五月―――――

 深緑の季節を告げ始める季節。

 ゴールデンウィークも終わり、学生は新たな環境にようやく適応してくる時期である。



 「で、祐ちゃんはどうするの?」

 「……何が?」



 六時間目も終わり、机の上に頭を伏せていた(寝てはいない)祐一は突然の久平の問いに対し、だるそうに反応する。

 そんな祐一の様子に久平はあからさまな溜息をついて「あいかわらずだねぇ」と一言。

 そして意味もないのに髪を掻き揚げる仕草でポーズ、これがこの男の癖だったりする。



 「部活だよ、部活。ほら、今日一時間目に部活紹介があったじゃない」

 「……ああ、そんながあったっけ。でも、俺はその時間は九割方寝ていたから全く内容は覚えていないぞ」

 「そんなことは知ってるよ、そもそも祐ちゃんの隣に座っていたのは僕なんだから」

 「おお、そういえばそうだったな」

 「祐ちゃん……あのねぇ……あ」



 ポン、と納得したように手を叩く祐一をどこか疲れたように見る久平だったが、ふと視界に入ったある人物に気付いて

 何かを思いだしたらしく急にニヤニヤし始める。



 「……おい、どうしたんだ久平? いきなりニヤニヤして」

 「そういえば祐ちゃんの寝顔かなりプリティーだったよー♪」

 「…………はぁ?」



 久平の言葉に祐一は「突然何を言ってるんだこいつは?」といった表情になる。



 「ねえ、そう思うよねー♪ みさおちゃん、澪ちゃん?」






























 DUAL ONE’S STORY     第6話   五月、放課後の生活@






























 「……わ、私は……へぅ」

 (うんうんっ)



 久平が言葉をかけた先には何故か真っ赤な顔をしたみさおと、全開の笑顔で頷いている澪の姿があった。



 「……お前らも、俺が寝ていたとこ、見たわけ?」

 「そりゃあみさおちゃんがもう一人の隣だったし、澪ちゃんは更にその隣だったからねぇ……」

 『相沢くん、子供みたいでかわいかったの』

 「ご、ごめんなさい……見ちゃって……」

 「……う」



 久平と澪の無駄ににこやかな笑顔と、ひたすら顔をうつむきっぱなしのみさおに流石の祐一も寝顔を見られたことを

 恥ずかしく感じてしまい、顔を三人から見えないようにそらす。



 「けど祐ちゃんが学校で寝るなんて珍しいね」

 「そうだな……いつもならいくら興味のないことだからって寝たりはしないはずなんだが……なんでだろうな」

 「みさおちゃんが隣にいたからじゃないの?」

 「え、ええ?」

 「アホ、隣が折原だって気付いていないのにそれが理由になるわけないだろうが」

 「そ、そうだよ寺岡君……」

 「いや、潜在意識で感じていたとか?」

 『そうだとしたら……それはまさに愛の力なの!』

 「へぅぅ〜〜〜」



 久平&みさおコンビの発言にみさおは真っ赤になってすっかり小さくなってしまう。



 「潜在意識か……確かにゆっくり寝れたしそういうのもはあるのかもな、夢もみなかったし……」

 『夢?』

 「ああ、ちょっと俺は夢見が悪いことが多くてな。だからうなされて起きることが多いから学校では寝ないようにしてるんだ」

 「なら、ますますそれはみさおちゃんのおかげである可能性が高いね」

 「何でだ?」

 「なぜならばみさおちゃんはあの時間、ときおり祐ちゃんをなで―――――むぐぐっ!?」

 「な、なんでもないの……」



 久平が言い切る前に普段の彼女からは考えられないスピードで久平の口をふさぐみさお、勢いあまって鼻まで押さえている。



 「……? ……どうかしたのか?」

 「い、いえ……別に」



 祐一の問いにこれまた彼女にしては珍しく慌てた様子でごまかしを入れる。

 ちなみにこのやりとりの間も久平の口と鼻は押さえられたままである。



 『なんか寺岡くんの顔が青くなってきたの……』



 一人久平の危機に気付いた澪だったが彼女がそれをみさおに伝えたときには久平の意識は飛ぶ寸前だったと記載しておく。















 「うう……死ぬかと思ったよ」

 「ご、ごめんなさい……」

 「ま、まあ今回は僕も悪かったから別にいいよ。

  ふう、しかし人類は大いなる損失をするところだったよ、なんせ僕という類稀なる美を失うところだったんだから」

 「そんだけ軽口を叩ける余裕があるんだったらもう十秒はいけたな」

 『相沢くん、それはさすがの寺岡くんといえど死ぬかもしれないの』

 「き、君たちは……僕をなんだと……?」

 「……くすくす」

 「ま、まあこの話はいずれ蒸し返すとしてだね」

 「蒸し返すのかよ……」

 「祐ちゃん、余計な突っ込みはいれないで。

  で、話は戻るけど祐ちゃんは入る部活は決めたの?」

 「……別に俺は部活に入る気はないんだが」

 「ええ、なんで!?」



 思い切りなんてこったい!? と言った感じの表情で祐一を見る久平。

 対する祐一はそんな親友に対し、ただ一言の理由を言う。



 「めんどくさい」

 「め、めんどくさいって……そ、そんな理由!? 駄目だよ祐ちゃん。

  祐ちゃんの入る部活でマネージャーをしたいと考えている女子が何人いると思ってるの?」



 「寺岡君……な、なんでそこで私を見るの?」

 『言ってもいいの?』

 「へぅ……」



 「いるわけないだろそんなの」

 「あのね祐ちゃん……知らないのかい? 祐ちゃんは女子から人気あるよ?

  中学の時だってそうだったじゃない」



 ピク



 久平の言葉に反応する教室に残っていた数人の女子。

 みさおも澪とのやりとりを止めてさりげなく耳を傾けていたりする。



 「はぁ? あれはお前目当ての女子だろ。お前は中身はともかく見た目は一級品だからな……」

 「当然! 僕の美貌は世界一だからねっ! ……ってなんかさりげなく酷いことも言ってない?」

 「気のせいだ」

 「そうかなぁ……まあ、祐ちゃんにも僕とは別の魅力があるんだよ」

 「……はぁ、お前の言うことはたまによくわからん」

 「あとはもうちょっと女の子の気持ちを考える頭があればねぇ……」



 どこか遠い目で祐一を見つめる久平なのだった。















 「……で、なんで俺までお前らの部活選びに付き合わねばならないんだ?」

 「まあまあ、そういわないの。ひょっとしたら祐ちゃんが入りたくなるような部活があるかもしれないし♪」

 『そうなの』

 「あ、あはは……」



 ぼやく祐一を連れ、廊下を歩くあいざわーず。

 配置は先頭に久平、そのすぐ後ろに祐一、少し離れて澪&みさおとなっている。



 「んで、折原たちはもう入る部活は決まってるのか?」

 『演劇部なの』

 「同じく」

 「私は……手芸部に」

 「折原はなんとなくわかるが……上月と久平が演劇部?」

 「まあね、僕の美が生かされる部活といったらこれしかないだろう?」

 『お芝居好きなの』

 「確かに久平は長い髪のうえ整った顔立ちだから男役も女役もこなせるだろうが……それにしたってお前が演劇とは」

 「はっはっは、初公演はこの僕の独壇場を見に来ておくれよ祐ちゃん」

 「こいつ……もう主役とった気でいやがる……」

 『最初は演劇部にGOなの♪』















 演劇部部室。



 「こんにちはー」

 「あら、入部希望者さんかしら?」

 「はい、1-Aの寺岡久平です。あと後ろのリボンの娘もです」

 「上月さんね、四月から時折見学に来てくれていたから知ってるわ」

 『よろしくお願いします』

 「こちらこそこれからよろしくね、上月さん、寺岡君。

  知ってるかもしれないけど私は演劇部部長の深山雪見(みやまゆきみ)よ」

 「部長さんでしたか……ところで他の部員の皆さんは?」

 「ああ、今日は他の人は新入部員の勧誘に出てもらって私がその受付をしているのよ。

  ……ところで後ろの二人は貴方たちのお友達?」

 「そうです。まあ……付き添いみたいなもんです」

 「……お、同じくです」

 「そうなの……残念ね、二人とも才能ありそうなのに」

 「そ、そんな……」

 「……皆にそういうこといってませんか?」

 「あら、ばれちゃったかしら?」



 悪びれた様子もなく微笑んで雪見はそう言う。

 それを不快とは感じさせないところは流石は演劇部の部長と言ったところだろうか。

 そんなことを祐一が考えていると部室の奥からうめき声のような音が聞こえてくる。



 「雪ちゃ〜ん、全然終わらないよ〜」

 「当たり前でしょ、そんな簡単に終わるような仕事は頼んでないもの」

 「雪ちゃんの鬼〜!」

 「みさき、人聞きの悪いこと言わないで。元はといえば借金をチャラにする代わりにあんた自身が引き受けた仕事でしょ」

 「うう〜っ」



 うめき声の正体はどうやら雪見の知り合いらしく、ひたすら恨めしげな声を発している。

 流石にそれが気になった祐一は雪見に声をかけることにする。



 「あの、深山先輩……今のは一体?」

 「ん? ああ、あの声の主は私の幼なじみなのよ。たまりにたまった私からの借金をチャラにする代わりに

  小道具の片づけをしてもらっているのよ」

 「幼なじみ、ですか」

 「僕らと同じようなもんですねー」

 「そうなの?」

 「ええ、祐ちゃんとは十年来の付き合いですから」

 「私達の付き合いもそれぐらいね。全く、あの娘は世話がやけるったらありゃしないから……」

 「よくわかります、その気持ち」

 「それは僕の台詞だよ祐ちゃん」

 「……あ、あの……お手伝いしましょうか?」

 「ううん、気持ちだけ受け取っておくわ。それにこういうことは男の子がやるものだしね?」



 そう言って雪見は久平をちらりと見て微笑む。

 が、久平はその声が聞こえなかったらしくこれからの自分の活躍予想図を描いて悦に入っているようだった。



 「はっはっは、まあ僕が入部するからには大船に乗ったつもりでいて下さい!」

 『がんばるの』

 「期待してるわね」



 「折原、知らないってことは幸せなことだよな……」

 「うん……」















 「雪ちゃ〜ん、おなかが空いてきたよ〜」





 あとがき

 ようやく五月編突入です。
 この話は二年の一月までやるわけですからこのペースだと100話をこえる計算に…………(汗)
 ま、まあここからは一月につき1〜3話でいくつもりなんで何とかなるかな?
 さて、五月は部活のお話です。
 仲良くなったということでみさおが多少砕けた感じのしゃべりになりました、丁寧語のままでもよかったんですがそれだと
 ちょっとかぶり気味のキャラがいるもので…………
 今回は先輩コンビが登場、でも出番は少ないかもしれません。みさき先輩に至っては名前すら紹介してもらってないし(笑)

 次回は今回の続きです、祐一君もとある部に入部することになります。