< 縁 >
(Kanon) |
外伝第2話 「私の夢」
〜倉田佐祐理編 〜(後編)
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written by シルビア
2003.9-10 (Edited 2004.2)
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佐祐理が大学を卒業する間際のこと。
「佐祐理さん、実は俺、卒業した後、アメリカに渡ろうと思うんだ」
「え?」
「プロ・カメラマンを目指そうとおもっていたんだけど、アメリカにいる先輩が僕のことを気に入ってくれて声をかけてくれたんだ。それで……」
「佐祐理は嫌です。……でも、あなたの夢を邪魔して足を引っ張るのも心苦しいです」
「5年、たぶんそのぐらいはアメリカにいると思う」
「なら、私に約束してくれませんか?」
「約束?何の約束かな?」
「その〜……5年後でもいいです、私と結婚してください。
それまでは、電話だけでも我慢しますから。
約束してください」(ポッポッポッ)
「それは、俺が先に言いたかったんだがな……」
「では?」
「俺と結婚してくれないか、佐祐理。
今はまだ未熟だけど、5年の間にはきっと佐祐理に相応しい男になるから。
きっと迎えにくるから、待っていてほしい」
「はい……」
「毎日電話して下さいね、それも貴方の顔が見れないと嫌です」
それからというもの、透と佐祐理は毎日のように電話していた。
佐祐理がはっきり言って寂しがり屋だったことは高木もしっていたからだ。
二人は画像付きのIP電話で語りあっていた。
従来のIP電話だと音声だけだが、倉田ファミリーの企業が画像付きのものを開発していていて二人はこの開発のモニターをすることにしたのだ。
確かにこれなら電話代を気にすることもない、佐祐理の要望にぴったりだった。
佐祐理は卒業してから、プロのモデルの仕事に就いた。
それに、時々アメリカのファッション誌のモデルの仕事を取っては、透に会いに行っていた。
時々、彼らはプライベートで写真を撮ってたりもする。
そこには
---ブロードウェイの劇場で彼によりかかる佐祐理の姿もあった。
---ニューヨークの自由の女神にのぼってはしゃぐ佐祐理の姿もあった。
---テキサスの牧場で乗馬する佐祐理の姿もあった。
そんな二人の日々もかれこれ5年がすぎようとしていた。
(もうすぐ5年……)
佐祐理の心は待ちこがれた「約束」を前にして動揺する。
ピッピッピッ
(あ、透からの電話ですね)
佐祐理は受信し、
『佐祐理? 透だ。元気か……って昨日電話したばかりだったな』
「ふふ、私はいつも元気ですよ」
佐祐理は笑顔一杯にそう答えた。
『ところで、来週日本に一度戻るんだ。
佐祐理の写真集の続編のことは知ってるだろ?
あの撮影、俺がやるんだ』
「嬉しいです」
『俺もだ。楽しみにしてるぞ。あ、これから撮影が入ってるんだ。じゃ、またな』
「はい」
(透……5年前の約束、果たしてくれるかな〜)
佐祐理は通話を切ると、少し不安げにつぶやいた。
……撮影当日。
「ところで、今度の写真集では”恋する大人の女性のイメージ”というテーマなんだけど、佐祐理の思う大人の恋ってどんな感じかな〜?」
「そうですね〜、うーんと、”さりげない愛情”ですか。
刺激的な愛情もいいんですけど、自分の好きな人にむけて心の中でそっと愛の言葉をつぶやくような姿って、とても大人っぽく感じますね」
「なるほどな。
それに、今の佐祐理なら表現できそうな感もする。
じゃ、こんなシーンなんてどうだ……」
そう言うと、彼は以前のように、私にいろんな構図を提案してくれます。
……
「あ、その雰囲気、素敵です♪」
出会った頃とあまり変わらない雰囲気の、二人の会話がそこにあった。
(そうだ!)
佐祐理はふと何かを思いついたらしい。
「ね〜、透、私、絶対に撮って貰いたいシーンがあるんだけど……」
「いいぞ、どんなシーンだ?」
「今は内緒です。それで、撮影が終わったら私の家に来てくれません?」
……撮影後、倉田邸にて。
「それで一体どんなシーンなんだ?」
「あはは〜……実はですね、こういうシーンなんです……」
「!#$SE$」
透に驚愕の表情が浮かんだ。
「佐祐理……もしかして……佐祐理もか?」
「ふふ……多分、そのもしかですよ」
「約束してたもんな。それなら……」
透はそう言うと、撮影のアルミバックの中から1つの箱を取り出して、佐祐理に中身を見せた。
「今渡すな。俺の気持ちだ」
「透ったら、ムードないですね。
せめて、あの言葉をもう一度言って下さらないと?」
「『俺と結婚してくれないか、佐祐理』
……ってか? うわ〜恥ずかしい」
「それでもあなたの口からもう一度言って欲しかったんです!」
佐祐理は拗ねるような口調で言った。
「それで返事は?」
「昔の約束通りです。……もちろん『はい』です」
佐祐理は透の方にそっと手を差し出す。
透は佐祐理のその手をとり、指輪をはめた。
「この指輪、母さんから貰ったものなんだ。
ばあさんの形見だそうだけど、結婚したい人がいたら贈りなさい、だってさ。
これを貰ったとき、真っ先に佐祐理のことを思い浮かべた。
……良かった、サイズはぴったりだし、よく似合ってる」
「ええ、とても綺麗な指輪ね」
「母さんもばあさんも夫婦幸せにくらしたらしい。
母さんいわく、僕にも、その幸運にあやかれとさ」
「素敵なお母様ですね」
「ははは……今アメリカにいるけど、一度、きちんと紹介するよ」(にやっ?)
「うん?透、今なにか変なこと考えてませんでした?」
「い、いや、何も……」
「なんか変ですね〜」
「ところで明後日は暇ですか?」
佐祐理はぽんと手を叩いて、何かを思い出した。
「ああ、アメリカに戻るのは1週間後の予定だしな。撮影も明日には終わる」
「それじゃ、倉田家で催すパーティーに来ていただけませんか?
せっかくですし、一緒に踊りましょう」
「行くのは良いけど、俺、踊れないぞ?」
「大丈夫です。
私がちゃんとリードして上げますから♪
未来の"妻"にお任せください!」
「透さん、そろそろ、さっき言ったイメージの写真を撮りましょう。
さて……衣装ですが……」
それから、二人は客間のウォークイン・クローゼットで衣装合わせをした。
「あ、透さん、これ似合いますね♪」
その後、"二人だけ"の撮影が始まった。
「ご機嫌だな?」
わくわくルンルン状態の佐祐理を眺めて、透はすこし照れくさそうにに言った。
「ええ♪ …… だって」
満面の笑顔をうかべる佐祐理。
その様子を三脚に立てかけたニコンF4が凝視している。
(いい表情だ)
……カシャ……
その時、透はワイアレス・リモコンを使ってシャッターを切った。
「これ、私の夢なんです」
(つづく)