。



 その内の一柱、古竜の一族である一体の竜が雲海のさらに上を飛んでいた。目に見えずとも、『存在』そのものを感じ取れる彼にとって、地上の様子は手にとるように分かる。



 巨大大陸を二つに分断する霊峰集団の山脈にあるただ一ヶ所の狭隘地を、西から東へと数多くの存在が移動している。



 その数は、万を軽く超えている。一通りその様子を感じ取った竜は、翼を翻して遠方へと飛び去って行った。












少年は竜と共に舞う
第三話「現状を諦観と共に知る」














 山葉城は、『千年王国エターナル』の俗称を持つ恵野王国の王城たる城として認知されて早五百年近い年月が経つ古城で、大陸最古の城でもある中規模の城だ。

 もっとも、その古城であるというイメージとは違って、増改築及び補修が随時行なわれているため、五百年の時を刻んでいるとは思えないほど綺麗な城でもある。まぁ、上部構造物の数倍から数十倍の規模を持つと言われる地下遺跡は例外だったが。

 その山葉城の南棟の上層部、南側に面した部屋に数名の若い男女が集まっていた。

 意識を取り戻した祐一と、美汐と浩平と留美と瑞佳だ。ちなみに美汐はまだ意識が飛んだまま戻らず、浩平も簀巻きにされたままだったりするが。

「まさか、皇太子殿下だったとはねぇ……。信じられないな」

 で、この一言がとりあえずの自己紹介をしあった後の祐一の感想だ。起きた時は驚いたものの、まぁ、状況を把握して見れば馬鹿馬鹿しい内輪の掛け合い漫才に巻き込まれたに過ぎないわけで。

 その事態の中心にいたのが皇太子だったと知れば普通は驚く。たぶん、もっと。

「そりゃあそうでしょ。あたしだって時々信じられなくなってくるんだから」

「っていうかだな。目の前で簀巻きになっていていい人物じゃない気がするんだけど。立場的に」

「いいのいいの。由起子の小母様からはちゃんと許可貰ってあるから。……仮にも国王たる人から貰う許可じゃない気もするけどね」

 ただし、その許可は瑞佳に対して与えられている物だったりするのだが、まぁ、留美が手を下そうと瑞佳が止めようと、どっちでもいいらしいから大した事では無いだろう。

 そんな事を喋っている二人の横では、浩平が拘束から逃れようと無駄な努力をしていたり。

「ぬおぉぉぉぉぉ……! この程度の拘束に負けて溜まるかぁっ!」

「浩平……、なんか元気だね」

 はぁ、とため息をつく瑞佳。

「おい祐、俺の拘束を何とかしろ」

「……了解」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。何でそんなあっさりと従うのよ、浩平に」

「仕方ないだろ? 俺は傭兵で、ここに転がってる芋虫はその雇い主なんだからさ。だいたい、ちゃんとした礼金交渉もしてないのに簀巻きになってもらってたら困るんだよな、俺としては」

 ブチブチと愚痴を漏らしつつ、手元のナイフでロープを切る祐一。

「そう言えば、そう言ってたわね……。けど、浩平ってそんな勝手に傭兵雇っちゃっていいの? あんた、一応は皇太子な訳だし、そんな事したら近衛や宰相が黙ってないわよ?」

 心配顔の留美に対し、腕をぐるぐると回しながら太鼓判を押す浩平。

「大丈夫だって。非公式な動きをするには丁度いいんだし、言わなきゃ誰にもバレないだろうし。大体、誰も信じないって、年齢的に。俺の気紛れだって言っておけば、ただの孤児扱いになるだろ」

「……俺達、冗談じゃなく孤児なんだけどな」

「え、マジか? そいつはスマンな」

「気にしなくて良いって。もう終わった事だし。それに、雇ってもらえるならありがたいしな。で、具体的な依頼内容は? それと、今後の報酬はどうするんだ? 月あたりか? っていうか、今回分の五千フェリシュを払え。さっさと払え、今すぐ払え」

 祐一の言葉に、少し考え込む浩平。

 初めて見た時から雇う理由はハッキリしている。が、それを留美や瑞佳の目前で言ってしまって良い物なのかどうなのか、という事だ。

 ……少し考えた結論は、この場は誤魔化す、という所に落ち着いた。

「とりあえず、五千は後で渡すから心配するな。あと、今後の仕事は身辺警護な。……ただし、それが王城の中だろうと戦場のど真ん中だろうと変わらないから、そのつもりでいてくれ。報酬は月五千フェリシュ出来高払い付きで、ついでに三食宿泊付き。こんな感じでどうだ?」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! こんな子供を戦場に連れて行く気なの?!」

「そうだよ浩平。そんな依頼したら――」

「ま、それが妥当な所かな。契約成立だね。報酬は後払いで構わないぜ」

 腰を浮かせて反発する女性陣二人を尻目に、二人はあっさりと契約を交わした。文章にする事を要求しない辺り、祐一は完全に浩平を信用する事に決めたらしい。……まぁ、この辺りが子供らしい甘さという物だろうか。

「祐君! 今の情勢が分かってるの?! あたしが遊びで王都に出張ってきてる訳じゃないのは分かってるんでしょ!?」

「もちろん。サーギオス帝国の精鋭が山葉峠を越えて侵攻、数は不明。対する恵野王国は電撃侵攻の前に軍の召集・集結が間に合わずに王都で篭城する構えを見せているけど、動かせるのは王都に駐留する近衛兵団と常識を超えた進軍速度で到着した聖槍騎兵団第一分隊のみ。総兵力一万と五百ってところか。後続の川名公爵軍、騎兵団の大部分、里村侯爵軍、住井公爵軍なんかが到着するまで王都がつかどうかが勝敗の分かれ目だろ?」

 すらすらと現在の状況を述べてみせる祐一に、留美や瑞佳だけでなく浩平まで絶句する。

「噂話の当たってる所を取捨選択して推測も交えれば、このくらいは分かるさ。……ま、俺独自の情報収集手段もあるんだけどな」

「……あんた、一体何者なのよ? いくら手加減してたからってあたしと互角に渡り合った事といい、その情報分析力といい……十五のガキのレベルじゃないわよ」

「ただの傭兵だよ。ちょっと実力が桁違いの戦友というか師匠というか仲魔がいるけど」

 その言葉に、瑞佳はちらりとベッドで寝ている美汐を見た。網を一瞬で焼き飛ばした符術を思い浮かべる。

「あの子の事なのかな?」

「いや、美汐は違う。ていうか、仲間じゃなくて仲魔だって。……言っただろ? 俺は『竜騎兵』だって」

「……あの話、マジだったのか?!」

「当たり前だ。傭兵は嘘はつかない、信用に関わるからな。……もしかして、信じてなかったのか? 分かってて雇ったんだと思ったんだけど、情勢的に」

 軽く言ってのける祐一に、黙って首を振る浩平。

「月五千で雇うにしては破格の戦力だな。本当に、こんな事ってあるもんなんだな」

「……浩平。あんた、俺に何か隠してるだろ?」

「隠し事なんていっぱいあるさ。人間、全てを曝け出して生きていけるほど単純でも強靭でもないからな」

「浩平。一応言っておくけど、あんたには死ぬほど似合わないわよ、そのセリフ」

「氷上君なんかが好きそうなセリフだけど……。もしかして受け売り? 浩平」

 二人の言葉に、浩平は肩をプルプルと震わせる。

「お前らなぁ……。揃いも揃って人の事を何だと思ってやがるんだよ」

「どら皇太子ね」

「浩平は浩平だよ」

「不良入ってる雇い主」

 即答で三者三様の答えが返ってくる。あまりのその断言っぷりに、思わず身体から力が抜ける浩平。

「仮にも皇太子だぞ、俺は。……なんつー口のききかたするんだよ。っていうか、祐。お前、もうちょっと年上に対して敬意を払ってもいいんじゃないか?」

「雇い主と傭兵の関係は対等だ。敬意を払う必要がある人物なら払うけど、浩平は何となくそんな感じがしないから」

「自由民だなぁ……。いいねぇ、俺もそんな暮らしがしてみたいよ」

「何言ってんだか。あんたは恵まれてるぜ、浩平。その言葉は、自由民をやるしかない人間に対して失礼だぞ」

「そうだよ、浩平。傭兵や遊民って、元は国を追われた人達だったりする事も多いんだよ」

 瑞佳の言葉に眉をしかめる祐一。一瞬だけ昔を思い出して……、すぐに頭を振ってその映像を振り払う。今はまだ、思い出したくは無い。

「あ、いや、……すまん。ちょっと口が滑ったみたいだな」

「祐、この馬鹿の言ってる事は気にしちゃダメだからね?」

「ま、話半分に聞いておくさ。だって馬鹿だしな」

「馬鹿馬鹿連呼するなっての。自分の雇い主がそんなに馬鹿で嬉しいか?」

「…………」

 それは嫌だな、と表情で表す祐一。

「……大体、馬鹿じゃ皇太子なんて務まんねーよ。お前の故郷じゃどうだったかは知らないけどな、ウチじゃ軍の最高司令官は皇太子なんだよ、名目上でも何でもな」

「名目上、だろ? 実質的な最高指揮官は近衛兵団の深山雪見だって聞いてるぜ」

「まぁ、雪見先輩は滅茶苦茶頭いいからな」

「先輩?」

「王立教練所のな。貴族の子弟は入学が義務付けられているスパルタ教育施設だよ。あの地獄のような三年間は忘れねぇぜ……」

「浩平って、いつも遅刻スレスレの登校だったよね、家近いのにさ」

「いっつもギリギリまで寝てるんだもん。王立教練所始まって以来の不真面目な生徒だって言われてたし。私、恥ずかしかったんだよ?」

「むぅ……」

 浩平、轟沈。二人にコンビを組まれると意外とやり込められる事も多いらしい。

「ま、こいつの事なんてどうでもいいか。問題は、目前に迫っている危機なわけだしな。……実際の所、援軍が着くまでの一週間、篭城しきれそうか?」

 祐一の質問に、留美が苦虫を噛み潰したような表情になる。

「正直、難しいわね。今は、あたしに引っ付いてきた騎兵団の連中に声かけて士気を鼓舞させているけど……、戦力的に、篭城になったら長時間保つとは思えないわね。大体、相手はサーギオスの主力部隊よ。嫌でも洒落にならない連中の名前がちらつくし」

「洒落にならない連中? 向こうの情報を知ってるのかよ?」

「ま、あたしは元々山向こうの貴族だしね。……亡命してきたからこんな所にいるんだけど。それで、向こうの連中についても少しは知ってるのよ」

「どんな感じの奴らなんだ?」

 ふっ、と留美は視線を天井に向けた。

「まず、野戦で厄介なのは帝国遊撃隊と妖精騎士団ね。遊撃隊は帝国屈指の精鋭部隊で、埋伏・囮・夜襲・少数突破潜入と何でもありの部隊よ。はっきり言って、接近格闘戦において一対一で勝てる部隊なんてこの世に無いわ。部隊を率いるのは『漆黒』のウルカ。女性だけど、あたし並かそれ以上の戦技を持っているわ」

「げ、あんた以上の使い手かよ……。そいつ、人間か?」

「……人間じゃないわ。翼人と吸血鬼の血を引く混血種よ。空は飛ぶし魔術は強力だし力はあるし、最悪の相手ね。出会ったら即、逃げた方がいいわよ」

「うっわ……。それは確かに逃げるしか無さそうだな」

「んでもって、妖精騎士団は正規戦を得意とする決戦支援戦力ね。部隊の殆どが魔術師と弓兵で構成されているわ。水瀬魔導兵団と当たらせたら互角だったかもしれないわね。団長はソーマ・ル・ソーマ。策士なんだけど……、性格は最低だったわ。ウルカには好感も持てたんだけど、あいつだけは好きになれなかったわね」

「……野戦で勝とうと思えば、その二隊を撃破する必要があるわけか……。雇われたの、早まったかな?」

 そんな事を呟く祐一に対して、留美がトドメに二言。

「ちなみに、敵の司令官は多分、秋月瞬――稀代の魔導師にして有能な指揮官よ。最低なのは、あの馬鹿の使う魔導なんだけど……、フルパワーで使われたらこの城が一発で消し飛ぶわ」

「…………」

「ちょ、ちょい待ち。お前、作戦会議の時はそんな事一っ言も言わなかったじゃねぇか?!」

「無駄に混乱を巻き起こすだけだと思ったから言わなかったわ。それに……知ったところでどうするのよ? 城一つ消し飛ばす魔導に対抗するなんて事、普通の人間には無理でしょ」

 そんな言葉に、歯噛みをしながら俯く浩平。

「そりゃあ、確かに普通に考えたら対抗は無理かもしれないけどよ……。何か手はあるはず――」

 浩平の言葉が途切れる。普通の存在では対抗できない。ならば、普通じゃない奴を持ってくればいい。

「ビンゴ! まさか俺の小遣い――たった五千フェリシュが国を救うとはな」

「……アルギズに世話かける事になりそうだな」

「アルギズ?」

「俺のパートナーの竜だよ」

 はぁ、とため息をつく祐一。

「こんな防御力の無い所に篭城しても、先は見えてるだろうに……」

「じゃあ、どうしろっていうんだよ。戦力にかなりの差があるんだぞ?」

「そんなもん、アルギズが介入してきた時点で五分五分になるだろ。一回目の交戦に限れば、アルギズの存在は奇襲同然だろうし。俺だって超遠距離戦略魔導攻撃が出来ない訳じゃない」

 祐一の言葉を聞き、浩平の表情に理解の色が浮かぶ。それに遅れる事数秒、留美が頭を振る。

「まさかと思うけど、あんた達……、野戦に打って出るとか言い出すんじゃないでしょうね? 分かってる? こっちの手札は直接打撃戦力だけなのよ。槍や弓の届かない距離から遠距離魔術攻撃を打ち込まれ続けるだけで簡単に打ち崩され――」

「その為の、俺やアルギズだろ」

「なるほど、そういう事か……。上手い事すれば圧勝出来そうだな。んで、敵の先遣部隊を止められれば後は五分以上の戦いに持ち込めるし……。先輩に相談する価値はあるな。長森、ちょっと深山先輩呼んで来てくれないか?」

「……浩平」

「心配するなって。深山先輩が反対すれば、強行したりはしない。ただ、考えてみるのも面白いと思うからな。話をしてみる」

「分かったよ……」

 未だ心配そうな表情は崩さないものの、瑞佳は小走りで部屋を出て行った。それっきり、浩平も留美も黙り込む。何について考えているかなど明白な事だったので、祐一は黙って美汐の傍に歩いていった。

 豪華な天蓋付きのベッドで寝ている美汐は、祐一の目から見れば酷く違和感があった。おそらく、独特の装束――巫女服がベッドに似合ってないのだろうと想像はしたが、それにしても似合わない。美汐が、あまり華やかという雰囲気を纏っていないのも原因なのだろう。

 それを言えば、本来の持ち主も華やかだとか煌びやかだとかといった雰囲気とは程遠いのだが。

「いい加減に、起きてもらわないと困るんだぞ、天野」

 ベッドに座る祐一。何か嫌な夢でも見ているのだろう、美汐は少し眉をひそめてうなされている。

 すっ、と何のためらいも無く祐一の手が美汐の頬に伸びる。

 おぉ!? という感じでその様子を見守る浩平と留美。……考え事はそっちのけのようだ。

「そろそろ起きろ、天野」

 ペチペチという何とも無体な音が響く。派手にずっこける留美と、何故か親指をおっ立てる浩平。

「う……ん? 祐一?」

「おう、お前の相棒やってる祐さんだぞ」

「…………」

 ぼけーっ、としたまま辺りを見渡す美汐。とりあえず、脇に祐一がいる事でガードを緩め、浩平をしばいている留美を見て首を傾げ、頭上を見上げて目を丸くした。

「夢だったのね……」

「何がだ? っていうか、なんかうなされてたけど大丈夫か?」

「いえ、ちょっと私の理解を超えた夢を見ていたので……。大丈夫ですよ」

 微笑む美汐。ただ、今見ていた夢がもぐら叩きのもぐらのように穴から顔を出す浩平を留美と祐一がひたすら殴る夢だった、なんて事は言えそうにも無かったが。

 そんな風に見かけ上平和な二人を、これはこれでいいか、と見守る留美。足元に転がる物体はこの際無視する方向らしい。

「祐、一つだけ言っておいて上げるわ」

「なんだ?」

「女の子を起こす時は、もっと優しく起こすものよ」

「……普段に比べたらマシだと思うんだけどなぁ。第一、いつも朝は俺の方が遅いし」

「確かに、真夜中に鉄拳一発で叩き起こされるのにも慣れてしまいましたからね……。それはそれで悲しいものがありますけど」

「余裕無いからなぁ、野宿してる時に襲われたら」

 苦笑して頬を掻く祐一。仕方がないと言えば仕方がないだけに、美汐は既に諦めていたりする。最近は、叩き起こされる前に自力で起きるように努力はしているようだが。

「襲われるって……、街道沿いにも魔獣や魔族が出るのか?」

 むくっ、と起き上がって質問する浩平。何回しばき倒されても起き上がってくる辺り、いい感じに無駄に頑丈だ。

「北の方では、な。こっちはそんな事も無いみたいだけど……。まぁ、それに依頼とかでちょっと山とか森に入らないといけない時なんかはもっと危ないし」

「付き合わされる方の身にもなってください。命が幾つあっても足りませんよ、こんなの」

「まぁ、大丈夫だって。俺達だったら余程の事がない限り大丈夫だろ?」

「……それは、祐に無理矢理鍛え上げられましたからね」

 ため息をつくと、美汐はベッドから降りて立ち上がる。

「それで、これからどうするのですか?」

「とりあえず、ここに厄介になる事にしてる。護衛っていう仕事ももらった訳だしな」

「そうですか……。それで、報酬額は幾らですか? 契約書は交わしましたか?」

「月五千フェリシュだ。契約は、口頭でも別にいいだろ? 王族なんて信用第一の商売なんだし」

 ポンポンと交わされる会話はどこか手馴れていて、しかも美汐の口調に疲れが混じっている。毎回毎回、依頼を受ける際に金額にあまり拘らない祐一のお陰で、美汐の金銭感覚は先鋭化する一方なのだ。

 傭兵というのは、収入は多いかもしれないが、支出も多いのだ。意外と金銭感覚にいい加減な所がある祐一には任せて置けない、というのは美汐の持論である。

「……あんまり良くない気もしますけど、まぁ、信用してますし、いいです。でも、今度からちゃんと私に金銭交渉をやらせてくださいね。祐さんに任せているといつか絶対干上がりますから」

「信用無いな、お前」

「ほっとけ」

 ぶすっ、と祐一が行ったちょうどその時、部屋のドアが開いて瑞佳ともう一人女性が姿を表す。

 全員の視線が集中するのを感じつつ、その女性はまず浩平に食って掛かった。

「この忙しい時に呼び出してくれるなんて、いい根性してるわね、折原君?」

「まぁまぁ、ちょっと落ち着いてくれって、深山先輩。敵の先遣隊を撃破出来そうな案があるんだって」

「本当に?」

 浩平の言葉に、半信半疑な声が返ってくる。

「ああ、こいつの協力さえあれば。紹介するよ、宮沢祐と天野美汐だ」

「よろしく」

「はじめまして」

「はじめまして。私は深山雪見、近衛兵団の団長をやらせてもらってるわ。可愛い傭兵さん」

「……なんで知ってるんだ? 深山先輩」

 首を傾げる浩平に向かって、雪見は呆れたように答えを示す。

「城門前広場でウチの兵士と私闘を繰り広げた挙句、半ば名物化してる折原君の暇潰しに参加させられたんじゃ嫌でも耳に入るわよ。まぁ、実は私があの場にいたっていうのもあるけど」

「……いたのか? こいつが近衛兵を殴り倒した現場に」

「ええ、篭城戦志願者の様子を見に行ったんだけど……。まさか、あんな物を見せられるとは思ってなかったわね」

「は、ははは……」

 浩平と雪見の会話に乾いた笑いを浮べる祐一。美汐はと言えば、さーっ、と血の気が引いていく音を聞いていたり。

「別にどうこうしようって訳じゃないから安心していいわよ、二人とも。事情と事実はあらかた長森さんから聞いてるし」

「……じゃあ、俺が考えてる事も分かるよな、深山先輩」

「分かるわよ。その子と竜の戦略級魔導の連発で敵を混乱させて、七瀬さんの槍騎兵500を先頭にして近衛で蹂躙する。こんな感じなんじゃない?」

「うん、そんな感じだ。上手くはまれば敵の先遣部隊くらいは壊滅させられるんじゃないかって思ってるんだけど」

「そうね、確かに先遣部隊は打ち破れるでしょうね……。ただ、被害は極力抑えたいんだけど……」

「そう言えば、先遣部隊の正確な戦力は把握できたのか?」

「混成兵団で一万よ。編成割合は不明。正面からやり合って勝てない事は無いけど、ここで近衛をすり潰すような戦いをすると後々取り返しのつかない事態を引き起こしそうなのよね……」

 恵野王国に存在する軍団のうち、接近戦での双璧が近衛兵団と聖槍騎兵団である。その片方がすり潰されてしまうと、後で戦力不足に陥る可能性が出てくるというわけだ。

 敵の先遣隊は大規模な強襲偵察部隊である事が予想される以上、それに主力をぶつけるのは躊躇われるところだ。

 ただ、適当にあしらってお帰り頂くのが最良とは言え、適当にあしらうのも難しい。

「それに、こちらの手札を全部曝け出すのも癪だし」

「逆に、威力を見せつける事で牽制になるんじゃないかと思うんだけどな……」

「そんなにデカイ魔導を使いこなせるのか?」

「俺じゃないけどな。アルギズの魔導なら、相当な牽制になると思うって事なんだけど」

 あぁ、と半分納得する浩平。雪見は、祐一の言葉にさらに突っ込んだ質問を飛ばす。

「どのくらいの威力なの? いえ、それよりも、あなたのパートナーの竜って、どの種族なの?」

「威力は……どうだろう。この城を吹き飛ばすくらいなら十分余裕だろうな」

 一息置いて、次の質問への答えを口にする祐一。

「種族は古竜アークドラゴン。知っての通り、竜族最強のうちの一つだ」

 事も無げにそう言い放った祐一の言葉に、暫し固まる四人の男女。一瞬後にくる物を予想して、美汐は諦め顔で両耳を手で塞いだ。その直後――

「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!?」

 大音量の叫び声が山葉城に木霊するのであった。










続く














 あとがきだよもん

 なかなか話が進みませんねぇ。いやま、他人事じゃないんですが。

 ちょっぴり理不尽にコメディ風味を目指したり目指して無かったりしたものですが、この話を自分で読み返した結果は……。

 無理(血涙)

 頭の固い、っていうかひたすら真面目風味な作品しか書けないのでは無いかと疑問を感じるばかりです。

 これってやっぱり、作風の問題なのかなぁ? 三人称を好んで使うっていうのにも問題はありそうだけど。

 そんなこんなで、微妙に試行錯誤を繰返しつつ祐一君の艱難辛苦は続くのであるのでしたとさ(爆