< 縁 >
(Kanon) |
第2話 「私の視界に映る人」
〜美坂香里編 〜 |
written by シルビア
2003.9-10 (Edited 2004.2)
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〜プロローグ〜
香里は高校を出て、医大に進学・卒業し、晴れて医師国家試験に合格した。
その後も優秀な内科医として多くの人に親しまれていた。
栞が回復してからというもの、明るい笑顔を浮かべるようになり、繊細な優しさで親しまれていた。
一方の、妹の栞も香里と同じ大学の薬学部に進学し、その後薬剤師となった。
病気に苦しむ本人とそれを支える家族の悩みを知る、香里と栞。
時が過ぎて、香里と栞の二人は小さな診療所を設け、地域医療に貢献していた。
権威を振りかざす医者とは違い、二人の診察所は人の明るい声に包まれていた。
患者の病気や心のケアに細心の配慮をする、それが香里と栞の心意気だったからだ。
二人は幸せだった、 そう……ある日まで。
こんな二人の夢を打ち砕くように、香里の身の上に残酷な現実が起きた。
病室の窓が空いたのか、頬に風が吹くのを感じる。
ほんのり暖かくなった風、季節の変わり目が近いことを予感させてくれる。
「暖かいわね。栞、外の景色、どう?」
見舞いに来ていた栞に、ゆっくりとした口調で訊ねてみる。
「もう雪解けの季節ですね。ところどころに緑が見えてきます」
少し辛そうな口調の栞の声がかえってきた。
「……そう。……外、気持ちよさそうね」
外の様子を見ることはできない。
目を見開いても、私の目はなんの映像も映さない。
たった1度の交通事故が私の視力を奪い去ってしまった。
交通事故の外傷によって、視神経が圧迫され、眼が見えない。
それが今の私。
私は内科が本業だけど、外科の知識も持っている。
手術すれば視力を戻せる可能性はある、だがそれが難易度が高い術式であることを理解している。
日本の医師でこの術式の経験のある人を私は噂にさえ聞いたことがない。
自分が医師である以上、自分のことであっても可能性を捨てないでいよう。
心の中でそう決めていた。
だから、私は泣かないって決めてた。
かつて妹を拒絶しそして仲直りした妹との関係も、自分の夢を叶えて医師となって頑張った人生も、全て失った。
こうなると、かつての栞の気持ちを痛感してしまう。
不治の病にかかった栞、私がかつて拒絶した栞は、こんな気持ちで日々を生きてきたんだろうか。
あの時にもっと栞の気持ちを大事にしてあげれば、そんな後悔すらわき起こってくる。
悪い姉だったのね……私って。
身近で私のことを心配して世話してくれる栞、その栞の気持ちがこんなに嬉しい。
「お姉ちゃん……」
「大丈夫。いつかきっとこの目で見える、そんな日が来るって信じているから」
「はい。きっと、きっと来ますよね……きっと……」
「そうね」
私には少しだけ希望があった。
海外で私と同様の術式をこなす医師の話を聞いたからだ。
医療が進歩すれば、優秀な医師が誕生すれば、奇跡的なことすら限りなく現実に近づいてくる。
私はそれをなにより自分の肌で知っていたから。
今の私の視界には何も見えない。
それでも脳裏には、いくつものシーンが浮かび上がる。
それは記憶 、目が見えた頃の懐かしい記憶。
時々、その記憶を辿り、楽しかったこと辛かったこと、それらを振り返って日々を過ごす。
「春……か、思い出すわね、いろいろと……」
「お姉ちゃん」
あれは高校3年の頃……
潤が、私に告白してくれたんだったね…………
「栞ちゃん、元気か?」
「ええ、もう学校にも通えるようになったわ」
「済まなかったな、香里。知らなかったとはいえ……俺、美坂の力になってやれなかった」
「北川君? いいの、もう済んだことよ」
「俺さ〜、あれから進路のことを考えたんだ。それで、決めた。
笑われるかもしれないけど、俺、医者になろうと思ってさ。……香里も医者をめざすんだろ?」
「うん、私は医大に進むつもり。
……栞のこともあって、医学に関心が強かったから。……でも、北川君も医者志望だなんて意外だわ」
「実はな、俺も交通事故で家族を亡くしているんだ。だから外科医になって救急医療に関わろうと思っている」
真剣な口調でいう北川君がなんだか可笑しくみえちゃって、つい茶化しちゃった。
「北川君はコメディアン志望だと思ってた。北川君にそんな意志があったなんて、誰も思わないわよ」
「言ってろ!……確かに俺に医者は似合わないかもしれないが」
「でも、北川君、なにげに成績は上位の方だものね。医大も頑張ればなんとかなるかもね」
「ま〜美坂ほど安全パイってわけじゃないけどな、西北医大を受験するつもりだ。
一応、入学以来それとなく勉強はしてきてる」
「え?それじゃ、私と志望校、同じじゃない。あの大学、レベル高いんじゃない?」
ふざけ調子で話す私をきっとにらめつける北川君。
ちょっと悪いことしたかな。
真剣な話なのよね、これって。
「……どうせなら、美坂と同じ大学に行きたかったんだよ。……悪いかよ?」
「え?」
「今まで言えなかったけど、俺な、入学してからずっと美坂を見てた。……美坂が好きなんだ」
何も言い返せなかった。
北川君のこと嫌いじゃないけど、私は恋愛に自信がもてない、そんな気持ちだった。
心のどこかでは、北川君と付き合ってもいいかな、そんな気持ちはあった。
そんな私の雰囲気をどう受け取ったのか、北川君はゆっくりと、はっきりと私に告げた。
「今すぐに返事してくれとはいわない。大学に合格してからでもいい。
その後は俺のことを1人の男として見てくれないか」
そう言うと北川君は背を向け去っていった。
当の本人は言いたい放題言ってのけておいて、私の返事も聞かずに。
……馬鹿。
こんな時ぐらい私の気持ちもしっかりと聞いて行きなさいよ。
言いそびれちゃったじゃないの……
たしか、その翌年の春、医大の合格発表の日だったわね……
「合格おめでとう、香里。とても信じられないが北川」
「合格おめでとう、香里。北川君も凄いね、本当にうかっちゃったよ〜」
「ありがとう、相沢君、名雪」
私が二人の言葉に礼を言った側で、北川君はやけに拗ねてたわ。
「相沢、水瀬……それで祝福しているつもりか? 一度、脳を潰して俺の医学実験の献体にしてやりたいぞ」
「……まぁまぁ、北川君。とにかく、北川君、おめでとう」
「あ、ありがとう、美坂」
北川君に素直におめでとうって言ってたわ。
相沢君達には分からないだろうけど、私は北川君の努力を側で見ていたもの。
「お姉ちゃん、1年間のお別れです〜。来年、私も薬学部に入るから、そしたらまた一緒に通いますね♪」
「栞、あなた実力テストの順位を見てから言っている?」
「そんな意地悪なこと言うお姉ちゃん嫌いです!」
「あら?勉強をみてくれる優しいお姉様はお嫌い?ご希望ならスパルタ教育もあるわよ」
「……そんなお姉ちゃん、やっぱり大好きです」
栞は少し肩をすくめてそう返事したわね。
でも、その時は栞の調子の良さにあきれたものの、栞は翌年見事に薬学部に合格したから人生って不思議なのよね。
栞もさすがに奇跡的に回復した娘だけのことあるわね。
でも、私の自慢の妹だもの、当然だったかな。
でも、驚いたのはそれからの潤の変わりぶりかな。
同じ学部の潤に主席の座を明け渡すことになるとは想像もしてなかった。
外科医を目指すといってだけのことあってか、なぜか手先は凄く器用で繊細で。
学識もそうだったけど、一緒に実習した時はそのゴッド・ハンドぶりに私は驚愕したもの。
「ねえ、何でそんなに手先が器用なの?」
「いや〜、昔とった杵柄とでもいおうか……ははは……」
潤の同僚にこっそり聞いたんだけど、彼はバービー人形のようなものを自作するほどのプラモデル(?)マニアとロリコン好みだったらしいのよ。
男の人って、どうしてあんなものに凝るのかしら?
もちろん、知った時は潤を天井に頭をのめりコマしてあげたけど。
でも、あんなので手先が器用になるものかしら、不思議だわ。
万事が万事、そんな調子、とうとう大学でも北川君と恋仲にはなれなかった。
潤ったら、いい雰囲気になると……いつも調子に乗って軽口ばかりたたくから。
どうしてこう、私達っていいムードになれないかな〜
唯一の進歩っていったら、互いに名前で呼ぶようになったぐらいよ。
でも、そんな潤も医大卒業後に米国に留学してしまった。
……強引でも、私を連れて行ってほしかったんだけど。
あれからもう何年になるかしら……
「入るよ?」
あら、いけない。考え込んでいる間に、誰かが病室に入ってきたみたい?
「こんにちは、北川さん、いえいえ、北川せんせ〜〜〜〜」(にやにや)
「栞ちゃん、からかうなよ。一応これでも医者になったんだから。
とりあえず、こんにちは、二人とも」
え???
じゅ、潤???
だって、潤はアメリカに行ってるんじゃ…………私が、私が潤の気持ちに応えなかったから。
どうして?
「香里、久しぶりだな。……カルテ見たよ」
「ええ、久しぶりね、潤」
どきどきしていた。
離れてみて分かった。たぶん潤のこと、ずっと好きだった。
でも、大学を卒業するまで一緒だったけど、友達以上の間柄を踏み越えられなかった。
名前で呼び合う仲になるのが精一杯だった。
「香里に会うのも3年ぶりか。栞ちゃんからの手紙で事を知った時は驚いたよ」
「隠してごめん、お姉ちゃん。実は北川さんにお姉ちゃんのこと相談したんです」
「そうなの……。日本には里帰り?」
「いや、もうこれからは日本に戻る。あっちでやりたいことは十分やったし、それに……」
「?」
「今の香里を放ってはおけない。
何よりも、大好きな妹の姿を見れないなんて、香里にとっては苦しだろ?
前に栞が苦しんだ時には俺は何もしてやれなかったが、今度ばかりは違うぜ。
今回は素直に俺に甘えろって」
「えっ?」
「栞に香里の目の手術を頼まれた。
どうせ自分でも分かっているだろうから、単刀直入に言う。
香里、俺の所見だと、香里の眼は手術で元に戻る可能性が50%ぐらいだ。
普通の医師では難しい術式だが、幸い俺はこの術式は経験がある。
俺が執刀するから、手術を受ける気はないか?」
「北川君はそのためにここに?」
潤はアメリカでもゴッドハンドの異名をもつほどの名医、ドクターJunで通用していると噂では聞いた。
明らかに多忙な身の上であることも予想できる。
その彼が私を治すためといってここにきてくれた。
肌から伝わる感触で、彼が私の手と眼に触れていることがわかる。
「潤、手術、お願いするわ」
私ははっきりとした口調で北川君につげた。
可能性は五分五分でも、このままでも何も変わりはしない。
できることなら、もう一度、潤と栞の顔が見たい。
もう一度、医師としての人生も全うしたい。
何よりも……もう一度、恋がしたい……だから……
幸い、手術は成功した。
他の医師の話によれば、彼だから成し遂げられた、ということらしい。
看護婦によって、眼にまかれた包帯がゆっくりと解かれていく。
「いいか、ゆっくり眼を開けよ?」
「……」
少し不安だった。
長い間失っていた視力、戻って欲しいという気持ちだけが先走る。
「……香里、俺の顔が見えるか?」
うっすらと光が差し込んでくる。
人らしい輪郭が浮かび上がってくる。
そして……はっきりと潤の姿が見えた。
「ええ……潤、ずいぶん格好良くなったじゃない?」
嬉しさの照れ隠し……ちょっと意地悪に潤に向けて言った。
私の記憶にある潤の面影よりも、ちょっとだけ凛々しくなった姿が見えた。
「ふっ、お世辞か? とにかく、まずは、おめでとう。ほら、栞と両親もそこにいるよ」
潤は穏やに微笑みを浮かべ、栞達の方を指さした。
潤……その微笑み、反則よ。どきどきするじゃない……
「香里、実は話がある。後で、屋上に来てくれないか?」
「……分かったわ」
私にそっと耳打ちした潤に、すぐに返事した。
ちょっとだけ恋の予感がした。
彼が告白してくれるとは思わないけど、私の気持ちは伝えたい。
長すぎた私の想い、彼に伝えずに終えるのだけはもう嫌だった。
屋上にあがった。
白衣姿のままの潤が立っていた。
ゆっくりと彼に近づいていった。
彼が気づいて、私の方を振り向いた。
「よっ、香里」
「待った?」
二人はフェンスによりかかり、青空を見上げた。
ちょっとだけ長い間の後に、潤が先に話を切り出した。
「これで、日本にもどった目的の一つはかなったよ」
「本当にありがとう。今は、もう夢心地気分よ」
「それはなによりだ。ところで、実はもう一つの目的があるんだ。それはな……」
「なに?」
「香里、俺は今でも香里が好きだ。
久しぶりに会って、一段とその気持ちがはっきりしたよ。
改めて、俺とつき合ってくれないか?」
「……何よ、今頃になってやっと”つき合ってくれ”と言うわけ?
高校だって、大学だってずーっと一緒だったのに、何でその時に言ってくれなかったの?
今頃になって言わないで」
素直じゃない。
でも、私はYESという答えしか用意していない。
ただ、彼の気持ちを少し知りたくて、あえて突っ込んでしまう。
「いや、それはだな……たとえ友達としてでも、一緒にいたかったから……」
「大学卒業まではつき合っていたじゃない……友達の一線をこえなかっただけでね」
「すまない。俺が意気地なしだったか?」
「…………優しかっただけよ。でも、ちょっと意地悪だったわ」
一緒に居たかった、そう言ってくれるだけで十分だった。
私と居るのが楽しかったなら、それ以上何も彼に言えない。
でも、知らず知らずのうちに涙が出てしまう……本当に嬉しいから。
「もう無理か?」
バカね、潤……。
無理じゃない……もう私だって離れたくない。
だから、私の涙を見て、不安そうな顔をしないで。
…………ここは冷静にならないと。
私が泣いたりするから、彼が不安になってしまうのよね。
「無理? 男のくせに、何、泣き言言ってるの?
ここまで待たせたんなら、プロポーズして連れ去るぐらいの勇気はないの?」
「えっ、それって?」
「何年一緒に居たのよ。そうよ、つき合うも何も”今更”じゃない。
だから、もうあとは『プロポーズだけ』。それ以外の……何が……あるのよ。バカ!!」
「香里……」
「私……眼が見えない時にも何度もあなたの顔を浮かべたわ。
……私は貴方に側にいてほしい。
……貴方以外の人、考えたことないわよ。
……たぶんこれからも。…………これ以上私に言わせないで
眼が見えるようになって、私の目の前にはあなたがいたわ……私の大好きな貴方がいたのよ」
また……泣いちゃった……。
もう、 潤がいけないんだから。
「俺だってな、昔の俺のままじゃない。
今後ばかりは俺も引く気はない。
今はな……これが無駄にならずにほっとしてるんだ。ほら、泣いてないで、こっちに向けよ」
潤はポケットから小箱を取り出した。
「アメリカに渡る前に渡せなかった俺の気持ちだ」
何よ、それ!!
私の気持ちなんて分かってるっていうの?
そんなもの用意して…………嬉しいじゃない、嬉しすぎるわよ、バカ。
「香里、結婚しよう」
私、恥ずかしさでうろたえている。
できるだけ、こんな私を彼に見られたくない。
冷静になたないと……
涙をぬぐってから、一呼吸おいて彼に返事をする。
「あら、ずいぶん準備がいいじゃない?
負けたわ、潤……この指輪、あなたがはめてくれる? これが私の返事よ、潤」
私は手を彼に差し出した。
そうよ、私は降参したの。
あなたがそんなに積極的に私を想ってくれるなら、もう迷いはないもの。
私が貴方をどれだけ好きか、貴方がどれだけ私を好きか
……まだ触れ合っていないけど、リスクもあるけど
……賭けてあげるわ、あなたに、
私、一生、あなたに付いていってあげるわよ。
その思った時に、私の指に婚約指輪がはめられた。
「今度こそ一緒に居られるな」
「ええ。その代わり……今度は”無期限”だから。いやといっても離さないから覚悟なさい」
でも本当は私にも分かっていたわ。
ダイヤモンドの指輪は、彼の変わらぬ気持ちを表すように、私の指に輝いている。
その気持ちをずっと求めていた私、応えてくれた彼。
だから、私の意地も限界みたいね……冷静でなんかいられないわ。
いいよね、潤…………私、辛かったの。だから、あなたにすがらせて。少しだけでいいから。
「ありがとう、潤。本当は……待ってたの……待ってたのよ、あなたがそう言ってくれるの。
暗闇の中で……私……気づいたの、もうあなたの顔をもうみれないんだって
……大好きなあなたの顔も見れないんだって
……とても寂しかったのよ。
あなたが好き! 大好き!! あなたを愛してる!!
あなたの笑顔が好き、だから、もう離れないで。
私が好きだと笑って言って!!
わたし、潤のこと、ずっとそばで見たいたいの。
潤に向かって笑っていたいの。
やっと……やっと……叶うんだよね、そうだよね?」
私は潤の胸に顔を埋めて、泣き叫んでしまった。
潤はただそっと私を抱きしめてくれた。
それがただ嬉しくて、嬉しくて、私は泣き続けた。
まるで、すべての苦しみをはき出すように。
ただ目の前にいる人しか見えていない、香里と潤。
栞は、そんな二人の様子をこっそり洗濯物の影から立ち聞きしていた。
あーあ、どうもお姉ちゃんの様子が変だったから来てみたら……やっぱりですか。
まったくあの二人は……はぁ〜。
知らないのは本人とばかりとっくに公認カップルなのに。
でも、お姉ちゃん、本当に良かったね。
「二人の恋愛ドラマ、なんか素敵です〜♪」
さて、今後はたっぷり幸せになってもらいましょう。
さっそく、媚薬の用意をしなければ。
これから忙しくなりますね……ふふふ♪
〜エピローグ〜
香里と潤の結婚式当日のこと。
「お義兄ちゃん、ちょっと来て!」
栞が、新郎控え室にいた北川をちょいちょいと呼び寄せた。
「なんだ、栞ちゃん?」
「いいから、私について来てください」
栞はちょっと立ち止まり振り返ってから言った。
「え〜っとね、まずはこれを付けてくださいね」
「なんだかよく分からないが、まあいいか」
北川は栞に渡されたアイマスクを付けた。
栞はマスクをつけたままの北川の手を引いてどこかしらに誘導した。
北川は栞に引かれるまま歩を進めた。
しばらくして、栞は引く手を止め、北川のアイマスクをささっとはずした。
「あとはお姉ちゃん次第だね?」
栞は香里に近づき、耳元にそう囁くと、さっさと部屋を出て扉をしめた。
北川は突然明るくなった視界の前に、一瞬まぶしそうにしていたが……
その眼に映る光景に思わず眼を見張った。
「あなたに最初にみて欲しかったの。私、どうかしら?」
「感動した!これ以上の表現はない」
「ありがとう、潤。嬉しいわ」
純白のウェディング・ドレスを纏う香里を北川の眼が捉えた。
……照れくさそうに微笑む彼女はこの上なく美しく・端麗で・可愛くて・優しそうに見えた。
北川はゆっくりと香里の方へと近づいていった。
「ねえ、私の眼の包帯をはずした時の事覚えている?
あの時、貴方の顔が見れたのがとても嬉しかったの。
その瞬間をたぶん一生忘れないわ。
その気持ちを伝えたくてこんな演出を栞に頼んだの、ごめんなさい」
「なるほどね。ま、いいもの見せてもらったよ」
「ふふふ、潤は、私のこの姿を一生、記憶に焼き付けてくれる?」
「ああ、忘れないよ」
FIN.