< 縁 >
(Kanon) |
第7話『あなたのこと好きです』
〜天野 美汐〜編 |
written by シルビア
2003.9-10 (Edited 2004.2)
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『私はあなたのこと好きです。私とつき合ってください!』
私はいつの時もこの言葉を言えませんでした。
私は部屋の机に突っ伏してました。
妖狐の事があってから、私は男性に告白できなくなっていたようですね。
妖狐との出来事はもう吹っ切れたと思います。
相沢さんとの出会いで、人と心を交わせるようになって、自分の心に正直になりました。
あまりにストレートな真琴と一緒にいると、ふさぎ込んでいたそれまでの自分がばからしく思えてきました。
でも、好きな人に好きと言う勇気のないところは、昔の自分のままですね。
思わず溜息が出てしまいます。
相沢さんをとりまく女性陣はみな平均以上の美人です。
自惚れたとしても、私など到底歯が立ちません。
相沢さんの優しさと強さに憧れましたが、失恋、いえ告白できずのままが心地良かったのでしょう。相変わらずの彼の冗談に「そんな酷な事はないでしょう!」と突っ込み、私がにらみ付けている時の彼の動揺ぶりを見るのが幸せでした。結局それまででした。
でも、友達としてつき合っても、相沢さんはやっぱり意地悪ですね。
昼食の恒例行事、中庭で皆で囲んで食べるお弁当会でした。
最初は栞さんのお弁当の消化のためだったのに、次第に佐祐理さんや舞さんも加わったので、人数もお弁当もにぎやか三昧でした。
私も弁当を作ってみたのですが、相沢さんの口にはなかなか運んではもらえません。
「相沢さん、はい、あーん?」
「み、みしお……お前もか?」
恐怖におびえる相沢さん。
分かっています、お腹が十分一杯なのですよね?
でも、こんな時ぐらいはちょっといじめ返したくなります。
「相沢さん、私の弁当は食べてくれないなんて、そんな酷な事はないでしょう?」
私の目は相沢さんをにらみつけますが、心の中では彼の狼狽ぶりを見てすっかり笑っていました。
「仕方がないですね。せっかく作ってきましたのに。もったいないですから、北川さんはどうですか?」
「お、いいね〜、頂くよ。それにしても天野の和風弁当は質素に見えてなかなか凝ってるね〜。ちなみにこの鮭はどこの産地のものだ?」
さすがに北川さんは味が分かる人ですね。ちょっと見直してしまいます。
「なんなら、今度からは北川さんに弁当を作ってくるようにしましょうか?」
「天野さん、あなたは俺の天使です〜〜」
「おい、北川。それはキャラ違いだ」
「北川君、じゃ、これは要らないのね?」
香里さんは隠し持っていた弁当を、顔の前でぶらぶらさせてました。
「え、えーと……」
分かっていますよ、北川さん。香里さんが好きなんですよね。
北川さん、私はあなたのことも好きでした(……でも、もう過去形にするしかないです)
相沢さんへのあーんは照れ隠しで、実は北川さんのために弁当を用意したのですが。
そんなことはとても言えませんね。
相沢さんのおかげでいろんな友達ができましたし、北川さんもとても優しい人でした。
校内での人気者である二人が私に接してくれるおかげで、私のマイナス・イメージはかなり払拭されました。注目されるのは有る意味で恥ずかしかったのはいうまでもありませんが、クラスメートとも仲良く過ごせるようになりました。
二人は私にとっては特別な異性です。異性を好きという感情がどんなものかは私もおぼろげにしかわかりませんが、今の私の気持ちを言うのでしょうか。
ですが、悔しいですね。
恋人になってほしくても、もう、別の女性が居るんですもの。
ちょっぴり泣きたいです。
私も恋人……欲しいです。(ポッ)
でも、最近、私は別の人から告白されました。
とても意外だったのですが、相沢さんに相談したところ、
「天野、お前さ、自分がどれほど可愛いか知っているか?俺だって、つき合ってみようかと考えたことあるんだぞ。ま、結局はお前も知っての通りだが」
「そうなんですか……」
相沢さんが言うのですから、私はそこそこ可愛いのでしょうか。
ちょっと嬉しく思いましたが、結局は、恋人のいない自分を再認識させられ、気分は沈
んでしまいます。
「ですが、相沢さん、実はその人とおつきあいしてみようと思ってるんです」
そう、つき合うことにしたのです。
彼は---もう、そう呼んでもいいでしょうね。--私の親の経営する和菓子屋の職人さんで、私より2才年上の男性です。名を斉藤克也といいます。
「お嬢……私とつき合ってください!店に来て以来ずっと好きでした」
花束を片手に、顔を赤くしながら、ストレートに告白されました。
私をずっとすきだったなんて、本当に嬉しかったです。
だって、誰もそんなことを言ってくれないんですから。
それに、身近なところでありのままの私をみてくれたようで、嬉しさが増します。
私はしょっちゅう厨房に顔を出し和菓子の作り方を教えてもらったりもしていたので、彼のひととなりはよく知ってました。
ルックスは中の上といったところですが、なにより子どもっぽいところと肝心な時に真剣なところは相沢さんや北川さんとどこかだぶります。
いけませんよね、こんな風に比較したりするのは。
そんな私は悪女ですね。
「あの、斉藤さん、私のどこが好きなのです?」
「お嬢の"物腰が上品"なところです。大和撫子といった方がいいかもしれません」
相沢さんには"おばさんくさい"と言われてきた私の仕草も、彼にはつつましかな大和撫子なのですから、世の中は分からないものですね。
「でしたら、せめて"お嬢"と呼ぶのは止めてくださいね?」
"お嬢"、それが彼の口癖のようなものと言うのは知っていましたが。
「はい?」
「私には美汐という名前があるんです。だから、これからは美汐と呼んでください」
私ははにかむ表情をして言葉を紡ぎました。
「それでは?」
「……ええ、こんな私でよろしければおつき合いさせていただきます」
彼の真摯なまでの想いを知ってしまった私は断りようがありません。
好きと言えず自滅したかつての想いはもうこりごりです。勇気をふり絞って、とりあえず交際してみよう、そう思いました。
私だって、恋する乙女になりたいんです。
それに、
(彼って、とても格好いいんですもの)(ポッ)
でも、彼は幸運だったかもしれませんね、だって私が失恋した直後でしたから。
4年後……
(はあ、恋愛は本当にタイミングなのですね)
本当にそう思います。
和風の結婚衣装に実を纏う自分の姿を鏡で眺めた時に本当にそう思いました。
相沢さんは名雪さんと結婚し、北川さんは香里さんと同じ大学で仲むつましく -本人は恋愛関係だと思っていないらしいですが- 過ごしています。
そして、私は彼とつき合ううちに次第に心が惹かれてました。
彼はちょっぴり女性に内気なようですが、大人の男性の包容力を感じます。
彼の包容力に包まれて、私は恋心はすっかり一人前に育まれてました。
だって、克也さんは私にこの言葉を言わせたほど、すばらしい人だったんですもの(ポッ)。それに……彼の寝顔をみてどれほどときめいてしまったか分かりません。
『私はあなたのこと心から愛しています。私と結婚してください!』
男性に好きと言えない私も進歩したのでしょうか、クスッ(笑)。
でも、私がこんな恥ずかしいこと言うのは、生涯でただ一度だけですからね。
ねえ、あ・な・た。♪
〜エピローグ〜
祐一「なあ、北川。天野は本当に綺麗だよな?」
北川「ああ、文句なしだね。大和撫子というのはまさに彼女のためにある表現だよな」
祐一「天野は俺や北川にも気があったらしいぞ。勿体なかったか?」
北川「ちょっとな」
香里「潤、今変なことかんがえていない?」
名雪「祐一、不倫しようと考えたら、今晩は生卵づくしだよ〜」
祐一・北川「「……」」
香里「斉藤さんって素敵じゃない?天野さんって、好きな人には心から尽くすタイプの娘よ、さすがだわ。もっとも、そんな彼女の良さを見抜けないようでは、あなた達二人とも女を見る眼が甘いわね」
名雪「斉藤さんの方が恋愛に関しては一歩上手だよ」
祐一・北川「「本気か?」」(泣く)
香里「そうね、女性が真に美しくなるには男性の存在は欠かせないのよ。単に見かけがいいだけが男の魅力ではないわ。まだまだね、二人とも」
名雪「美汐ちゃんののろけ話を聞いていると彼の性格の良さがよく分かるもんね〜。祐一も意地悪ばっかり言ってるとそのうち乗り換えられちゃうよ〜?」
祐一・北川「「本気か?」」(泣く)
香里・名雪「「二人とも。今後に期待してるからね〜」」
FIN.