―――――御音高校2年C組、HR後



 「浩平、普通の自己紹介だったね。去年は『俺は折原浩平、特技は永遠に逝くことなナイスガイだー!!』とかやってたのに」

 「うるさい長森。今の俺にそんな小さいことを気にしている余裕はないのだ」

 「どうしたの、何か悩み事?」

 「うむ、我が愛妹みさおのことだ」

 「みさおちゃんのこと?大丈夫だよ、ちょっと人見知りするけどすぐにいいお友達ができるよ」

 「しかしなあ……」

 「もう、浩平は本当にシスコンなんだから……」

 「うっさいわ、だよもん星人」

 「わたしだよもん星人なんかじゃないもんっ!」



 瑞佳の反論になってない反論を黙殺し、浩平は再び悩みはじめる。



 「あー……心配だー」

 「あ、そうだよっ。今日みさおちゃんを助けてくれたあの男の子……ええと相沢君だったっけ、あの人とか」

 「駄目っ!!!」

 「わ、まだわたし全部言ってないのにー」

 「駄目ったら駄目ー!! いくらみさおを助けようが男なんて駄目ー!! みさおー! お兄ちゃんは許しませんよー!!」

 「浩平、なんか話が飛躍してるよ……」



 思いっきりクラスの注目を初日から集めまくる二人。

 しかし浩平も瑞佳もそれに気付かない、そして知るよしもない。

 自分たちのこんなやりとりがこのクラスの名物として珍しいものではなくなるということに……















 (…………)



 そんな二人に懐かしそうな、それでいて悲しそうな瞳を向ける少女。

 彼女が主役達の集いに加わるのはもう少しの時を要する。






























 DUAL ONE’S STORY     第5話   四月、主役達の集いD






























 御音高校1年A組、HR後



 「…………」

 (ニコニコ)

 「祐ちゃん、スマイルっ!」

 「……え、えと……」



 どこか疲れたような少年とやたらテンションの高い少年、そして笑顔の少女とその後ろでオロオロする少女。

 ……奇妙な集団が出来ていた。

 HR、自己紹介と一学期お決まりの行事を終え、休み時間。

 大半の生徒は新しく友達を作ろうと隣人に話し掛けたり、顔見知りと集まって雑談をしていたりする。

 多分にもれず祐一も久平と同じクラスだったので二人で雑談をしていたのだが……



 「俺にどうしろというんだ……」



 呟く祐一。

 その目の前にはひたすらニコニコとした笑顔を向けてくるショートカットでリボンをつけた少女、

 そして久平と同じく、同じクラスになったらしい折原みさおの姿があった。



 『こんにちは』



 少女―――――上月澪がスケッチブックにそう文字を書いて祐一&久平に見せる。

 自己紹介の際、先生が説明していたので祐一は覚えていたのだがこの少女は声を出せない。

 ゆえにスケッチブックにこうして文字を書いてコミュニケーションを図るらしいのだが……



 「こんにちはー。あ、自己紹介したからわかるとは思うけど僕の名前は寺岡久平、好きに呼んでくれていいよ」

 「相沢祐一。同じく好きに呼んでもらってかまわない」

 「ちなみに僕と祐ちゃんは親友同士なんだよー♪」 



 陽気に自己紹介をする親友を尻目にこっそり溜息をつく祐一。

 別に澪に対して何か思うところがあるわけではない、祐一はそういう差別や区別はしない性格なのだから。

 ただ、初日からこんな怒涛の展開になるとは思ってもみなかったためか、それについていけない祐一は疲れを感じるのである。



 『上月澪(こうづきみお)なの』

 「……お、折原みさおです」



 自己紹介は続く。

 しかし澪はともかくみさおが自己紹介する必要はあるのだろうか、

 見る限り早くも仲良しになったように見える三人を人事のように眺めながら祐一は思った。



 「じゃあ呼び方は澪ちゃんとみさおちゃんでいいかな?」

 (うんっ)

 「は、はい……それでいいです」

 「祐ちゃんはどうするー?」

 「はぁ……お前は本当に初対面の人だろうがなんだろうがちゃん付けで呼ぶな……」

 「いやー、照れるなぁ♪」

 「ほめてない……そうだな、俺は上月と折原って呼ばせてもらうよ」

 『それじゃ……みさおちゃん、相沢くん、寺岡くんなの』

 「わ、私は澪ちゃん、寺岡君…………あ、あ、相沢君で」

 「なんで祐ちゃんの名前だけどもるの?」

 「そ、そんなことは……」

 『みさおちゃん、顔真っ赤なの』

 「へぅ……み、澪ちゃんまで……」



 (……ま、いいか。こういうのも嫌いじゃないし……)



 騒がしいクラスメート達に苦笑する祐一だった。















 「ところで……なんで俺達に話し掛けてきたんだ?」



 久平と澪によるみさおいぢめ(?)が終わりを迎えたころ祐一は気になっていたことを口にする。

 それを聞いて澪は「?」という表情を作り、みさおは何故か面目なさそうな表情になる。



 「あ、あの……さっきはうちのお兄ちゃんがご迷惑をおかけしちゃって……」

 「ああ、そのことか。さっきも言ったが……」

 「大丈夫、全然気にしてないから♪」

 「なんでお前が答える……」

 「え、そう言うつもりだったんでしょ祐ちゃん?」

 「いや、そうだけど」

 「じゃあいいじゃない。やっぱり何事もラブ&ピースだねー」

 「……ときどき、お前がうらやましくなるよ、俺は」

 「……ま、また私、置いてきぼりですか……?」

 「あ、すまない」

 「い、いえ……」



 朝やったばかりのやりとりが再現される。

 一人その光景に加わらなかった澪は祐一の側に寄ってくると祐一の袖を引っ張り、スケッチブックを掲げた。



 『漫才?』



 「違う」

 「似たようなものかな?」

 「わ、私はそんなつもりじゃ……」



 三者三様だった。















 そして三分後。



 「まあ、こうしてこの四人が仲良くなったのも何かの縁だし……僕たちでグループを形成しようではないか!」

 「なんでそうなる」

 「いや、もう僕ら仲良し四人組だし」

 「……そうなのか?」

 「だってホラ」



 久平が指をさした方向に祐一は視線を向ける。

 その先には……



 (わーい♪)

 「……仲良し、ですか?」



 両手を挙げて賛成の意を示す澪と、仲良し宣言が嬉しかったのであろう、微かな笑顔のみさおの姿があるのだった。



 「…………」

 「さあ、あの二人の姿を見ても祐ちゃんはこの事実を否定できるのかい!?」

 「いや、その…………」



 (じーっ)

 (……うる)



 「さあ、さあ、さあ!!」

 「いや、あの……………………その通りです」



 祐一、(何故か)敗北。



 「ヴィクトリィ♪」

 『なの♪』



 いえい! とハイタッチを交わす久平&澪。



 「そういうわけなんでこれから僕たち四人は学校生活内運命共同体『あいざわーず』ね」

 「まて」

 「なんだい、『相沢チーム』の方が良かったのかい?」

 「それはなんとなく駄目だ……じゃなくて、何だその『あいざわーず』って」

 「僕たちのグループ名」

 「なんで俺の名前が使われているんだ」

 「リーダーだから」

 「いつから俺がリーダーになった」

 「さっき」

 「…………もう好きにしてくれ」



 盛大に頭を抱えてあきらめの境地に至る祐一だった。

 するとそんな彼の頭に手を伸ばすみさお。



 「……あの、元気出してください」



 ナデナデ……



 「おお、二回目だ」

 『何か可愛いの』



 ナデナデ……



 「……なあ、折原」

 「……ナデナデ……」

 「あのー、ちょっと流石にこの状況じゃあ恥ずかしいんだが」

 「……ナデナデ……」

 「……久平、上月、何とかしてくれ」

 『や』

 「遠慮しとく」

 「き、きさまら……」



 頭を撫でつづけてくるみさおに困り果てる祐一をさも面白そうに鑑賞する久平&澪。

 ちなみに久平以外は気付いていないが先程からこの四人は容姿のせいか、かなり目立っていたりする。

 よってこの光景をクラスの大半が興味深そうに見ていたりするのだった。



 「…………はっ」

 「ようやく止まったか」

 「あ、あの……私……」

 「何で俺の頭を撫でる」

 「え、えと……く、癖で」

 「癖?」

 「はい……よく病院にいた小さい子とかに……」

 「俺は小さい子と同レベルなのか……」



 病院、という言葉とそれを言ったときのみさおの一瞬陰った表情が少し気にはなったものの、

 それほどまだ親しくもないのに言及するのはどうかと考え、突っ込みの方を入れることにする祐一。



 「へ、へぅ……すみません」

 「いや、なんか楽になったのは確かだし……サンキュ」

 「ど、どういたしまして」

 「……おい、顔が赤いぞ折原。お前こそ大丈夫なのか?」

 「い、いえ、これはその……」



 ある意味二人の空間を形成し始めた祐一とみさお。

 そんな二人のすぐ側でひそひそ話を開始する影が二つあった。



 「澪ちゃん。あの二人、どう思う?(ひそひそ)」

 『いい感じなの(ひそひそ)』

 「やっぱり澪ちゃんもそう思う?でも祐ちゃんはあんなんだからねー(ひそひそ)」

 『鈍感さんなの?(ひそひそ)』

 「そうなんだよ……全く、見た目は僕に少し劣る程度だっていうのにもったいない。

  っていうか澪ちゃんがひそひそってつける必要はないんじゃ……」

 『気分なの』

 「そ、そうなの?ま、まあここは祐ちゃんに一発頑張ってもらうしか―――――」

 「何をだ?」

 「そりゃここで優しい言葉の一つでも……って、ゆ、祐ちゃん!?」

 「何を話していたのかな、久平、そして上月?」

 『な、なんでもないの』

 「そ、そうそう」

 「じゃあ、これはなんなんだ?」



 こめかみに筋を一本はしらせながら祐一が澪のスケッチブックを指す。



 「み、澪ちゃん! さっきのページ開きっぱなし!」

 『しまったなのー!』

 「……くすくす……」















 かくして、後に(というかすでに)1年A組の名物と化す『あいざわーず』はこうして始まったのだった。





 あとがき

 というわけで澪登場です。
 『あいざわーず』はかの有名な美坂チームを超えられるよう頑張ります。
 そしてなんか思ったより久平と澪がいいコンビです、別にこの二人をくっつける気はないですけどねー(笑)
 まあ、苦労とか精神的疲労とかは全部祐一君にいきそうなこの四人、自分でもこれからが楽しみです。
 さて、この五話にて主要登場人物は大体登場しました。あ、もう一人のヒロインって澪じゃないですよ?
 じゃあ誰なんだって?ちゃんと今回出てますよ…………ちょびっと。

 さて、次回はようやく五月です。部活関連の話なのであの人たちが出るかも?